「古美術かぞえうた —名前に数字がある作品—」が、東京・南青山の根津美術館にて、7月15日(月・祝)まで開催中です。
本展では、根津美術館の古美術のコレクションの中から、名前に数字がある作品に注目。
「かぞえうた」のように作品名の中の数字をたどりつつ、数字に込められた多彩な意味を楽しく紹介する展覧会です。
展示の見どころなど、注目すべきポイントをまとめました。
※館内は撮影禁止です。展示室内の写真は美術館の許可を得て撮影しています。
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「かぞえうた」の替え唄が作品の横に置かれているものもあるので、こちらも要チェックです。
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《染付一閑人火入》景徳鎮窯 中国・明時代 17世紀

形の特徴や技法の種類を示す数字
会場には、書、絵画、陶磁、漆工、金工、木竹工など、さまざまなジャンルの作品が並んでいますが、展示の冒頭では、名前に数字がある工芸作品を紹介。
通常は丸い形であるうつわや鏡ですが、円以外の場合は数字のある名前がつけられています。
やきもののうつわは、 三角形から十六角形まであり、なかには十一角皿なども。そのバリエーションの豊かさには驚かされます。
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展示風景より

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うつわ全体が吉祥文に包まれる《色絵鳳凰丸文八角鉢》肥前 日本・江戸時代 17~18世紀 山本正之氏寄贈

左の釜の8つの側面には、中国の名勝・瀟湘八景の各図が描かれ、数字が形だけでなく図様もイメージさせる例です。右の四角形の釜は、本阿弥光悦にゆかりの品と考えられています。
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左から、《八角尾垂釜》芦屋 日本・室町~桃山時代 16世紀、《大虚庵四方釜》京都 日本・江戸時代 17世紀

八弁花の輪郭で花弁の先がとがっている鏡を八稜鏡といい、数字が形そのものを表しています。
この中国・唐時代の小さな青銅の鏡は、拡大鏡で見ると動物などの文様が驚くほど立体的かつ精緻に表現されていることがわかります。
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《禽獣唐草文八稜鏡》中国・唐時代 9世紀 村上英二氏寄贈

数字は全体の姿をあらわすだけではなく、壺の耳や、竹花入の花窓など、作品の部分の数を示すこともあります。
右の一閑人は口縁に人形(ひとがた)をひとつ付けた形式。 向かい合わせに配置した左の品は二閑人といい、どちらも人形を井戸をのぞく閑人(ひまな人)に見立てたもの。
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左から、《染付二閑人盃》景徳鎮窯「大明萬暦年製」銘 中国・明時代 16~17世紀、《染付一閑人火入》景徳鎮窯 中国・明時代 17世紀

こちらは、3人の唐子が背中合わせに手をつないでいるかわいい作品。中国で文房具の墨台として作られたと考えられ、日本では茶の湯の蓋置として用いられました。大名茶人として著名な松平不昧の愛蔵品です。
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《青磁三閑人蓋置》龍泉窯 中国・明時代 16世紀

花入の「一重切」や「二重切」は花を入れる花窓 (花を生ける口) の数に対応していて、数字が花入の形式を表しています。
右の小堀遠州作の花入も、遠州を深く尊敬し、評価した松平不昧の愛蔵品です。左は宗和流茶道の祖で、野々村仁清を指導して茶陶を焼かせたことでも知られる金森宗和作の竹花入。
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左から、《二重切花入》金森宗和作 日本・江戸時代 17世紀 個人蔵、《一重切花入 銘 藤浪》小堀遠州作 日本・江戸時代 17世紀

そのほかにも、 陶器の「三彩」や「五彩」あるいは「七宝」などのように色や技法に関するものもあり、数字にこめられた意味はじつにさまざまだということがわかります。
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左から、《五彩人物文鉢》景徳鎮窯「大明萬暦年製」銘 中国・明時代 16~17世紀、《三彩壺》中国・唐時代 7~8世紀

書(描)かれた内容をあらわす数字
書蹟や絵画の作品名に含まれる数字の多くは、文字に書かれ、または絵に描かれた内容にかかわっています。 詩歌に詠まれ絵に描かれた著名な人物や名勝のグルーピング、あるいは年中行事にまつわる数字など、その意味するところはさまざまです。
これは江戸琳派の中心的人物である酒井抱一が、年中行事の七夕(乞巧奠)の飾りを象徴的に描いた作品。
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《七夕図》酒井抱一筆 日本・江戸時代 19世紀 小林中氏寄贈

瀟湘八景図は、中国の8つの景勝を描く伝統的な画題です。 
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《瀟湘八景図巻》狩野常信筆 日本・江戸時代 17世紀 植村和堂氏寄贈

中国・唐時代の禅僧・豊干禅師、その弟子の寒山と拾得と虎との4者が眠る四睡図は、悟りの境地をあらわす画題として禅の世界で好まれたモチーフでした。乱世を避けて隠居した4人の老人を描く《商山四晧図(しょうざんしこうず)》のように、中国の故事を画題とした作品もあります。
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左から、《四睡図》日本・江戸時代 17世紀 個人蔵、《商山四晧図》啓宗筆 日本・室町時代 16世紀 小林中氏寄贈

重要美術品《五徳義書巻》の「五徳」とは、儒教で説かれる5つの重要な道徳観念を表したもの。
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重要美術品《五徳義書巻》後陽成天皇筆 日本・桃山時代 16~17世紀 小林中氏寄贈

ほかにも《夢一文字》など文字数や、五言、七言などの詩の形式がそのまま名前につけられた作品もあります。
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展示風景より

工芸品に目を移すと、蒔絵で東海道五十三次をデザインした《五十三次蒔絵鼻紙台》は、手回り品を収める調度品。
下段右の日本橋から始まり、天板の大津までの風景が蒔絵で美しく表現されています。下段左側面には富士山、天板には近江八景も見ることができます。
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《五十三次蒔絵鼻紙台》日本・江戸時代 18世紀 福島静子氏寄贈

『古今和歌集』の序で取り上げられた6人の和歌の名人「六歌仙」が細かく表された小柄、孔子の門人のうち学徳優れた10人の高弟を表す鐔などの刀装具、十二支を配する四角形の鏡など、とても精緻な細工の品もあるので、単眼鏡をお持ちの方はぜひご持参をおすすめします。
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展示風景より

仏教美術にあふれるさまざまな数字
仏教美術では、釈迦三尊や阿弥陀三尊のように、主尊が多くの眷属(従者)を従えた群像として表現され、眷属の数を表す数字が作品名となっているものが少なくありません。
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左から、《阿弥陀三尊来迎図》日本・鎌倉時代 14世紀、《釈迦三尊像》日本・南北朝時代 14世紀

また、 「十三仏」「十六羅漢」「二十五菩薩」などのように決まった組合せを表す場合は、それが作品名となっています。 
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《十三仏図》日本・室町時代 16世紀、《十三仏図》日本・南北朝時代 14世紀

また重要文化財《華厳五十五所絵》のようにセットで制作された作品では、一部しか現存しない場合でも、数字が当初の規模を理解するための有効な手がかりとなります。
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重要文化財《華厳五十五所絵(善財童子歴参図)》日本・平安時代 12世紀

供養のためになされた写経や造塔にも数を尽くしたものがあって、数字が発願者の信仰の深さと願いの強さを伝えてくれます。
展示作品の中で最も数字が大きいのがこの《百万塔》。奈良時代に称徳天皇が国家安穏を願って小さな木製の塔を百万基作らせたことからこの名がつけられました。
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《百万塔》日本・奈良時代 8世紀

そして、同時開催展も見ごたえたっぷりです。
展示室5では、「江戸東京 駆け抜ける工芸」を開催中。
幕末明治の蒔絵をリードした柴田是真の蒔絵と漆絵、海野勝珉らの刀装具、明治期に古名品の模写模造制作を行い、古美術の調査研究において大きな役割を果たした小川松民と加納鉄哉などの、漆工・刀装具を中心とした36点の作品が紹介されています。
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《漆絵画帖》柴田是真作 日本・明治時代 明治21年(1888)

寿老人、福禄寿をモチーフにした、明治期を代表する彫金家・海野勝珉による刀の小柄。
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左から、《福禄寿図小柄》海野勝珉作 日本・明治時代 明治37年(1904)、《寿老人図小柄》海野勝珉作 日本・明治時代 明治32年(1899)

「季夏の茶の湯」では、客に暑さを感じさせないよう、水に濡らしてしっとりとさせ清涼感を演出する備前窯の花入、口が大きく開いた青井戸茶碗、天井から吊るすことで風に揺らぐ様子を楽しむ釣舟花入など、涼しげな茶道具が並んでいます。
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《備前蕪口擂座花入》備前 日本・桃山~江戸時代 16~17世紀

1階の展示室3「仏教美術の魅力」では、飛鳥~鎌倉時代の小金銅仏と仏像が表された銅製の仏具が展示されているので、こちらもお見逃しなく。
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《観音菩薩立像》日本・奈良時代 8世紀

形そのものや形式、技法や組合せ、風俗や思想にかかわるものまで、作品名の中の数字がもつ意味はさまざまですが、解説を読みながら鑑賞していくと、作品の意味や制作意図についても理解が深まり、より一層楽しめます。
古美術はちょっと難しそう、敷居が高いと感じている人も、「かぞえうた」のように作品名の中の数字をたどりながら、バラエティ豊かな作品を楽しく鑑賞してみてはいかがでしょうか。

※文中で紹介した作品のうち、所蔵先表記のないものは根津美術館所蔵

【開催概要】
展覧会名:企画展 「古美術かぞえうた —名前に数字がある作品— 」
会場:根津美術館
開催期間:2024年6月1日 [土]~7月15日 [月・祝]
開館時間:午前10時〜午後5時(入館は午後4時30分まで)
休館日:毎週月曜日 ※ ただし、7月15日 [月・祝] は開館
入館料(オンライン日時指定予約):一般 1,300円(1,100円)、学生 1,000円(800円)、中学生以下は無料
※( )内は障害者手帳提示者及び同伴者1名の料金
根津美術館ウェブサイト:https://www.nezu-muse.or.jp