山種美術館の所蔵作品を中心に花を描いた名品を一堂に公開する展覧会、特別展「花・flower・華 2024─奥村土牛の桜・福田平八郎の牡丹・梅原龍三郎のばら─」が、東京の山種美術館にて、5月6日(月・振休)まで開催中です。
チラシ

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花の絵画で展覧会場が満開
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四季折々に咲き誇る花々は、古くから日本人の心を魅了し、愛されてきました。 明治以降になると、それまでの美意識を引き継ぎつつ、近代的な感覚や季節感、西洋絵画の手法などを取り入れながら、新たな花の表現が模索され、現在にいたるまで、それぞれの個性が発揮された傑作が数多く生まれています。本展では春夏秋冬を感じさせる花の名画が集結。画壇を牽引した日本画家たちが描いた、花々の競演を見ることができます。会場では、横山大観や菱田春草、奥村土牛などの作品約60点を展示。バラエティに富んだ花の世界が楽しめます。
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展示風景より

第1章 「百花繚乱─花の絵画─」では、近代・現代の日本画を中心に、木蓮や桜から、紫陽花、 朝顔、菊、 桔梗、椿、水仙まで、春夏秋冬の花を描いた名品の数々を紹介。会場入口には、小茂田青樹が自らの画風を築いていく転換期の作品《春庭》が展示。
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展示風景より、(中央)小茂田 青樹《春庭》1918(大正7)年 

春の花として、誰もが最初に思い浮かべるのは、日本の象徴でもある桜でしょう。
横山大観《春朝》は、山桜と太陽という、大観が好んだ題材を組み合わせた作品。満開の山桜の枝は、画面の外にまで広がっています。
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横山 大観 《春朝》1939(昭和14)年頃

花鳥画を得意とした渡辺省亭の《桜に雀》は3幅対のうち1図。絵具の濃淡やかすれを活かしてモティーフが写実的に描かれています。
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渡辺 省亭《桜に雀》 20世紀(明治-大正時代)

土牛の代表作として広く知られている京都・醍醐寺三宝院のしだれ桜を描いた《醍醐》は、樹齢約170年といわれる京都・総本山醍醐寺の名木 「太閤しだれ桜」 をモデルとした作品で、絵具を何層にも塗り重ねることで生まれた柔らかな色合いは、春の暖かい陽気を感じさせます。土牛が描いたことから今では「土牛の桜」とも呼ばれているそうです。今回この作品のみ撮影OK(撮影はスマートフォン・タブレット・携帯電話に限定)。
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奥村 土牛《醍醐》1972(昭和47)年 

稗田一穂《惜春》や千住博《夜桜》など、闇夜に浮かび上がる夜桜の情景が美しい作品も見ることができます。千住博というと滝の作品のイメージが強いのですが、全く違う画風の幻想的な夜桜の情景も素敵でした。
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左から、稗田 一穂《惜春》1980(昭和55)年   個人蔵 、千住 博 《夜桜》 2001(平成13)年 

初夏には「百花の王」とも呼ばれる牡丹が開花します。 満開の花が咲き誇る牡丹を描いた福田平八郎初期の大作 《牡丹》も展示されています。

菱田春草の《白牡丹》は、風に花びらが揺れる優雅な白牡丹のまわりに、吉祥のモティーフである蝶が描かれています。川端龍子の《牡丹》は、輪郭線を用いずに淡い色彩で花弁の立体感を描き出しています。
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左から、奥村 土牛《ガーベラ》 1975(昭和50)年、菱田 春草《白牡丹》1901(明治34)年頃 、川端 龍子《牡丹》1961(昭和36)年 

速水御舟の《牡丹花(墨牡丹)》や、 御舟の創作の源となった写生帖も今回展示されています。ダリア、 山茶花、 菊、 薔薇、 梅などが描かれ、ところどころに花の名前や写生した日付が書き込まれているのを見ることができます。
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展示風景より

小林古径《白華小禽》と山口蓬春《梅雨晴》は、初夏に花を咲かせる泰山木と紫陽花を描いたもの。白い花、緑の葉、鮮やかな青色の鳥という、明快な色彩のコントラストや、丁寧に顔料を重ねて表現された鮮やかな雨上がりの紫陽花の美しさが印象的な作品です。
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小林 古径《白華小禽》1935(昭和10)年 山口 蓬春《梅雨晴》1966(昭和41)年 ©公益財団法人 JR東海生涯学習財団

川端龍子 《八ツ橋》は『伊勢物語』第九段「東下り」に取材した作品。尾形光琳《八橋図屛風》(メトロポリタン美術館)を強く意識しつつも、一輪一輪を写実的に描き、白い花を入れているのは龍子のオリジナルです。
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川端 龍子《八ツ橋》1945(昭和20)年 

暑さが和らぎ、秋風が吹き始める頃。 この季節を表す風物の代表格には、秋の七草が挙げられます。 山口蓬春 《なでしこ》は、 七草のひとつである撫子を五彩水注に生けた様子を描いた作品。奥村土牛《桔梗》は、扇面にデザイン的に桔梗を描いた作品です。
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左から、奥村 土牛《桔梗》20世紀(昭和時代) 、山口 蓬春《なでしこ》1948(昭和23)年頃©公益財団法人 JR東海生涯学習財団

大観や春草らとともに院展再興に尽力した画家の一人木村武山の《秋色》 は、菊、すすき、おみなえしなどが描かれた秋の情趣あふれる一幅。画面上部にはトンボも描かれています
速水御舟 《和蘭陀菊図》 は、日本美術の伝統 的な技法を踏まえつつ、西洋の絵具を取り入れて新たな表現を試みた作品です。
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左から、木村 武山《秋色》20世紀(大正時代) 、速水 御舟《和蘭陀菊図》1931(昭和6)年 

寒さ厳しい冬のなかでも花を咲かせる水仙や椿。奥村土牛は、自宅の庭に咲く八重白椿を清らかに描き出しています。
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展示風景より、(右)奥村 土牛《早春》1976(昭和51)年 

春の訪れを告げる梅の花を描いた作品も。
紅白梅や月と梅の取り合わせが美しいこの作品は、山種美術館創立者・山﨑種二氏が昭和初期に購入し、しばしば自室に掛けて愛蔵した絵だそうです。
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速水 御舟 《紅梅・白梅》1929(昭和4)年 

竹内栖鳳《梅園》は、梅にとまっているメジロが愛らしい作品。《松竹梅》のうち「梅」は、横山大観、川合玉堂、栖鳳の巨匠3人による合作のうちの一幅。大観は力強く存在感のある松、玉堂は風になびくしなやかな竹、栖鳳は可憐な花をつけた梅を描きました
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左から、竹内 栖鳳《梅園》1930(昭和5)年頃、竹内 栖鳳《松竹梅》のうち「梅」1934(昭和9)年

四季花鳥図のように、開花時期の異なる花々を一画面に取りそろえた作品では、多彩な花の表現が楽しめます。
田能村直入 《百花》 は、 四季の美しい花々を精緻な描写で色鮮やかに描いた画巻。「百花」の名の通り、本当に100種類の花が描かれていて、美しい植物図鑑を見ているような見ごたえたっぷりの画巻です。
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 田能村 直入《百花》1869(明治2)年 

竹内栖鳳《四季短冊》椿、朝顔、菊、水仙の取り合わせで描いた短冊。早い筆致ながら紙の滲みを巧みに用いて描いており、四枚そろうと季節の情趣がただよいます。
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竹内 栖鳳《四季短冊》1926-42(昭和元-17)年頃

《四季花鳥》は、四季の花木が配され、ところどころに配された優美な鳥が彩りを添えています。たらしこみなど琳派的な要素に西洋画の写実的な表現が加えられ、装飾性豊かな表現でありながら風景に自然な奥行きが感じられます。
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荒木 十畝 《四季花鳥》1917(大正6)年 

また、今回は日本画だけでなく、山種美術館が秘蔵する洋画作品も紹介。花のなかでも、とりわけばらを好んだ洋画家、梅原龍三郎の《薔薇と蜜柑》や中川一政の《薔薇》なども展示されています。

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人と花との関わりを描いた作品を紹介
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第2展示室では、近代・現代の作品を中心に、 花を楽しむ様子を描いた作品や、 花が主要なモティーフとして扱われている作品を紹介し、絵画を通して人と花との結びつきをみつめます。

花の中で最も親しまれてきたものに桜が挙げられます。遊楽や行事などを描いた風俗画では、人々が満開の桜の下に集い、花見を楽しむ様子が好んで取り上げられました。
会場には、満開の桜の下で、3人の女性と童が集う様子を描いた、 菱田春草 《桜下美人図》や、 江戸時代庶民に桜の名所として親しまれた東京・品川の御殿山で花見を楽しむ2人の女性を描いた渡辺省亭《御殿山観花図》(個人蔵)、白い頭巾をつけ、 褄を取って歩む女性と、桜の枝を手に振り返りながら歩く女性の姿を捉えた、 上村松園 《桜可里》など、人々が花を愛でる様子を描いた作品が並んでいます。
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左から、上村 松園《桜可里》1926-29(昭和元-4)年頃、菱田 春草《桜下美人図》1894(明治27)年 

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山種美術館 カフェ・ミュージアムショップのご紹介
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Cafe椿では、展覧会出品作にちなんだ和菓子がいただけます。今回は和菓子も華やかなラインナップ。和菓子のメニューには、もとになった絵の解説が丁寧に書いてあります。
お洒落なたたずまいのカフェスペースで、ガラス越しに季節の移ろいを感じながら、展示作品を思い浮かべつつ特製和菓子をいただくのは山種美術館ならではの楽しみです。
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和菓子

また、ミュージアムショップでは、出品作品をあしらったクリアファイル、 ポストカード、マスキングテープ、一筆箋など、ミュージアムグッズが用意されています。ショップの方にうかがうと、今回は新発売のクリーニングクロスがおすすめとのこと。メガネやスマホを拭くのに日常使いできる品です。
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本展では、春の学割を実施!大・高生は500円で鑑賞できます。学生の方はこの機会をお見逃しなく。
四季折々の花を描いた傑作が展示室を埋め尽くす、まさに “百花繚乱” な展覧会です。ぜひ美術館で、華麗な花の競演をお楽しみください。

※上記で紹介している作品のうち所蔵先表記のないものはすべて山種美術館所蔵
【展覧会概要】
特別展「花・flower・華 2024 ─奥村土牛の桜・福田平八郎の牡丹・梅原龍三郎のばら─」
会期:2024年3月9日(土)~5月6日(月・振休)
会場:山種美術館
住所:東京都渋谷区広尾3-12-36
開館時間:10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日:月曜日(4月29日(月・祝)、5月6日(月・振)は開館)
入館料:一般 1,400円、高校・大学生 500円(春の学割)、中学生以下 無料(付添者同伴のこと)
※障がい者手帳、被爆者健康手帳の提示者および介助者1名は、各1,200円
※きもの特典:きものでの来館者は、一般200円引き
※入館日時のオンライン予約が可能(詳細については美術館ウェブサイトを参照)
山種美術館ウェブサイト:https://www.yamatane-museum.jp/