伊藤若冲や長沢芦雪、上村松園、奥村土牛などによる、心が癒やされるような作品を集めて紹介する特別展「癒やしの日本美術─ほのぼの若冲・なごみの土牛─」が、東京の山種美術館にて、2024年2月4日(日)まで開催中です。

ゆるくてかわいい造形は、見ているだけで心がなごみます。江戸時代の「ゆるかわ」画家といえば、なんといっても伊藤若冲と長沢芦雪でしょう。
会場には2人のゆるくてかわいい作品が並んでいます。
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展示風景より、左:伊藤若冲《布袋図 (無染浄善 賛) 》1762(宝暦12)年賛 個人蔵  

若冲は、《動植綵絵》 のように細密な筆致による色彩豊かな作品がよく知られていますが、勢いのある筆致で対象をデフォルメした、ユーモアあふれる水墨画も多く手掛けています。
若冲と芦雪の出展作品は、ほとんどが個人蔵で、展覧会ではほとんど出品されたことがないという《布袋図》 は、ゆるキャラのような親しみのある素朴な布袋の表現が魅力です。
若冲が得意とした鶏の絵もあります。正面向きのおとぼけ顔が楽しい 《鶏図》、蜻蛉を見上げる姿が躍動的な 《蜻蛉と鶏図》など、ユーモアあふれる若冲の作品が、会場には並んでいます。
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左から、伊藤若冲《鶏図》18世紀(江戸時代)   個人蔵、伊藤若冲《蜻蛉と鶏図》 18世紀(江戸時代)  個人蔵 

素朴な味わいをもつ伏見人形は、京都の伏見稲荷の土産物として知られ、若冲が長年好んで取り上げた画題です。本作は若冲が伏見に住んだ最晩年の時期もの。リズミカルに配された布袋たちは素朴で愛らしく、ほのぼのとした雰囲気が感じられます。
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 伊藤若冲《伏見人形図》1799(寛政11)年 山種美術館

芦雪も遊び心のある作品を数多く残しました。
かわいらしい子犬がじゃれ合う姿を描いた 《菊花子犬図》は、師である円山応挙が描いた子犬の表現を踏襲しながらも、芦雪ならではゆるい表現で、愛嬌たっぷりに子犬を表現しています。
モフモフした感じのさまざまなしぐさの子犬は、どれもかわいさがあふれ、本展監修者である明治学院大学教授の山下裕二氏は「数ある芦雪の犬の作品の中でも秀作」と語っています。本展ではこの作品1点のみ写真撮影OKです。
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長沢芦雪《菊花子犬図》18世紀(江戸時代) 個人蔵 

また、懸命に岩にしがみつく子獅子がかわいい《獅子の子落とし図》、ほのぼのとした表情の七福神を描いた《七福神図》や、唐子の遊んだり、けんかをする様子を描いた《唐子遊び図》も楽しい作品です。
「奇想の絵師」として知られる若冲と芦雪のゆるくてかわいい表現を会場でたっぷり楽しんでください。
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左から、伝 長沢芦雪《唐子遊び図》【重要美術品】 18世紀(江戸時代) 山種美術館、長沢芦雪《獅子の子落とし図》18世紀(江戸時代)  個人蔵 

美しい景色や、心地よい音に癒やされたという経験が皆さんにもあるのではないでしょうか。
心癒やされる風景や音を感じられるような作品も紹介されています。 
古き良き日本の自然を描いた川合玉堂は、《山雨一過》において、峠の雨上がりの澄んだ空気や清々しい風が木々の間を通り抜けるさまを、明るい色彩で描き出しています。一方、山本丘人《風景》 は、緑豊かな自然の景色が描かれています。
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左から、川合玉堂《山雨一過》1943(昭和18)年 山種美術館、山本丘人《風景》1959(昭和34)年 山種美術館

作品の中には音が感じられる作品もあります。 上村松園 《杜鵑を聴く》 は、女性の左手の仕草によって画中にいない杜鵑を、右手に持つ傘によって雨上がりを暗示させ、鑑賞者は杜鵑の心地よいさえずりをイメージすることができます。
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上村松園《杜鵑を聴く》 1948(昭和23)年 山種美術館

《墨林筆哥》は、粘性の高い漆を使って紙に絵を描く是真独自の漆絵30図を収めた画帖で、富士山といった伝統的な画題から、瓢箪から馬の飛び出す図などユニークなものまで、風景、動物、 野菜、 茶道具など、さまざまな画題が描かれています。
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柴田 是真《墨林筆哥》1877-88(明治10-21)年 山種美術館 

小川芋銭は、茨城の牛久沼畔に住み、沼畔や田園に取材した素朴で温かみのある自由な画風の作品を残しました。春の農村のさまざまな行事を取り上げた本作は、田舎ののどかな暮らしぶりが軽妙な筆致で描かれています。隣には、現代画家の山口晃氏による個人蔵 の 《肖像画 小川芋銭》 も今回展示されています。芋銭は 「河童の芋銭」という異名を持ち、河童を題材とした作品でよく知られていますが、この作品にもちゃんと河童が描かれています。
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小川芋銭《農村春の行事絵巻》1912-26年頃(大正時代)  山種美術館

川のある風景を舞台に、春と秋の人々の営みを描いた双幅。川合玉堂の風景画のようですが、筏の上の人物や、空の鳥を仰ぎ見る馬上の人物には、大観らしいほのぼのとした表現を見ることができます。
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横山大観 《春の水・秋の色》1938(昭和13)年頃 山種美術館

ふわふわ、もふもふとした愛らしい動物たちや、子どもを描いた心が和むような作品も展示されています。
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左から、奥村土牛《山羊》1951(昭和26)年頃 山種美術館、川﨑小虎《仔鹿》1943(昭和18)年  山種美術館

ふわふわとしたアンゴラ兎を題材にした《兎》を描いた奥村土牛は、「目が楽しいから生きものを描くのが好き」と語っています。柔らかな毛並みなど兎の特徴を捉えており、画家が楽しみながら描いた様子が想像できる作品です。
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左から、川﨑小虎《ふるさとの夢》1928(昭和3)年 山種美術館 、奥村土牛《兎》1936(昭和11)年  山種美術館

京都画壇の巨匠、竹内栖鳳は動物たちの一瞬の動きを捉えることを得意としていました。幼い鴨が餌場に集う微笑ましい情景を描いた《鴨雛》や、 どこかユーモラスな雰囲気の《みゝづく》 は、簡潔な筆致で、かわいい表情やしぐさ、ふわふわとした質感を描き出しています。
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左から、竹内栖鳳《鴨雛》1937(昭和12)年頃 山種美術館、竹内栖鳳《みゝづく》1933(昭和8)年頃 山種美術館

幼い子どものあどけなさや愛らしさは、見る者を温かな気持ちにしてくれます。自身の作品に我が子を描いた 小出楢重《子供立像》では、子どもに洒落た洋服を着せ、手毬を与えてポーズをとらせています。 小茂田青樹《愛児座像》 の周囲に散りばめられた玩具の数々からは、子どもを慈しむ画家の温かな愛情が伝わってくるようです。
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左から、小出楢重《子供立像》1923(大正12)年 山種美術館、小茂田青樹《愛児座像》1931(昭和6)年 山種美術館

親しい人とすごす時間も心安らぐひとときといえるでしょう。中国の高士たちが友人と語らう様子を描いた今村紫紅《歓語》や、女性たちの内緒話の様子を描いた伊東深水《春》 など、憩いの時間を描いた作品も紹介されています。 いずれもほんわかと心が温まる作品です。
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今村紫紅《歓語》1913(大正2)年 山種美術館

江戸から明治にかけて、風俗画や美人画で活躍し、海外の万博にも出品するなど、当時は名の知れた画家であった尾形月耕。《美人花競 花やしき》は、当時浅草にできたばかりの遊園地で望遠鏡で楽しむ女性を描いています。
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展示風景より、右:尾形月耕《美人花競 花やしき》 1895-96(明治28-29)年頃  山種美術館 

戦前のある夏の日、写生旅行で訪れた山陰・但馬地方の村で、 生まれたばかりの仔牛に出会い感動した華楊が、それから30年近くたって制作したのが本作です。新たな命の神秘や崇高さに触れた華楊の感動が伝わってくるような作品です。
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山口華楊《生》1973(昭和48)年 山種美術館

作品の制作が、画家自身の心を癒やす場合もあります。20歳の年に母親を亡くした玉堂は、「観音様を描いているとどうも母に似てくる」と言い、観音像を描くことは、 玉堂にとって心の拠り所となっていたのだと考えられます。
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川合玉堂《観世大士》1946(昭和21)年頃 山種美術館 

奥村土牛は、 師と仰いだ小林古径が他界した際に、古径への思いを込めて 《浄心》を制作しました。  《蓮》 は、歴史家で日本美術院の再興に携わった齋藤隆三を追悼して描かれた作品です。 
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左から、 奥村土牛《浄心》1957(昭和32)年 山種美術館、 奥村土牛《蓮》1961(昭和36)年  山種美術館

山種美術館カフェ・ミュージアムショップのご紹介
Caf椿では青山の老舗菓匠 「菊家」 が展覧会出品作品をイメージして作ったオリジナル和菓子を5種が用意されています。奥村土牛の《兎》をモティーフにした「はくと」など、本当によくできています。展示室で心安らぐ作品を鑑賞したあとは、おいしいお茶と和菓子で、くつろぎと癒やしのひとときを過ごしてみてはいかがでしょうか。
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和菓子

ミュージアムショップでは、伊藤若冲や長沢芦雪、竹内栖鳳、奥村土牛らが、愛らしい動物を描いた作品をあしらったゆるかわグッズや、季節のおすすめグッズが揃っています!長芦雪《菊花子犬図》の絵はがきは特に人気だそうです。ほかにも作品にちなんだクリアファイル、マスキングテープ、一筆箋などのグッズが用意されていますので、ぜひ立ち寄ってみてください。
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日常が大きく揺らぎ、不安定な世界情勢が続く今、 「マインドフルネス」、「ウェルビーイング」といった心の動きを意識する言葉が時代のキーワードとなっています。 その背景として、 自分自身の内面と向き合い、心を癒やすことが求められているのかもしれません。心が安らぐ日本美術が並んだ、心地よい空間で、作品とともに癒やしのひとときを過ごしてみませんか。

【展覧会概要】
特別展「癒やしの日本美術  ─ほのぼの若冲・なごみの土牛─」
会期:2023年12月2日(土)~2024年2月4日(日)
会場:山種美術館
住所:東京都渋谷区広尾3-12-36
開館時間:10:00~17:00(入館は16:30まで)
休館日:月曜日(1月8日(月・祝)は開館)、12月29日(金)~1月2日(火)、1月9日(火)
入館料:一般 1,400円、高校・大学生 500円(冬の学割)、中学生以下 無料(付添者の同伴が必要)
※障がい者手帳、被爆者健康手帳の提示者および介助者1名は、一般 1,200円
※きもの特典:きものでの来館者は、一般200円引き
※割引や特典の併用不可
※入館日時のオンライン予約が可能(詳細については山種美術館ウェブサイトを参照)
【問い合わせ先】
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル / 受付時間 9:00~20:00)
山種美術館ウェブサイト:http://www.yamatane-museum.jp