横浜・そごう美術館にて「111年目の中原淳一展」が開催中です。
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戦前~戦後にかけてファッション、美容、インテリ ア、雑誌など幅広い分野で時代をリードする先駆的な存在であった中原淳一 (1913-1983) 。 生誕111年を記念する本展では、マルチクリエイターと呼ぶべき多彩な活躍をした中原の仕事を、 『少女の友』 『それいゆ』 『ひまわり』 『女の部屋』 などの雑誌の仕事を中心に、色鮮やかな表紙原画、 今もなお新鮮なスタイル画、 暮らしを 楽しく華やかに彩った雑誌付録などで振り返ります。
また、人形、洋服、ゆかた、着物、帯などの中原による作品、そして中原が残した遺品などから、その人柄や美意識も紹介。約600点以上の作品で、今なお輝き続ける彼の多彩な魅力を紹介します。
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会場風景

終戦からちょうど1年後の1946年8月15日、中原は自身初の 編集長を務める雑誌 『それいゆ』を創刊しました。長く続いた戦時下の暮らしと敗戦後の混乱のなかで、戦後日本の「一輪の花」として創刊された 『それいゆ』は、多くの女性たちから圧倒的な支持を得ます。
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右の真っ赤な表紙の冊子が1946(昭和21)年8月15日に発刊した女性誌『ソレイユ』の創刊号です。

1章 「新しい」少女のためにー『少女の友』からはじまる淳一の歩み
1章では、 中原が少女雑誌 『少女の友』でデビューした昭和初期から、 敗戦の1945(昭和20)年までをたどります。
戦前に発行されていた雑誌『少女の友』で中原の挿絵画家としての活躍がはじまりました。 専属画家として挿絵や表紙絵を描くようになり、やがて 同誌の付録の企画や、 「女学生服装帖」 というファッションページの連載など、編集にも深くかかわるようになります。
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雑誌付録の可能性を広げた『少女の友』の付録

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初めてのファッション連載 「女学生服装帖」の展示

西洋的で、大きな瞳と細長い手足をもった中原の「新しい少女」像は、現代のアイドルのように  熱狂的に支持されました。そのエッセンスは、後に少女漫画に大きな影響を与えたともいわれます。

中原は『少女の友』 に掲載された数多くの小説に挿絵を提供していました。 なかでも当時よく知られていたのが川端康成や吉屋信子の作品です。著名な作家の文章と中原の挿絵のコラボレーションは、当時大きなブームとなりました。
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会場風景
  
1939(昭和14)年には、自身がデザインした商品を扱う店「ヒマワリ」を開店。キャラクターグッズの先駆けともいえる「淳一グッズ」を販売しました。

その後、日中戦争が長期化し戦時色が強まると、 中原の描く少女は非難の対象となり、1940(昭和15)年6月号を最後に同誌を去ります。 
中原が大手出版社を離れて刊行した、初の著作となるスタイルブック 『きものノ絵本』 は爆発的な売上を記録しました。
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初めての単行本『きものノ絵本』 の展示
     
 「白雪姫」 「人魚姫」 「シンデレラ姫」 などよく知られた7つの ストーリーに、 描き下ろした絵が添えられた大人の女性に向けの童話集。 中原は童話には生きていく上で重要な事柄が含まれていると考えていました。
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大人の女性のための童話『七人のお姫さま』の挿絵原画の展示

2章 「美しい暮らし」のためにー
2章では、戦後に中原が 「美しい暮らし」というコンセプトのもと、戦後を生きる大人の女性をターゲットに、自らが編集長となって創刊した雑誌『それいゆ』での仕事を中心に紹介します。
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それいゆ1954年秋号 表紙 © JUNICHI NAKAHARA/HIMAWARIYA

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会場風景

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『それいゆ』表紙原画の展示

 中原が病に倒れる1960(昭和35)年まで刊行された『それいゆ』は、「美しい暮らし」 を目指すさまざまな提案を行いました。
服は作って着るものであったこの時代、 女性たちが服を作る際に参照したのはスタイル画と呼ばれるイラストでした。 「それいゆぱたーん」 は、 新しいスタイルを中原の絵によって紹介する連載です。
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新しいスタイルの教科書「それいゆぱたーん」 の原画の展示

1952(昭和27)年に、およそ1年間のパリ滞在を終えて帰国した中原は、パリでの体験をもとにブラウス、スーツなどにアイテムを絞って特集したスタイルブックを次々と刊行します。 
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「着るもの」への思いをかたちにしたスタイルブックの展示

中原デザインの洋服を復刻した作品も会場に展示されています。写真のモデルは「のん」さん。
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会場風景

1953(昭和28)年頃から、 スタイル画として描いていた洋服や 和服を実際に制作し、写真に撮って雑誌に載せるようになり ます。下は着物に使われる絣や、端の処理が不要で扱いやすいフェルト素材など、中原の提案する洋服でしばしば用いられる技法、素材により、撮影のために制作されたスカートです。
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会場風景

また『それいゆ』では、 アップリケやパッチワークを施したもの、ツイードなどの洋服地を使ったものなど、  洋服感覚で着られる「新しいキモノ」も紹介されました。
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新しい感覚で着られるキモノの展示

『それいゆ』には、髪型、 美容などファッションに関する記事、 インテリア、 手芸など衣食住を「美しく」 整えるよう説く記事とともに、文学、 音楽、美術などに関する内面を磨くための 記事も多く掲載されました。インテリアの記事では、住宅事情が厳しい戦後間もない時期に、室内を心地よく過ごせるように整えることを提案。 下の原画では、コンパクトな空間にさまざまなものがきちんと収まっているさまを、細部まで丁寧に描いています。
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「子供は大人のおさがりばかりで楽しく暮らす」(『それいゆ』第16号原画) 1951年 © JUNICHI NAKAHARA/HIMAWARIYA

長期療養を経て、1970(昭和45)年に出した雑誌『女の部屋』は、「明るく楽しく美しいくらしの本」 をキャッチフレーズに、ファッションに関する記事や、手芸、 料理など実用的な記事とともに、女性の生き方に関連するエッセイなどを多く掲載しま した。 同誌は中原の体調不良により5号で廃刊となり、中原の雑誌編集の最後の仕事となりました。
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『女の部屋』1号~5号の展示

3章 平和の時代の少女のために
3章では、中原が 『それいゆ』 と同様に力を注いで制作したふたつの雑誌『ひまわり』 『ジュニアそれいゆ』を紹介します。
中原は1947年に雑誌『ひまわり』を創刊。「よき女性の人生は、よき少女時代を送った人に与えられる」 という考えに基づいて作られた雑誌は、 新しい時代の少女たちに夢を与えていきました。
『ひまわり』では女学生に向けて、効率よく手芸などの作業ができる机や、押入の工夫など、普段の暮らしをより良くしていく工夫をいくつも提案しました。 
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『ひまわり』原画の展示

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雑誌『ひまわり』の付録を紹介する展示

連載 「みだしなみせくしょん」 は、『ひまわり』創刊号から1952(昭和27)年まで連載された少女のみだしなみについての記事。最新スタイルの紹介に加え、着こなしやヘアスタイル、小物選びなど、ファッションに関する事柄を絵と文章で丁寧に紹介しています。
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 連載 「みだしなみせくしょん」原画の展示

1951(昭和26)年4月、中原はパリに向かいました。 展示作品は、パリ滞在中に描かれ『ひまわり』に掲載されたものです。 背景のない 「スタイル画」の描き方にとらわれず、パリの少女と街並みを丁寧に描き、読者にできるだけ多くのパリの情報を届けようとしました。 
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パリの風景を描いた作品の展示

パリ滞在中に構想を練り、帰国後創刊されたのが 『ジュニアそれいゆ』 です。
「10代のひとの美しい心と暮しを育てる」というキャッチフレーズのもと、ポップで明るく楽しい内容の雑誌は、男女問わず当時の若者の人気を集め、本誌では、当時のスターへの登竜門となった「ミスター&ミス・ジュニアそれいゆ」代表の選出も行われました。
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表紙原画(『ジュニアそれいゆ』第6号) 1955年 © JUNICHI NAKAHARA/HIMAWARIYA

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『ジュニアそれいゆ』 原画の紹介

4章 中原淳一の原点と人形制作
多彩な仕事をした中原のキャリアが、1930(昭和5)年の 人形作家としてのデビューからはじまったことはあまり知られていません。 4章では、10代のころに作られた詩画集や油絵、人形作品など、アーティストとしての中原の足取りを 「人形」を軸にたどります。
1928(昭和3)年、15歳で画家を志し日本美術学校絵画科に入学した中原。 義姉に中原がデザインし縫い上げた洋服を着せて描いたという、中原のデビュー前の貴重な油彩画も展示されています。
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会場風景

中原は、自身が関わった雑誌において、人形の詳細な作り方や、人形を部屋の 「飾り」として描いたイラストを頻繁に掲載するとともに、少女や少年が人形を持っている作品も多く描いており、彼にとって人形が特別なものであったことがわかります。
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人形がモチーフとして描かれた作品の展示

1959(昭和34)年に第一線を退いた後には身近な材料から男性の人形を制作しています。これらの人形は、発表や販売といった目的ではなく、自身のために制作したものでした。中原が第一線を退いてからも人形を作ることに関心を寄せていたことがわかります。
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会場風景

会場では、中原が雑誌に記したさまざまな言葉も紹介されています。表面的なことや流行ではない 「本質的な幸福や美しさ」 を問い続けた彼の言葉は、今を生きる私たちにもさまざまな気づきやヒントを与えてくれそうです。
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会場風景

ミュージアムショップでは、出展作品をモチーフにした本展オリジナルグッズや、「それいゆ」復刻版など貴重な品も用意されています。
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中原は「『いつまでも古くならないもの』−それこそがむしろもっとも『新しい』ものだとはいえないでしょうか。 」と語っていますが、今見ても古風な感じが逆に新鮮に感じられる展示作品がそのことを証明しているように思えます。
本展は年末年始も無休で開催されます。111年目でも少しも色褪せることのない中原淳一の活動の軌跡を、会場でじっくり楽しんでみてください。

《開催概要》
【展覧会名】111年目の中原淳一展
【会場】そごう美術館(そ ごう横浜店6階)
【会期】11月18日(土)~2024年1月10日 (水)。会期中無休。
【開館時間】午前10時~ 午後8時。入館は閉館の30 分前まで。※12月31日(日)、 24年1月1日(月・祝)は 午後6時閉館。
【入館料】一般1400 円、大学・高校生1200円、中学生以下無料