新緑や紅葉の名所として知られる東福寺は、京都を代表する禅寺の一つです。
その寺宝をまとめて紹介する特別展「東福寺」が京都国立博物館にて開催中です。
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東福寺の歴史と禅宗文化の全容が体感できる展覧会
鎌倉時代、南宋で学んだ円爾(えんに)を開山に迎えて創建された東福寺とその塔頭には、中国伝来の文物をはじめ、建造物、彫刻、絵画、書跡など、禅宗文化にまつわる文化財が多数伝えられており、現在国指定を受けている数は、国宝7件、重要文化財98件に及びます。

本展は、禅宗文化の殿堂というべき東福寺の全貌を紹介する初めての大規模展覧会。
絵仏師・吉山明兆(1352~1431)による記念碑的大作《五百羅漢図》(重要文化財)全幅を修理後、初公開するほか、巨大な彫刻や調度品、長く秘められてきた書画の優品などが一堂に会します(会期中展示替えあり)。
また、今春の東京会場と比べて約30件展示数が増え、さらに50件余りの作品が京都会場限定で公開されています。
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会場入口

第1章「東福寺の創建と円爾」
東福寺ができたのは13世紀の鎌倉時代。南宋禅宗界の重鎮である無準師範(1177~1249)に師事した円爾(1202~80)が、最初の住職となりました。右は円爾の師である無準師範の肖像。自らの法が中国から日本へと受け継がれた証として、無準が自ら賛を書いて円爾へと付与した”頂相”と言われるもので、中国・南宋時代の肖像画の傑作としても知られています。
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展示風景より、右:【国宝】《無準師範像》自賛 中国・南宋時代 嘉熙2年(1238)京都・東福寺 前期展示

第1章の展示作品のなかでも注目したいのが、無準師範筆の国宝《円爾宛印可状》です。円爾は、中国での6年間の修行を経て、卒業証書にあたるこの《円爾宛印可状》を授かりました。南宋時代の無準師範の直筆を見ることができる貴重な機会です。
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展示風景より、左:【国宝】《円爾宛印可状》無準師範筆 中国・南宋時代 嘉熙元年(1237) 京都・東福寺 展示期間:10月7日~11月2日

帰国後、円爾は博多に承天寺を建立。その後朝廷の最高実力者である九条道家の知遇を得て京都に巨刹、東福寺を開きました。以来、寺は災厄に耐えて古文書や書跡、典籍、肖像画など無準や円爾ゆかりの数多の宝物を守り継いできました。
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展示風景より、右:【重要文化財】《九条道家像》乾峯士曇賛 南北朝時代 康永2年(1343)京都・東福寺 前期展示

会場では円爾の伝記を記した年譜や円爾の語録など、円爾ゆかりのさまざまな作品が紹介されています。
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展示風景より

日本に禅宗文化を根付かせた円爾の肖像は、生前に描かれ自賛を付したものなど多数が残っています。
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展示風景より、円爾の肖像などの展示

払子(ほっす)とは、動物の毛や麻などをたばねて持ち手をつけたもの。中国の禅宗では、僧侶が教えを伝える時の道具になり、儀式の時に用いました。これは円爾所用とつたわる品。
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展示風景より、ガラスケース内:《彫木柄払子》円爾所用 中国・南宋時代 13世紀 京都・東福寺 通期展示

第2章「聖一派の形成と展開」
円爾の後継者たちを聖一派と呼びます。円爾は禅のみならず天台密教にも精通し、初期の聖一派の僧たちも密教をよく学んでいました。また彼らはしばしば中国に渡り、大陸の禅風や膨大な知識、文物を持ち帰りました。東福寺周辺には彼らの書や、面影を伝える肖像画や彫刻、袈裟などの所用品が多数現存し、いずれも禅宗美術の優品ぞろいです。
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展示風景より

聖一派は国際性豊かで好学の気風が強く、名僧を多く輩出し、禅宗界で非常に重要な地位を占めました。
会場には、円爾が弟子に与えた文書や、円爾の高弟の肖像画、事績を記した伝記など、聖一派の僧ゆかりの貴重な品々が展示されています。
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展示風景より、右:虎関師錬(1278~1346)が編纂した日本仏教の歴史書【重要文化財】《元亨釈書》虎関師錬等筆 南北朝時代・14世紀 京都・東福寺 通期展示(会期中冊替えあり)

癡兀大慧(1229~1312) は、 円爾の弟子。本像は73歳のときの肖像画で、豊満な体つきと目を見開きにらむような顔が印象的な肖像画の名品です。
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展示風景より、右:【重要文化財】《癡兀大慧像》自賛 鎌倉時代・正安3年(1301)京都・願成寺 前期展示

展覧会初出品の《虎  一大字》は円爾の孫弟子で、漢詩文や書にも長けた当代きっての学僧である東福寺第15代住職・虎関師鍊 が「虎」の文字を揮毫(きごう)した書。何を描いているのか簡単にはわからないところが、禅問答のようですね。近世の禅画や現代の絵文字にも通じるどこか楽しい作品です。
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展示風景より、左:《虎  一大字》虎関師錬筆 鎌倉~南北朝時代 14世紀 京都・霊源院 通期展示

第3章「伝説の絵仏師・明兆」
本展で特に注目したい第3章では、東福寺に所属した絵仏師・吉山明兆(きっさんみんちょう)にフォーカス。
南北朝から室町時代にかけて活躍した、禅僧にして絵仏師である明兆は、江戸期までは雪舟とともに並び称されるほどに高名な画人で、自由な水墨の線と、鮮やかな極彩色による独自の画風で、弟子たちと共に巨大な伽藍にふさわしい大作を数多く手がけました。

重要文化財《五百羅漢図全50幅が初公開!
明兆の長い生涯を通じて描かれた数多くの大作は、ほとんどが東福寺に大切に伝えられており、そのなかでも本展の目玉となるのは、重要文化財《五百羅漢図》。明兆の代表作で、東福寺の伽藍再興運動のなか、 至徳3年(1386)に完成したことが記録により判明する、基準作としてもきわめて重要な作品です。14年におよぶ修理を経て、本展で初めて全幅が公開されています。原本のうち1幅は失われましたが、 東福寺に45幅、東京・根津美術館 に2幅現存し、さらに本展開催の直前、 ロシア・エルミタージュ美術館に1幅が現存することが確認できました。
本展では明兆筆47幅、狩野孝信筆2幅、復元模写1幅の全50幅が、会期中に入れ替えながら公開されます。
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展示風景より

羅漢は釈迦の弟子で、仏道修行の最高段階に達した者を指します。本作は、中国・宋時代には天台山に住むと信じられるようになっていた500人の羅漢の姿を1幅に10人、50幅で計500人描いています。
羅漢たちが様々な神通力を使いながら生き物たちと交遊したり、龍王や水神などのもとに飛来するさまや、僧院で集団生活を送る様子が生き生きと表現されています。極彩色と水墨がみごとに融合した、中世を代表する羅漢図で、洗練された美しい描線や衣装の金泥文様など、細部にも注目です。 
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展示風景より

一部作品の隣には、4コマ漫画で作品の解説を描いたパネルも設置されており、初めて羅漢図を鑑賞する人も、どのような場面なのか理解できるようになっています。
例えば第1号幅の燃えない経典・仏教と道教の法力比べの図では、道教経典は燃えてしまいますが、仏教経典は燃えないどころかピカッと光を放ち、それを見た羅漢たちがパチパチと拍手~、など奇怪でありながらもユーモラスな表情やしぐさの羅漢たちが楽しめます。
ほかにも羅漢たちの熱心な勉強会や、ピクニック気分で海中の龍王のもとへやってきた羅漢たちなど、仏教のことをあまり知らなくても、とても楽しめる作品です。中国から伝えられた大徳寺蔵「五百羅漢図」の図像を参照して描かれています。
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展示風景より、左:五百羅漢図(復元模写)平成30年(2018)京都・東福寺 通期展示
修理を経て、鮮やかに甦った明兆の冴えわたる画技をじっくりと堪能してみましょう。展示替えがありますので、詳細は展覧会公式サイトでご確認ください。

巨大仏画の《白衣観音図》
数多くの大作や連作で知られた明兆ですが、とくにこの《白衣観音図》は縦約3.3メートル、横約2.8メートルという圧倒的な大きさを誇ります。白衣観音とは、目的に応じて33種類に姿を変えて現われる観音様の一つ。法会に掛ける大きな尊像として描かれました。
多くの白衣観音図は斜め向きですが、本作は正面向き。荒れ狂う波濤上の岩に観音は静寂といってもいいたたずまいで鎮座しており、スピード感のある流れるような筆遣いで、静と動を見事に表現した明兆の代表作の一つです。
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【重要文化財】《白衣観音図》吉山明兆筆 室町時代・15世紀 京都・東福寺 前期展示

他にも室町幕府4代将足利義持の発願による《三十三観音図》など、会場には明兆の代表作品がずらりと並んでいます。
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展示風景より

後期展示の《達磨・蝦蟇鉄拐図》は後に東福寺で修行することになる雪舟が見たと考えられる作品で、江戸絵画を先取りしたような明るく伸びやかな筆さばき、ユーモラスな蝦蟇・鉄拐の表現が魅力。《五百羅漢図》に比べると、筆致が自由奔放になっているのがわかります。

第4章「禅宗文化と海外交流」
本章では、東アジアの禅宗や日中交流の実情をうかがわせる品々を紹介します。
中国で禅を学んだ円爾は、帰国に際 して数多くの文物を持ち帰りました。 円爾と彼の地の仏教界との交流は帰国後も続き、さらにそのネットワークは円爾の法を嗣ぐ聖一派の禅僧たちにも 受け継がれていきました。
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展示風景より、中国・宋時代の皇帝が禅寺に下賜した書を刻んだ石碑の拓本などの展示

彼らは外交や貿易においても重要な役割を果たし、その後の禅宗文化の基軸となるさまざまな文物が東福寺に集積されていきました。海外交流の一大拠点として発展した東福寺は、日本の文化史上においても重要な役割を果たしたのです。《太平御覧》は、円爾がもたらした宋王朝勅纂の百科事典。宋王朝の知を結集した本作のように、円爾は禅宗に付随して様々な中国文化をもたらしました。
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展示風景より、【国宝】《太平御覧》 中国・南宋時代 12~13世紀 京都・東福寺 通期展示 (会期中冊替えあり)など

これは東福寺塔頭の永明院から出土した中国製の白磁。当時日本の寺院においてこうした中国陶磁が用いられていたことがわかる貴重な作例です。
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ガラスケース内:《白磁花卉文双耳香炉》蔵山順空石室出土 中国・元時代 13~14世紀 京都・永明院 通期展示

中国・明時代の《孔雀牡丹文堆朱大香合》や南宋、明時代の天目台は京都会場のみの展示。
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展示風景より

左は東福寺の僧が中国に滞在中に、当地の文人から送られた書斎名「哦松(松の風声)」にちなむ山水図の室町時代の写し。明との交流の足跡を今に伝える作品で、京都会場のみの展示。
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展示風景より、左:【重要文化財】《哦松図》室町時代・15~16世紀 文化庁 前期展示

第5章「巨大伽藍と仏教彫刻」
本章では、巨大なスケールが感じられる作品が紹介されています。
創建当初の東福寺は、宋風の七堂伽藍に、仏殿本尊の釈迦如来坐像をはじめとする巨像がいくつも安置され、「新大仏寺」とも称されました。
その後、伽藍の中枢をなした中世の仏殿や法堂、 方丈などは明治時代に火災で焼失しましたが、境内には中世の巨大建築が今も多くそびえ、 寺内にはそのスケール感にふさわしい破格の規模の美術工芸品や関連する書画が数多く伝わっています。
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展示風景より

最後のフロアとなる1階には、東福寺の壮大さを体感できる、像高3メートルを超える鎌倉時代の重要文化財《二天王立像》などの彫刻を展示。特大サイズの香炉や燭台、供物を置く台、展覧会初出品となる旧本尊の巨大な左手など、かつての壮大なスケールが実感できる展示作品が並んでいます。
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展示風景より

仏像では、東福寺仏殿兼法堂本尊の脇侍で、京都の禅宗寺院の創建当初の像としても貴重な重要文化財《迦葉(かしょう)・阿難(あなん)立像》や、慶派仏師の作と考えられる重要文化財《金剛力士立像》、本堂本尊の守護神である《四天王立像》など、写実的で迫力のある仏像をご覧いただくことができます。
これは、法堂本尊の釈迦如来を守護する四天王のうち、北方をまもる多聞天像。本像は鎌倉時代前半のもので、きわめて運慶風が強い作品です
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《四天王立像のうち「多聞天」》鎌倉時代・13世紀 京都・東福寺 通期展示

展覧会初出品の《仏手》は、旧本尊の巨大さをしのべる数少ない遺例です。
創建当初の本尊は、鎌倉時代に焼失し、この仏手はその後に再興された像の左手。手だけで217.5cmという圧倒的な大きさです。2代目の本尊は明治14年(1881)に焼失しますが、この左手と光背に付けられた化仏、台座蓮弁の一部が焼け残り、往時の偉容を伝えています。今回この3点は写真撮影可能です。
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左から、《蓮弁》東福寺旧本尊 鎌倉~南北朝時代 14世紀 京都・即宗院、《釈迦如来坐像(光背化仏)》東福寺旧本尊 鎌倉~南北朝時代 14世紀 京都・南明院、《仏手》東福寺旧本尊 鎌倉~南北朝時代・14世紀 京都・東福寺 いずれも通期展示

東福寺の全景を詳細に描く最古の絵画遺品、重要文化財《東福寺伽藍図》も11月7日から展示されます。

円爾が博多の承天寺を開堂した際に、無準師範が贈った一群の額字・牌字(はいじ)も展示されています。これは堂舎に掛ける扁額や牌(行事等の告知板)の手本用の書で、無準と南宋の能書家の張即之が筆者とされ、円爾とともに東福寺に移りました。この雄渾の書風は、東福寺から各地の禅院に広まり、多くの伽藍を飾ってきたのです。
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展示風景より、無準師範が円爾に贈った額字・牌字やそれをもとに制作された扁額・牌の展示

仏涅槃図は、釈迦が亡くなる場面を表わしたもので、周囲には嘆き悲しむ人びとや動物たちが描かれています。 日本最大級を誇る東福寺の涅槃図は、明兆の代表作で、署名により応永15年(1408)明兆57歳の作とわかります。力強く躍動感あふれる描線は、まさに明兆の真骨頂といえるでしょう。
毎年3月15日の涅槃会の際に本堂に掛けられますが、 修理の完了と、本展の開催に合わせて、2023年11月11日 (土)~12月3日(日)に東福寺で特別に一般公開されます。
大きすぎて美術館では展示できなかったという巨大な涅槃図。公開期間は紅葉の見ごろの時期と重なります。京都国立博物館から近いので、あわせて訪ねるのもいいかもしれません。
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通天橋をイメージしたフォトスポット

ミュージアムショップでは、本展公式図録のほか、出展作品をモチーフにしたさまざまなオリジナルグッズも用意されています。
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大本山東福寺の法務執事、爾法孝(そのほうこう)氏は「今回は地元京都、さらに紅葉の季節に開催できるということで多くの人に来てもらえることを期待している。本展では門外不出、これまで未公開だった作品も多数出展している。この展覧会が、東福寺にお越しいただくきっかけになればうれしい」と記者発表会で語っていました。

これからの時期、東福寺は境内を彩る紅葉が見事です。赤く染まる境内をのんびり散策すれば、秋の京都を満喫できるはず。そして、今年は紅葉だけでなく、お寺で大切に護り伝えられて来た寺宝の数々を通して、東福寺の長い歴史と禅宗文化の全容に触れてみてはいかがでしょうか。
会期中展示替えが多いので、事前に展覧会公式サイトでご確認のうえ、おでかけください。

【開催概要】
展覧会名:特別展 東福寺
会期:2023(令和5)年10月7日(土)~12月3日(日)
[主な展示替]
前期展示:2023年10月7日(土)~11月5日(日)
後期展示:2023年11月7日(火)~12月3日(日)
※会期中、一部の作品は上記以外にも展示替を行います。
会場:京都国立博物館 平成知新館
休館日:月曜日
開館時間:9:00~17:30(入館は17:00まで)
観覧料:一般1,800円(1,600円)、大学生1,200円(1,000円)、高校生700円(500円)、中学生以下は無料 
( )内は団体料金。※団体は20名以上
※大学生・高校生の方は学生証を提示すること
展覧会公式サイト: https://tofukuji2023.jp/
京都国立博物館ウェブサイト 特別展「東福寺」 紹介ページ:https://www.kyohaku.go.jp/jp/exhibitions/special/tofukuji_2023/