東京ステーションギャラリーにて「春陽会誕生100年 それぞれの闘い 岸田劉生、中川一政から岡鹿之助へ」が、11月12日まで開催中です。
ちらし-3

春陽会は1923年に第1回展が開催され、現在も活発に活動を続ける美術団体です。
彼らは同じ芸術主義をもつ画家たちの集団であろうとはせず、それぞれの画家たちの個性を尊重する「各人主義」が大事であると考え、油絵だけに会員を縛ろうとしない自由さが、他の美術団体と大きく異なる特徴でした。そして、会では画家たちが互いの作品を批評しながら 芸術のために研鑽を積み、 次世代を育成しながら、その基盤を固めていったのです。 
この会を舞台に、岸田劉生、小杉放菴、木村荘八、長谷川潔、中川一政ら多くの著名な画家たちが活躍しました。ほかにも加山四郎、岡鹿之助、三雲祥之助、高田力蔵などのフランス帰朝組や、中谷泰、南大路一、また版画部では長谷川潔、駒井哲郎、清宮質文等、日本美術史に名を刻む多くの画家たちが参加しています。
IMG20230915152042
左から、倉田三郎《梅雨期の根川沿い》1934 多摩信用金庫、倉田三郎《春陽会構図》1937 たましん地域文化財団

本展は、会の誕生100年を記念して開催されるもので、日本全国約50ヵ所以上の所蔵先から集めた、50名近い画家たちによる春陽会出品作を中心とした作品により、その創立から1950年代までの展開をたどります。さらに絵画だけでなく展覧会の出品目録、画家の自筆の手紙、会の洋画研究所教本などで、多角的に会の活動を紹介します。
IMG20230915142628
展示風景より

1922年(大正11年)、春陽会は民間最大の美術団体だった日本美術院の洋画部を脱退した画家たちを中心に、新進気鋭の画家たちが加わって発足しました。
創立会員と創立客員は次のとおりです。
創立会員:足立源一郎、梅原龍三郎、倉田白羊、小杉未醒(放菴)、長谷川昇、森田恒友、山本鼎
創立客員:石井鶴三、今関啓司、岸田劉生、木村荘八、椿貞雄、中川一政、山崎省三、萬鐵五郎
IMG20230915141030
左から、足立源一郎《ヴェランダ》1926 京都国立近代美術館、山本鼎《独鈷山麓秋意》1926 上田市立美術館

1923年(大正12年)に第1回展が開催され、会員たちは油彩だけでなく、形式にとらわれず、大きさもさまざまな複数の作品を出品。一般からも作品を公募し、 2,466点のうち入選作はわずか51点という厳選でしたが、春陽会の展覧会は注目を浴び、好調なスタートとなりました。
IMG20230915141011
左から、第1回展出品作 倉田白羊《冬の林檎畑スケッチ》1923 常楽寺美術館、倉田白羊《冬の林檎畑》1923 常楽寺美術館

創立客員の半分は、岸田劉生を中心とした草土社の主要メンバー(岸田、木村 荘八、椿貞雄、中川一政)でした。
岸田は東洋や日本の古典美に傾倒しており、 独自の芸術的価値観による絵画を発表し、公募作の公開審査にも力を尽くしました。
本展では、春陽会設立から第3回展まで、岸田が春陽会に所属していた時期の作品11点が出品されています。
油彩では三味線を弾く麗子像や芝居絵、日本画では寒山拾得図と二人の麗子像も登場。さまざまな画風、ジャンルの岸田作品が楽しめます。
IMG20230915141330
展示風景より、岸田劉生《寒山拾得》1925 京都国立近代美術館など、岸田劉生の作品

IMG20230915141506_BURST000_COVER
岸田劉生《麗子弾絃図》1923 京都国立近代美術館、岸田劉生《白狗図》1923 福島県立美術館(河野保雄コレクション)

日本や東洋の古美術に傾倒していた岸田。岸田の死後出版された中国「宋元の写生画」や、岸田の所蔵品が掲載された単行本なども参考出品されています。
IMG20230915141828
展示風景より

岸田に共鳴して春陽会に出品をはじめた三岸好太郎は、第1回展入選以降、春陽会内を主要な場として活躍しました。第3回展に初出品した女性洋画家の先駆者である三岸節子が、三岸好太郎と19歳で結婚した頃に描いた自画像も展示されています。

河野通勢は、大正から昭和にかけて活躍した画家。岸田との出会いをきっかけに草土社へ参加し、大衆小説の挿絵画家、銅版画家としても活躍しました。空想と聖性をはらんだ奇想ともいえるような画風が特徴です。
IMG20230915151523
展示風景より、河野通勢の作品

岸田が春陽会を去った後、春陽会の活動を支えたのは木村荘八と中川一政でした。 
本展では、木村荘八の代表作《パンの会》(岐阜県美術館寄託)、第1回直木賞作家川口松太郎が傑作と推す《川岸夜(明治一代女)》(東京ステーションギャラリー)、といった作品に加え、絵と文により日本芸術院恩賜賞を受賞した「東京繁昌記」のために描かれた《銀座みゆき通り》(東京ステーションギャラリー)など木村の代表作が展示されています。
IMG20230915151952
展示風景より、木村荘八《私のラバさん》1934 愛知県美術館など、木村荘八の作品

新聞挿画で活躍した木村ですが、特に永井荷風著「濹東綺譚」 の挿画は彼の金字塔として高く評価されています。
IMG20230915142540_BURST000_COVER
木村荘八《永井荷風著「濹東綺譚」》1937 東京国立近代美術館(会期中展示替えあり)

ほかにも、萬鐵五郎や、のちに文化勲章を受章した梅原龍三郎など、春陽会で活躍したさまざまな画家の作品が展示室を彩ります。
IMG20230915151705
展示風景より、日本的なキュビスム作品や南画風の水墨作品など、精彩を放つ作品を発表してきた萬鐵五郎の作品

春陽会の画家たちは描く題材に日本の風土を選ぶ傾向がありましたが、長谷川昇らフランスに滞在する画家らも第1回展から作品を発表し、会に新しい風を吹き込みました。
IMG20230915142048
創立会員の一人、長谷川昇の作品

1928年に版画家の長谷川潔の申し出により、パリに春陽会連絡事務所ができ、フランス画壇でも評価された長谷川は1930年の第8回展に14点出品したのを皮切りに、以後もパリから出品を続けました。
IMG20230915145242
展示風景より、長谷川潔の作品

第1回展から出品している小杉放菴は、当初は油彩画を手掛けるものの、次第に水墨と淡彩による表現への関心を深め、日本画の世界において独自の境地を切りひらいていきます。本展では、第3回展の頃の油彩画に始まり、日本画を手掛けるようになった後の、洒脱で気品ある作品などが展示されています。
IMG20230915151752
左から、小杉放菴《母子採果》c.1926 小杉放菴記念日光美術館、小林徳三郎《郊外風景》1926 東京ステーションギャラリー

IMG20230915150811
小杉放菴《松下人》1935 栃木県立美術館

第二次世界大戦後、春陽会は活動を徐々に再開、1947年からは一般公募を再開します。
春陽会が復興から発展へと向かう時期、その中心となったのは中川一政と岡鹿之助の2人でした。 戦後の春陽会の顔ともいえる2人の作品も多数展示されています。
中川は力強く個性あふれた画風を確立し、文章、日本画、デザインにも優れ、春陽会の中心画家として活躍しました。
本展では、第1回展の頃の草土社風の静物画、大衆に親しまれた尾﨑士郎「人生劇場」の挿絵原画、強い存在感を放つ人物画、駒ケ岳、向日葵を描いた油彩画などが展示されています。
IMG20230915150739
中川一政《尾﨑士郎著「人生劇場」》1939- 真鶴町立中川一政美術館 中川は全7篇のうち4篇の挿絵を手掛けました。

IMG20230915152346
左から、中川一政《向日葵》1982 真鶴町立中川一政美術館、中川一政《駒ヶ岳》1973 真鶴町立中川一政美術館

藤田嗣治に師事し、約15年間のフランス滞在中、サロン・ドートンヌなどで活躍した岡鹿之助。1939年に帰国後は日本にとどまり、亡くなるまで春陽会を中心に作品を発表しました。今回、最後の春陽会出品作である《段丘》(個人蔵(群馬県立近代美術館寄託))も展示されています。
IMG20230915152811
展示風景より、岡鹿之助の作品

春陽会では、1952年からは版画家により版画部の審査を独自で行うようになります。駒井哲郎が審査員をつとめ、北岡文雄、清宮質文らが個性的な作品を発表しています。
IMG20230915152414
清宮質文《キリコ(カットグラス)》1959 横須賀美術館、《早春の静物》1977 横須賀美術館(いずれも展示期間9/16~10/15)

本展に関わる調査の中で新たにわかったことがありました。フランク・ ロイド・ライトの助手として、帝国ホテル建設のために来日したレーモンド。戦争のため 一時帰国するものの、戦後再来日して晩年まで日本に滞在し、モダニズム建築の作品を多く残し、日本人建築家にも大きな影響を与えました。その傍ら1955年から1974年まで春陽会の客員会員として計8回ほど出品していたのです。しかし若い頃から絵を好んで描いていた彼が、春陽会に出展するようになった経緯は不明だそうです。
IMG20230915152208
左から、アントニン・レーモンド《題不詳[コンポジション]》1959 レーモンド設計事務所、撮影者不詳 資料写真[東京都美術館の春陽展会場で展示設営するアントニン・レーモンド]レーモンド設計事務所

本展に関連して、本展担当学芸員などの登壇者が展覧会に登場する主要画家の中から一人を選び、推しの作品を挙げてその魅力を語るというイベント「関係者クロストーク 私の推し作品」が10月3日(火)に日比谷図書文化館で開催されます。詳細は春陽会ホームページをご覧ください。

知名度のある花形の画家たちにより組織され、帝国美術院、二科会に拮抗する第3の洋画団体として誕生した春陽会は、現在も新しい美術の可能性を模索しながら、更なる発展へと活動を続けています。
本展では、春陽会で活躍したさまざまな画家たちの多彩な作品が楽しめます。この機会に近代日本美術史における春陽会の意義について考えてみてはいかがでしょうか。

【開催概要】
展覧会名:春陽会誕生100年 それぞれの闘い 岸田劉生、中川一政から岡鹿之助へ
会期:2023年9月16日(土)〜2023年11月12日(日)*会期中、一部作品の展示替えあり
会場:東京ステーションギャラリー
住所 東京都千代田区丸の内1-9-1(JR東京駅 丸の内北口 改札前) Google Map
時間10:00~18:00(金曜日~20:00) *入館は閉館30分前まで
休館日:月曜日[9/18・10/9・11/6は開館]、9/19(火)、10/10(火)
入館料:一般1,300円、高校・大学生1,100円、中学生以下無料
*障がい者手帳等持参の方は100円引き(介添者1名は無料)
東京ステーションギャラリー|公式サイト:https://www.ejrcf.or.jp/gallery
春陽会ホームページ:https://shunyo-kai.or.jp/