「ガウディとサグラダ・ファミリア展」は、熱中症対策および混雑緩和のため、8月3日入場分から日時指定制を導入します。なお、当日券は美術館窓口で数量限定で販売します。
また開館時間延長、臨時開館を行います。
◇開館時間
午前10時~午後5時、金・土曜日は午前10時~午後8時
開館時間の変更は以下の通り。8月6日、13日、20日=午前9時30分~午後6時。8月27日~9月10日=午前10時~午後8時(入館は閉館の30分前まで)
◇休館日 月曜日。ただし8月28日と9月4日は臨時開館します
※詳細は展覧会公式ホームページを参照してください。
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企画展「ガウディとサグラダ・ファミリア展」が、東京国立近代美術館にて開催中です。
一度見たら忘れることのできないそのユニークな建築で、今なお世界中の人々を魅了し続けるとともに、日本でもファンの多い、建築家アントニ・ガウディ(1852-1926)。
本展では、長らく「未完の聖堂」と言われながら、いよいよ完成の時期が視野に収まってきたサグラダ・ファミリアに焦点を絞り、ガウディの建築思想と創造の源泉、さらにはこの壮大な聖堂のプロジェクトが持っていた社会的意義を解き明かします。図面のみならず膨大な数の模型を作ることで構想を展開していったガウディ独自の制作過程や、多彩色のタイル被覆、家具、鉄細工装飾、そして彫刻を含めたガウディの総合芸術志向にも光を当て、100点を超える図面、模型、写真、資料に加え、最新の技術で撮影された建築映像も随所にまじえながら、時代を超えて生き続けるガウディ建築の魅力に迫ります。
展覧会の構成に添って展示の見どころをご紹介します。
第2章、第3章は一部の作品をのぞき写真撮影が可能です(動画撮影は不可)。
1章 ガウディとその時代
ガウディの建築は、7件が世界遺産に登録されています。1章では、まずガウディの仕事の全体を概観したうえで、若き日のガウディの活動を時代背景と関連づけながら紹介します。
ここでは、ガウディが学生時代に制作した設計図面や、当時ガウディが大学の図書館で参照していたと思われる書籍などを紹介し、ガウディが建築家としての道を歩み始めた過程をたどります。
展示風景より、ガウディが大学の図書館で参照していたと思われる書籍
ガウディが建築家を志してバルセロナ建築学校で学んだ19世紀の後半は、産業革命とそれに伴う都市人口の急増によって、ヨーロッパの都市がかつてない規模で変貌を遂げた時代にあたります。また、最新の科学技術や世界各地の文化、風俗、建築が一堂に会する万国博覧会が競うように開催された「万博の時代」でもありました。
1878年のパリ万博に出品されたガウディが設計したショーケースは会場で評判となり、その後ガウディのパトロンとなったグエルとの関係を築く機縁となりました。このスケッチは、デザイン案を名刺の裏に描き留めたガウディのオリジナル。
アントニ・ガウディ《クメーリャ革手袋店ショーケース、パリ万国博覧会のためのスケッチ》1878年 レウス市博物館
若き日のガウディが、建築の装飾や色彩などについて記した自筆の建築論ノート。若き日のガウディの建築観をうかがうことができる貴重な資料です。
アントニ・ガウディ《ガウディ・ノート》1873-79年 レウス市博物館
2章 ガウディの創造の源泉
ガウディは古今東西の建築や自然を丹念に研究することから革新的な造形の契機をつかんでいきます。 本章では 「歴史」 「自然」「幾何学」の3つのポイントから、ガウディ独自の建築様式の源泉とその展開をたどります。
展示風景より
まず「歴史」。
まず「歴史」。
19世紀の欧米では、ゴシック建築の復興を推進するゴシック・リバイバルの動きが流行しました。ガウディはゴシック建築を深く研究し、1882年、バルセロナ大聖堂大正面のコンペが開催された際には、ネオ・ゴシック様式の設計案を描いています。
展示風景より、ガウディによるバルセロナ大聖堂の計画案などの展示
19世紀の後半は、スペインが自らの文化の源泉としてイスラム建築を再発見した時期にあたります。多彩色(ポリクロミー)の建築を構想していたガウディは、ゴシック建築の復興を推進するゴシック・リバイバルの流行にも影響を受け、カサ・ビセンスなどの初期作品で、色とりどりのタイル破片を用いたモザイク装飾を試みました。
左:アントニ・ガウディ/制作:ジャウマ・プジョールの息子《グエル公園、破砕タイル被覆ピース》1904年頃 ガウディ記念講座、ETSAB(バルセロナ・デザイン美術館寄託)
次に「自然」。ガウディは、過去の建築装飾を参照するだけでなく、実際に目にした動植物をつぶさに観察し、しばしば自然を直接石膏でかたどることで装飾を造形しました。カサ・ビセンスでは、敷地内によく茂った棕櫚の樹があったことから、その葉をかたどって鋳型を作り、門扉をデザインしています。このような自然をもとにした装飾の究極の形がサグラダ・ファミリア聖堂に結実しており、「降誕の正面」には植物や小動物をはじめとする生物の多様性が表現されています。
左:アントニ・ガウディ《カサ・ビセンス、鉄柵の棕櫚の模型》1886年頃 サグラダ・ファミリア聖堂
右:アントニ・ガウディ《カサ・ビサンス、正面のセラミックタイル》1883年 サグラダ・ファミリア聖堂ガウディは、生き物の形を想起させる有機的なフォルムの家具のデザインも手掛けています。円熟期の家具作品からは、やわらかい造形に加えて、細部への精巧なこだわりがみられます。
展示風景より、ガウディがデザインした家具(複製)
建築の形態は自然に由来すると考えていたガウディが深く研究したのが、自然のなかに発見される「幾何学」でした。 放物線をはじめとするガウディ建築の特徴である曲面の造形は、建築への幾何学の応用例といえます。
理想的なアーチを求めて行った、有名な「逆さ吊り実験」の再現模型も展示。この実験の様子を上下反転して建物のイメージを構想し、 さらに幾何学を応用することで、独特なガウディ建築の形状がつくられました。
左から:《コローニア・グエル教会堂、逆さ吊り実験》1:50 1984-85年、《コローニア・グエル教会堂、逆さ吊り実験》(部分)1984-85年 いずれも西武文理大学
ガウディは、建築史上それまでほぼ未使用だった純幾何学のパラボラ (放物線) アーチを初期の作品から使い続けました。ガウディ建築の内部空間を特徴づけるアーチは、その後ガウディ建築のシンボルとなり、タンジール計画案やニューヨークの超高層ホテル計画案の元ともなっています。
右:制作:群馬県左官組合《ニューヨーク大ホテル計画案模型(ジュアン・マタマラのドローイングに基づく)》1985年 伊豆の長八美術館
3章 サグラダ・ファミリアの軌跡
本展のメインである第3章では、サグラダ・ファミリア聖堂の制作プロセスを詳しくたどるとともに、ガウディの制作方法を紹介します。
ここでは、まずサグラダ・ファミリア聖堂建設の発起人の願いと、初代建築家の計画案、建設資金の調達方法など、ガウディ以前のこのプロジェクトの様子について紹介。
1883年にサグラダ・ファミリア聖堂の二代目建築家に就任したガウディは、ネオ・ゴシック様式のオリジナル案から脱却することを目指します。ゴシックの伝統に挑戦し、より合理的な建築を追求したのですガウディは膨大な量の模型や塑像をつくり、聖堂の設計と装飾を検討していました。 制作された模型の多くはスペイン 内戦時に破壊、散逸してしまいますが、残された模型や彫像の断片が現在の建設にも生かされています。
会場ではガウディのオリジナル模型や彫刻、破壊後に復元された模型を展示し、ガウディ独自の制作方法を紹介するとともに、計画案の変遷を明らかにします。
展示風景より、ガウディ監修『サグラダ・ファミリア聖堂建設計画案、バルセロナ』(聖堂アルバム)
などの展示
この全体模型は、2021年末のマリアの塔、2022年の福音書作家ルカ、マルコの塔の完成をふまえた最新の姿を示すものです。
制作:サグラダ・ファミリア聖堂模型室《サグラダ・ファミリア聖堂、全体模型》2012-23年 サグラダ・ファミリア聖堂会場ではガウディのオリジナル模型や彫刻、破壊後に復元された模型を展示し、ガウディ独自の制作方法を紹介するとともに、計画案の変遷を明らかにします。
展示風景より、ガウディ監修『サグラダ・ファミリア聖堂建設計画案、バルセロナ』(聖堂アルバム)
などの展示
この全体模型は、2021年末のマリアの塔、2022年の福音書作家ルカ、マルコの塔の完成をふまえた最新の姿を示すものです。
ガウディはゴシック建築を新しく解釈しながらサグラダ・ファミリア聖堂を設計しますが、中世のゴシック教会と同様に、 サグラダ・ファミリア聖堂の内部を森に見立て、現実の樹木のように枝分かれした円柱が天井ヴォールトを支える独自の仕組みを考案します。
この縮尺25分の1の身廊部模型では、パラボラ(放物線)塔群の構成や、現実の樹木のように枝分かれする柱の構造など、ガウディ建築の特徴を見ることができます。
制作:サグラダ・ファミリア聖堂模型室《サグラダ・ファミリア聖堂、身廊部模型》2001-02年 西武文理大学
制作:サグラダ・ファミリア聖堂模型室《サグラダ・ファミリア聖堂、身廊部模型》2001-02年 西武文理大学
ガウディは、約2年間かけてサグラダ・ファミリア聖堂身廊部の円柱のデザインを検討し、初期の単純な円柱の案を、最終案では二重ラセン円柱としました。ガウディは「これまでに存在した円柱、エジプト、ギリシア、ゴシック、 ルネサンス、バロックなどのラセン柱すべての総決算」だと、 その結果に大いに満足していたということです。
展示風景より、ガウディ制作の二重ラセン円柱の雌型や円柱模型などの展示
枝分かれする円柱の「節」の部分のオリジナル模型も展示。色味の異なるパーツが継ぎ合わされているのは、スペイン内戦時に破壊された模型の断片を、その欠損部分を補って復元したためです。
展示風景より、ガウディ制作の主身廊円柱の柱頭オリジナル模型や天井ヴォールト模型などの展示
会場では美しくユニークなデザインの採光塔や窓の模型なども見ることができます。
展示風景より、ガウディ制作の窓や採光塔の模型
内陣での祭典に必要な、聖具や祭服を保管する聖器室の模型
ガウディは、サグラダ・ファミリア聖堂の「降誕の正面」を、キリストの到来と幼・青少年時代を表現する「石のバイブル」として構想し、聖書の物語を表す浮彫と彫像で全面を装飾しました。ガウディは専門の彫刻家にその造形を託すことができず、自ら彫刻の制作に乗り出します。
本展では、スペイン内戦時の破壊を免れた、巻き貝、カエル、蚊の浮彫や、鳩の石膏像、女性の顔の塑像断片など、さまざまなモティーフのガウディのオリジナル彫刻を見ることができます。
本展では、スペイン内戦時の破壊を免れた、巻き貝、カエル、蚊の浮彫や、鳩の石膏像、女性の顔の塑像断片など、さまざまなモティーフのガウディのオリジナル彫刻を見ることができます。
展示風景より、「降誕の正面」のために作られたガウディ制作の彫刻。
ガウディは、植物、動物、生身の人間を石膏で型取りして彫刻の制作に生かすという独自の手法を開発しました。人体彫刻は、皮膚の質感、力強い筋肉、しっかりとした骨格まで見事に表現しており、彫刻家・ガウディの高い技量を見ることができます。
展示風景より、ガウディが制作した人体彫刻
ガウディは、サグラダ・ファミリア聖堂の高くそびえたつ12本の鐘塔の頂点の装飾デザインに工夫を凝らしました。ユニークな形状と色鮮やかなベネチア産タイルのモザイクによって彩られた「鐘塔頂華」(鐘塔の頂上につけられた装飾)は、キリストの十二使徒を表しており、キリスト教のシンボルとしても機能しています。
制作:サグラダ・ファミリア聖堂模型室《サグラダ・ファミリア聖堂、受難の正面:鐘塔頂華の模型》1:10 2003年 サグラダ・ファミリア聖堂
会場では、ガウディ没後にプロジェクトを引き継いだ人々の創意工夫や建設の推移についても紹介しています。
40年以上にわたりサグラダ・ファミリア聖堂の彫刻制作に携わる日本人・外尾悦郎さん制作の石膏像は、「降誕の正面」の彫刻群のうち、中央の扉のすぐ上の天使像の完成前に、実際に設置されていたもの。優しく親しみやすい姿と所作で、人々を聖書の世界に導く役割を果たしています。
外尾悦郎《サグラダ・ファミリア聖堂、降誕の正面:歌う天使たち》(部分)サグラダ・ファミリア聖堂、降誕の正面に1990-2000年に設置 作家蔵(外尾悦郎氏)
記者発表会で外尾さんは「サグラダ・ファミリア聖堂には、人類が必要としている大切なヒントがあった。その魅力が私を引きつけている」と語っていました。
サグラダ・ファミリア聖堂の建設は、新型コロナウイルスの影響で一時中断していましたが、2020年の秋には再開。翌年の12月には、聖堂の中央に位置する6つの塔のうち、頂点に星を頂くマリアの塔が完成、続く2022年12月には4つの福音書作家の塔のうち、ルカとマルコの塔が完成しました。建設作業は現在も進んでおり、残るマタイとヨハネの塔は2023年11月に、イエスの塔は2026年までの完成を予定しています。
本展では、マリアの塔やマルコの塔といった最新の建設事情を映像も交えて紹介しています。
左:制作:サグラダ・ファミリア聖堂模型室《サグラダ・ファミリア聖堂、マルコの塔模型》2020年
中央ガラスケース内:アントニ・ガウディ《サグラダ・ファミリア聖堂、2本腕十字架の雌型(オリジナル)》1920-26年頃
右:アンリク・プラ・ムンファレー《サグラダ・ファミリア聖堂、マリアの塔:星の冠の試作品》2020年
いずれもサグラダ・ファミリア聖堂
4章 ガウディの遺伝子
ガウディの建築は、さまざまな形で後世に影響を及ぼしています。展覧会の締めくくりとなるこの章では、世界と日本におけるガウディ研究の歴史、ガウディ様式の広がりと変容を、構造建築家・佐々木睦朗氏らのインタビュー映像も交えて紹介し、ガウディの遺伝子が現代の建築へ与える影響について問いかけます。
展示風景より、ガウディ様式の伝播と受容について考察するコーナー
展示風景より、ガウディ様式の伝播と受容について考察するコーナー
展示風景より、世界各国のガウディ研究書の展示
さらに会場では、最終段階に向かうサグラダ・ファミリア聖堂の現在の姿を、最新の映像を通して紹介。NHKが撮影した高精細映像やドローン映像で、現地でも見ることができない視点で聖堂を散策することができます。ステンドグラスを通過した光が聖堂内を彩る美しい風景は圧巻です。
音声ガイドのナビゲーターは、幼い頃にサグラダ・ファミリア聖堂の近くに住んでいたことがあるという俳優・城田優さんが担当。ガウディが遺した言葉を織り交ぜながら、建築家ガウディとサグラダ・ファミリア聖堂の魅力をわかりやすく紹介します。
展覧会特設ショップも注目。ポストカード、クリアファイル、メモ帳といった定番グッズはもちろん、聖堂の立体パズルやポテトチップスなどのスナックも用意されています。
ガウディとサグラダ・ファミリア聖堂の情報が詰まった充実の公式図録もオススメです。ふんだんなカラー図版と詳細な解説により、ガウディの創造の源泉とサグラダ・ファミリア聖堂140年の歴史をヴィジュアルでわかりやすく紹介します。彫刻制作に携わる外尾悦郎さんが創作の過程や、聖堂に対する思いを語るインタビューも掲載されています。
「ガウディとサグラダ・ファミリア展」公式図録 3,300円(税込)
会場に散りばめられたガウディの言葉も印象的です。
ガウディは「この聖堂を完成したいとは思いません。というのも、そうすることが良いとは思わないからです。このような作品は長い時代の産物であるべきで、 長ければ長いほど良いのです。モニュメントの精神は常に堅持されるべきですが、しかし聖堂はその精神を受け継ぐ幾世代もの人々の意識次第で生きも死にもし、そうした幾世代の人々と共に生き、形を取っていくのです。」と語っています。
聖堂中央の最も高い塔となるイエスの塔は2026年までの完成を予定していますが、ガウディの時代から受け継がれてきた精神とともにある聖堂は、これからも日々成長し、永遠に「未完の聖堂」なのかもしれません。
聖堂中央の最も高い塔となるイエスの塔は2026年までの完成を予定していますが、ガウディの時代から受け継がれてきた精神とともにある聖堂は、これからも日々成長し、永遠に「未完の聖堂」なのかもしれません。
サグラダ・ファミリア聖堂、2023年1月撮影
© Fundació Junta Constructora del Temple Expiatori de la Sagrada Família
いよいよ始まった「ガウディとサグラダ・ファミリア展」。日本にいながらサグラダ・ファミリア聖堂の成り立ちから現在までの歴史と、ガウディをはじめとする建築に関わってきた人々の思いを堪能できる素晴らしい展覧会です。ぜひその魅力を直接会場で感じ取ってみてください。
【開催概要】
「ガウディとサグラダ・ファミリア展」
会期:2023年6月13日(火)〜9月10日(日)※会期中一部展示替えあり
会場:東京国立近代美術館 1F企画展ギャラリー
住所:東京都千代田区北の丸公園3-1
開館時間:10:00〜17:00(金・土曜日は20:00まで)
※入館はいずれも閉館の30分前まで
休館日:月曜日(7月17日(月・祝)は開館)、7月18日(火)
観覧料:一般 2,200円(2,000円)、大学生 1,200円(1,000円)、高校生 700円(500円)
※( )内は20名以上の団体料金
※中学生以下、障がい者手帳の所持者および付添者(1名)は無料(入館時に学生証などの年齢のわかるもの、障がい者手帳などを提示)
※内容は変更となる場合あり(最新情報については展覧会公式サイトなどにて確認のこと)
展覧会公式サイト:https://gaudi2023-24.jp/
■巡回情報
・滋賀会場
会期:2023年9月30日(土)〜12月3日(日)
会場:佐川美術館
住所:滋賀県守山市水保町北川2891
・愛知会場
会期:2023年12月19日(火)〜2024年3月10日(日)
会場:名古屋市美術館
住所:愛知県名古屋市中区栄2-17-25(芸術と科学の杜・白川公園内)