企画展「北斎バードパーク」が、東京のすみだ北斎美術館にて、5月21日(日)まで開催中です。
北斎らが描く鳥に着目
「冨嶽三十六景」に代表される風景画を手がけた北斎は、鳥を描いた作品も数多く残し、錦絵に花鳥画のジャンルを確立させることにも貢献しています。
企画展「北斎バードパーク」では、北斎一門が描くさまざまな鳥や、鳥の意匠を紹介。バードパークで色々な鳥たちとふれあうように、その美しさや画技の素晴らしさが楽しめる展覧会です。
※会場内は撮影禁止です。展示室の写真は美術館の許可を得て撮影したものです。【第 1 章 バードウォッチング】
第1章「バードウォッチング」では、鳥の種類ごとに、北斎や門人が描いた66種の鳥が紹介されています。
展示風景より
日本の飼鳥の歴史は古く、平安時代には貴族の娯楽として鳥が飼われていました。 江戸時代には飼鳥が庶民にも一般的なものとなり、 飼育されていた鳥の種類は百をはるかに超えていたそうです。鳥の飼育書も多数出版され、鳥ブームが巻き起こっていました。
丹羽桃溪《『摂津名所図会』巻之二 孔雀茶店》 寛政10年(1798) 個人蔵 【通期展示】
孔雀茶屋や花鳥茶屋(珍しい鳥や植物の見世物小屋)なるものも存在し、現代の人々が動物園を訪れるように、江戸の人々も鳥を見物に出かけていました。
丹羽桃溪《『摂津名所図会』巻之二 孔雀茶店》 寛政10年(1798) 個人蔵 【通期展示】
現在ではあまり知られていない鳥や特に注目の鳥はパネルで紹介されています。
展示風景より
北斎の錦絵(多色で刷られた精巧な木版画)の花鳥画は、天保期(1830-44)に、版元・西村屋与八から大判・中判花鳥画のシリーズが出版され好評を博しました。本展では、そのシリーズの中から前後期あわせて5点が展示され、美しい色合いや質感表現の花鳥画が楽しめます。
北斎はその他にも花鳥画をテーマとした錦絵を制作しており、そのジャンルを確立させるのに一役買ったと考えられています。
展示風景より、西村屋版大判・中判花鳥画シリーズの作品
モズとオオルリを描いた西村屋版中判花鳥画シリーズの1点。モズが不敵な笑みをうかべた人間の表情のようにも見えます。
葛飾北斎《鵙 翠雀 虎耳草 蛇苺》天保5年(1834)頃 【前期展示】
左:葛飾北斎《杜鵑》文化5、6年(1808、 09)頃 【前期展示】
右:葛飾北斎《来燕帰雁図》 享和年間(1801-04) 吉野石膏コレクション蔵 (すみだ北斎美術館寄託)【前期展示】
《杜鵑》は、夜空に浮かぶ月を大きく描き、墨の濃淡や線の肥痩(ひそう)でホトトギスの羽の艶やかさや体の柔らかな質感を描いた名品です。
葛飾北斎《杜鵑》文化5、6年(1808、09)頃【前期展示】
『北斎漫画』には実在の鳥と想像上の鳥が混ざって描かれており、右ページ中央には比翼鳥(ひよくのとり)という頭が2つある鳥が描かれています。中国の想像上の鳥で、眼と翼が一つしかないため、雌雄が常に一体となって飛ぶといわれています。
葛飾北斎《『北斎漫画』三編 風鳥 ベラ鷺 鵆 比翼鳥 鸎 烏骨鶏 駝鳥 山鵲 烏鳳 錦雞 鷚 蝋嘴 白鷴 鵲》文化12年(1815)【通期展示】
【第 2 章 鳥グッズ】
本章では、身の回りを彩るものとして愛された鳥の姿を描いた作品が紹介されています。
現在も鳥グッズ専門店があるほど鳥のデザインは人気ですが、江戸時代にも着物の文様や工芸などに鳥の意匠があしらわれていました。
北斎は櫛や煙管(きせる)のデザインなども手がけており、ここでは北斎一門が手掛けた鳥グッズのための魅力的なデザインが紹介されています。
展示風景より、煙管(きせる)の絵手本
江戸時代の人はこんなおしゃれな櫛を使っていたんですね。
展示風景より、櫛の絵手本
本章では北斎一門の独創性と優れたデザイン感覚を見ることができます。
展示風景より、刀装具の絵手本
着物の模様の絵手本
鳥の意匠が描かれた着物を着た人を描いた作品も展示されています。
右の作品では、空摺(からずり)で表現された懐紙の上に、シリーズ名の「馬尽」にちなみ、馬の模様の菖蒲革と呼ばれるなめし革で作った煙草入れが置かれ、根付にはインコと思われる鳥が描かれています。
展示風景より、(右)葛飾北斎《馬尽 駒菖蒲》【前期展示】
【第 3 章 舞台装置としての鳥】
絵画に描かれた鳥たちは、描かれた場面の季節や人物の思いなど、様々な情報も伝えてくれます。
本章では、江戸時代の小説の挿絵など、鳥が舞台装置としての役割を果たしている作品を紹介しながら、そこに登場する鳥たちに込められた意味を読み解きます。
展示風景より
ウグイスなら春、オンドリなら早朝など、鳥は季節や時刻を表す舞台装置となりました。
展示風景より
場所を特定したり、音の表現として鳥が描かれることもあります。ミヤコドリは、川を描く際に、その場所が隅田川であることを伝えるための舞台装置となりました。
葛飾北斎『略画早指南』後編 文化11年(1814)頃 【通期展示】
鳥の描写により、 朝の静けさとその中に響き渡る音が表現されています。
左の作品では、権威の象徴である鷹を描くことで、画面に格式高さを加えています。右の作品では料紙箱と硯箱には長寿のシンボルであるツルと亀の意匠が金属粉で摺られ、めでたさを演出しています。
左:葛飾北斎 《桜に鷹》天保5年(1834)頃 【前期展示】
右:葛飾北斎《稚遊拳三番続之内 紙》文政6年(1823) 【前期展示】
読本といわれた小説の挿絵では、白いサギで心の清らかさを表したり、黒いカラスで今後の物語の凶兆を暗示するなど、登場人物の性格を表現したり、物語の展開を暗示するために鳥が描かれることもありました。
浮世絵には、しばしばとまり木で休むフクロウや頭巾をかぶったフクロウが登場します。とくにフクロウの一種のミミズクは、邪気を払うという伝承がありました。
展示風景より
頭巾をかぶって居眠りをしているフクロウの姿は、とてもチャーミングです。
葛飾北斎 《『卍翁艸筆画譜』 山鴞 》天保14年(1843) 【通期展示】
北斎、ニワトリを歩かせて絵画パフォーマンス!
北斎が本物の鳥を制作の演出に使用した「竜田川に紅葉の図」のエピソードも紹介されています。
向井大祐、勝川ピー(鶏)《竜田川に紅葉の図》【通期展示】
「北斎バードパーク」リーフレットも販売中
すみだ北斎美術館が所蔵する西村屋版中判花鳥画の作品図版と解説に加え、美術館初公開の「杜鵑」などをオールカラーで紹介した「北斎バードパーク」リーフレットもミュージアムショップで販売中です。
すみだ北斎美術館が所蔵する西村屋版中判花鳥画の作品図版と解説に加え、美術館初公開の「杜鵑」などをオールカラーで紹介した「北斎バードパーク」リーフレットもミュージアムショップで販売中です。
形態/ページ数 A4縦長8ページ
発売日 2023年3月14日(火)
販売場所 すみだ北斎美術館1階ミュージアムショップ
ミュージアムショップでは、鳥にちなんださまざまなグッズも用意されています。
綴プロジェクト高精細複製画「十二ヶ月花鳥図」特別展示
本展に合わせて、鳥や植物が精緻に描写された肉筆画「十二ヶ月花鳥図」(原画:フリーア美術館蔵)の高精細複製画が特別展示されています。右から順に1月から12月までの各月に対応する花鳥図が描かれた、複製とはいえ見事な作品です。
北斎の作品をとおして、江戸時代の鳥ブームと鳥との暮らしを楽しむ人々の様子が楽しめる展覧会。この春は、すみだ北斎美術館でバードウォッチングを楽しんでみてはいかがでしょうか。
※文中のうち、所蔵先表記のない作品は、すべてすみだ北斎美術館蔵 【展覧会概要】
企画展「北斎バードパーク」
会期:2023年3月14日(火)~5月21日(日) ※前後期で一部展示替えを予定
[前期 3月14日(火)~4月16日(日) / 後期 4月18日(火)~5月21日(日)]
会場:すみだ北斎美術館
住所:東京都墨田区亀沢2-7-2
開館時間:9:30~17:30(入館は17:00まで)
休館日:月曜日
観覧料:一般 1,000円、高校・大学生 700円、65歳以上 700円、中学生 300円、障がい者 300円、小学生以下 無料
※本展のチケットで、会期中の観覧日当日にかぎり、AURORA(常設展示室)および常設展プラスも観覧可
美術館ホームページ:https://hokusai-museum.jp/