特別展「世界遺産登録10周年記念 富士と桜─北斎の富士から土牛の桜まで─」が、東京の山種美術館にて5月14日(日)まで開催中です。
富士と桜展_A4チラシ_表

富士山や桜を題材にした作品を紹介
日本を象徴する存在である富士山は、2013年にユネスコの世界遺産に登録され、2023年で10周年を迎えます。本展はこれを記念して、富士山を描いた日本画と浮世絵とともに、同じく日本の象徴である桜を題材とした日本画をあわせて紹介する展覧会です。

巨匠たちによる富士図の競演
第1章 「富士山を描く」では、江戸時代から現代に至る、富士山を描いた作品を紹介。
富士山は、古くから、さまざまな形で表現されてきました。美術の分野では、葛飾北斎や歌川広重の作品がよく知られています。

《冨嶽三十六景》は北斎の代表作であり、 浮世絵に名所絵というジャンルを確立させた歴史的意義も大きいシリーズ。 中でも有名な「凱風快晴」は、筋雲のたなびく空を背景に、富士山のみを描き、 山肌の赤茶色、 空の青、 裾野の緑という色彩の対比が、大胆な構図をさらに引き立てている名作。 「凱風」とは初夏の頃に南から吹く穏やかなそよ風のこと。 
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左から、葛飾 北斎《冨嶽三十六景 凱風快晴》 1830(文政13)年頃 、歌川 広重《東海道五拾三次之内 平塚・縄手道》1833-36 (天保4-7)年頃(いずれも前期展示 3/11~4/16)

《冨嶽三十六景》を発表した後も、富士山という主題を追求し続けた北斎。その集大成であり、北斎絵本の最高傑作と言われる『富嶽百景』(個人蔵)も特別公開されています。
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葛飾 北斎 『富嶽百景』初編  1834(天保5)年 浦上満氏蔵(頁替あり)ほか
 『富嶽百景』は全3編からなる墨摺絵本で、 富士図の他に、富士山創成の神話、 故事人物、名所風俗など、多彩な画題を描いています。その数なんと102図。《冨嶽三十六景》が色鮮やかな錦絵なのに対し、『富嶽百景』は単色で描かれ、入念な彫り、薄墨の繊細な表現も見どころです。

また、近代・現代の日本画でも富士山は描き出されました。本展では巨匠たちが描いた多彩な富士山の姿が楽しめます。
横山大観は富士山の画家として名高く、生涯に 1,500 点以上の富士図を手がけたともいわれます。「心神」とは魂のこと。大観によると、古い本に富士山を「心神」と称していたといい、 「美術館をつくるなら」という条件で購入を許された作品です。
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横山 大観《心神》 1952(昭和27)年  

富士をこよなく愛し、 繰り返し描いた大観。本展では多彩な富士山の姿を描いた作品が紹介されています。
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展示風景より、横山大観の富士山を描いた作品

雄大な風景画を得意とした小松均も富士山にこだわった画家です。富士山麓に小屋を建てて大作に取り組みました。《赤富士図》は、力強く緻密な墨線で、山頂から裾野まで克明に富士山を描いています。川﨑春彦も雲とともに描いた富士山の作品を数多く制作しています。
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右から、小松 均 《赤富士図》 1977(昭和52)年、川﨑 春彦《赤富士》 1979(昭和54)年 個人蔵 、川﨑 春彦 《霽るる》 1977(昭和52)年

奥村土牛も、さまざまな場所から捉えた富士山の姿を描いています。17年ぶりに展示される作品も並んでいます。
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展示風景より、奥村土牛の富士山を描いた作品

明治を代表する女流南画家、野口小蘋の作品。右隻は箱根権現付近から富士山を望む春景、左隻は芦ノ湖に突き出た塔ヶ島の離宮を望む秋景が描かれています。
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野口 小蘋 《箱根真景図》 1907(明治40)年 

桜を描いた名品も
第2章 「桜を描く」では近代・現代の日本画を中心に、桜を描いた絵画が紹介されています。
富士山が日本を代表する山であるのに対し、日本を代表する花に挙げられるのが桜です。 桜は古くから文学や美術に表現されてきました。
桜を題材とした日本画でまず目を引くのは、 桜の花や木そのものを描いた作品です。 
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横山 大観《山桜》1934(昭和9)年

山種美術館のコレクションを代表する作品のひとつ、奥村土牛の《醍醐》。美しい色彩で描かれた咲き誇る満開の枝垂れ桜が、春霞がかかったようなやわらかな空気感とともに表現されています。
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奥村 土牛《醍醐》 1972(昭和47)年 
この作品のモデルとなっているのは、京都・総本山醍醐寺の「太閤しだれ桜」。その桜を組織培養した苗木「太閤千代しだれ」が2021年11月に美術館の玄関横に植樹され、先日開花しました。展覧会に行かれた際にはチェックしてみてください。開花状況は美術館の公式ツイッターで紹介されています。

桜をめでる花見も人気の高い画題です。 日本の花見には長い歴史があり、 物語絵や風俗画に描き継がれてきました。 上村松園ら近代の画家たちは、 近世までの伝統や古画の表現を参考にしつつ、人々が花見に興じる様子を格調高く表現しています。
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左から:上村 松園《桜可里》1926-29 (昭和元-4)年頃、松岡 映丘《春光春衣》1917(大正6)年

《桜下美人図》は、花見を楽しむ女性たちを描いた作品。画面左の女性は、菱川師宣の《見返り美人図》の影響も見受けられます。画面右下に描かれた犬のようにも見える動物もお見逃しなく。
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菱田 春草 《桜下美人図》 1894(明治27)年

近年再評価が進んでいる渡辺省亭の作品。江戸時代に吉野の桜が移植され、桜の名所となった東京・品川の御殿山で桜を楽しむ2人の女性を描いています。花鳥画が有名な省亭ですが、浮世絵的な画題の風俗画や美人画も多く描いており、鏑木清方にも大きな影響を与えたことが知られています。
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渡辺 省亭 《御殿山観花図》19 世紀(明治時代)  個人蔵 

桜の名所を描いた作品も多く展示され、奈良の吉野や京都の嵐山など、桜の名所を旅するように、名画を楽しめます。
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奥村 土牛《吉野》1977(昭和52)年

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冨田 溪仙 《嵐山の春》 1919(大正8)年頃 

第2展示室には、 夜桜を描いた作品が並びます。 夜の静寂に包まれた桜は、 薄暗がりの中で白くしっとりと浮かび上がり、日ざしの下で輝く桜とは違う表情を見せます。 右は、京都・高台寺方丈前庭の咲き誇る枝垂れ桜を描いた作品。左は千住博による幻想的な夜桜。 
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右から、千住 博《夜桜》 2001(平成13)年、石田 武 《春宵》 2000(平成12)年

鑑賞後は、展示室横にあるミュージアムショップで、美術館所蔵品をデザインしたオリジナルグッズを記念にいかがでしょうか。出品作品をあしらったクリアファイル、一筆箋など、作品をモティーフにしたさまざまなグッズが用意されています。
グッズ

山種美術館「Cafe 椿」では、展覧会ごとに出品作品をモティーフにした限定和菓子が提供されています。
今回も展示作品にちなんだ富士山と桜がモティーフの華やかな和菓子が登場。さらに期間限定で「お花見セット」も提供されています。カフェ・ミュージアムショップの営業時間は、美術館開館時間に準じます。
菓子

山種美術館 富士と桜 (155)

花の季節を迎える春。今年は絵画だけでなく、本物の桜も私たちを出迎えてくれます。日本画の専門美術館ならではの富士と桜の共演が楽しめる展覧会です。
※文中のうち、所蔵先表記のない作品は、すべて山種美術館蔵

【展覧会概要】
特別展「世界遺産登録10周年記念 富士と桜 ─北斎の富士から土牛の桜まで─」
会期:2023年3月11日(土)〜5月14日(日) ※会期中に一部展示替えあり
[前期 3月11日(土)〜4月16日(日) / 後期 4月18日(火)〜5月14日(日)]
会場:山種美術館
住所:東京都渋谷区広尾3-12-36
開館時間:10:00〜17:00(入館は16:30まで)
休館日:月曜日(5月1日(月)は開館)
入館料:一般 1,300円、高校生 ・大学生 500円(春の学割)、中学生以下 無料(付添者の同伴が必要)
※高校生 ・大学生は、本展にかぎり、特別に入館料が通常1,000円のところ半額
※障がい者手帳、被爆者健康手帳の提示者および介助者(1名)は、一般1,100円
※きもの特典:きものでの来館者は、一般200円引き
※複数の割引・特典の併用は不可
※入館日時のオンライン予約が可能(詳細については山種美術館ウェブサイトを参照)
※会期や開館時間などは変更となる場合あり
山種美術館ウェブサイト:https://www.yamatane-museum.jp/ 
山種美術館公式ツイッター:https://twitter.com/yamatanemuseum