東福寺の寺宝をまとめて紹介する初めての機会となる特別展「東福寺」が、東京国立博物館で5月7日まで開催中です。
新緑や紅葉の名所として知られる東福寺は、京都を代表する禅寺の一つ。鎌倉時代前期に摂政・関白を務めた九条道家の発願により、南宋で学んだ円爾(聖一国師、1202~1280)を開山に迎えて創建された東福寺とその塔頭には、中国伝来の文物をはじめ、建造物、彫刻、絵画、そして書跡など、禅宗文化にまつわる文化財が多数伝えられており、現在国指定を受けている数は、国宝7件、重要文化財98件に及びます。本展は5章構成で、そんな東福寺の魅力を余すところなく紹介します。
||第1章|| 東福寺の創建と円爾
円爾は、中国に渡り、南宋禅宗界の重鎮である無準師範(1177~1249)に師事した僧です。帰国後は博多に承天寺を建立し、その後九条道家の知遇を得て京都に巨刹、東福寺を開きました。以来、寺は災厄に耐えて古文書や書跡、典籍、肖像画など無準や円爾ゆかりの宝物を守り継いできました。
会場入口で迎えてくれるのは絵仏師・吉山明兆(1352~1431)による《円爾像》。円爾の肖像は多く残されていますが、本作は日本の禅僧肖像画の中でも最大級の巨大なもの。
展示風景より、(左)重要文化財《円爾像》吉山明兆筆 室町時代 15世紀【展示期間:3月7日〜4月2日】
会場入口で迎えてくれるのは絵仏師・吉山明兆(1352~1431)による《円爾像》。円爾の肖像は多く残されていますが、本作は日本の禅僧肖像画の中でも最大級の巨大なもの。
展示風景より、(左)重要文化財《円爾像》吉山明兆筆 室町時代 15世紀【展示期間:3月7日〜4月2日】
展示風景より、(左)《九条道家像》 乾峯士曇賛 南北朝時代 康永2年(1343) 東福寺【展示期間:3月7日〜4月2日】
中国・南宋禅宗界きっての高僧で、円爾の師である無準師範の肖像。無準自身が賛を書いて、自らの法が中国から日本へと受け継がれた証として円爾に与えたもの。
||第2章|| 聖一派の形成と展開
円爾の後継者たちを聖一派と呼びます。彼らはしばしば中国に渡り、大陸の禅風や膨大な知識、文物を持ち帰りました。ここでは彼らの書や、面影を伝える肖像画や彫刻、袈裟などが紹介されています。
円爾の孫弟子である虎関師錬は、詩文や書にも長けた当代きっての学僧。本作は字にも絵にも見えるような、近世の禅画にも通じるどこか楽しい作品。 展覧会初出品。
||第3章|| 伝説の絵仏師・明兆
東福寺に所属した吉山明兆は、中国の仏画作品に学びつつ、伝統的仏画と新しい水墨画表現を融合した独自の画風を築きあげ、弟子たちと共に巨大な伽藍にふさわしい大作を数多く手がけました。
今回初めて全貌が明かされる、明兆畢生の大作《五百羅漢図》は、東福寺の伽藍復興運動のさなか、30代前半の明兆とその工房が数年をかけて制作したもの。
1幅に10人ずつを描いた全50幅のうち、東福寺に45幅、根津美術館に2幅が現存します。さらに江戸初期に狩野派の絵師が復元した2幅のほか、50幅目も下絵を基に着色・復元したものが展示されています(会期中展示替えあり)。本展の準備の過程で、これまで行方不明だった《五百羅漢図》第50号が、 ロシアのエルミタージュ美術館に保管されていることがわかりました。
今回初めて全貌が明かされる、明兆畢生の大作《五百羅漢図》は、東福寺の伽藍復興運動のさなか、30代前半の明兆とその工房が数年をかけて制作したもの。
1幅に10人ずつを描いた全50幅のうち、東福寺に45幅、根津美術館に2幅が現存します。さらに江戸初期に狩野派の絵師が復元した2幅のほか、50幅目も下絵を基に着色・復元したものが展示されています(会期中展示替えあり)。本展の準備の過程で、これまで行方不明だった《五百羅漢図》第50号が、 ロシアのエルミタージュ美術館に保管されていることがわかりました。
展示風景より、《五百羅漢図》の展示
展示風景より、《五百羅漢図》の展示
修理前には折れや剥落が目立っていましたが、14年にも及ぶ修理によって素晴らしい極彩色の画面が甦りました。そこでは、羅漢たちがさまざまな神通力を駆使したり、龍王や水神などのもとに飛来する様子のほか、仏教説話に基づいた図様や、僧院における集団生活の様子などが、躍動感あふれる線描で生き生きと描かれています。
「羅漢図」などというと”堅い””難しい”イメージがありますが、作品の横に展示されている、絵の主要部分をピックアップしたふきだし付き四コマ漫画と見比べながら見ると、思わず笑ってしまうほどの面白さ。机の前で勉強会をしたり、ピクニック気分で龍宮へ行ったり、ピカッと光を放ち燃えない仏教経典を見て皆で拍手喝采したり・・・、厳格な法会の場に、このような遊び心いっぱいの絵が掛けられたのが、不思議なくらいです。
意外とお茶目で親しみやすい(?)羅漢たち。衣の文様や表情など細部にも注目してみてください。
意外とお茶目で親しみやすい(?)羅漢たち。衣の文様や表情など細部にも注目してみてください。
展示風景より、《五百羅漢図》の展示
明兆の描いた数多くの大作は、ほとんどが東福寺に大切に伝えられており、会場には室町幕府4代将軍・足利義持の発願による重要文化財《三十三観音図》など、明兆の代表作がずらりと展示されています。
展示風景より、明兆の作品
展示風景より、明兆の作品
4月11日から展示される重要文化財《白衣観音図》は縦3m以上もある巨大な仏画で、法会に掛ける大きな尊像として描かれました。多くの白衣観音図は斜め向きですが、本作は正面向き。端正な観音の顔、墨線の強さ、衣紋線の肥痩(ひそう)、スピード感のある流れるような筆の動きなど、ダイナミックな筆遣いで静と動を見事に表現した明兆の代表作の一つです。
《達磨・蝦蟇鉄拐図》は後に東福寺で修行することになる雪舟が見たと考えられる作品で、明るく伸びやかな筆さばき、ユーモラスな蝦蟇・ 鉄拐の表現が見事。若い頃に描いた《五百羅漢図》と比べると、筆致がより自由奔放になっているのがわかります。
重要文化財《達磨・蝦蟇鉄拐図》 吉山明兆筆 室町時代 15世紀 東福寺【展示期間:3月7日〜4月9日】
こうして代表作をまとめて見てみると、水墨画の先駆者として、江戸時代までは雪舟と並び「画聖」と呼ばれていた明兆の凄さが見えてきます。明兆の冴えわたる画技を、この機会にぜひ会場でご覧ください。
||第4章|| 禅宗文化と海外交流
日本に数多くの仏教文物をもたらした円爾。帰国後にも中国の仏教界との交流を継続し、これは聖一派の禅僧にも継承されました。文物の中には、今や中国には残っていない貴重なものも含まれます。彼らは外交や貿易にも積極的に携わり、その後の禅宗文化の基軸となるさまざまな文物が東福寺に集積されていきました。
中国・宋時代に皇帝の命により編纂された百科事典。宋王朝の知を結集した本作のように、円爾は禅宗に付随して様々な中国文化をもたらしました。
中国製の白磁の香炉。こうした陶磁が日本の寺院で使用されていたこと示す貴重な作例。
展示風景より、(手前ガラスケース内)《白磁花卉文双耳香炉 》蔵山順空石室出土 中国・元時代 13~14世紀 京都・永明院【通期展示】
ちょっと奇怪で、漫画風の表情やしぐさが楽しい羅漢たち。十六羅漢は、釈迦の命を受けて永くこ の世に留まり、仏の教えを守り伝える役目を負った16人の仏弟子のこと。 展覧会初出品。
||第5章|| 巨大伽藍と仏教彫刻
創建当初の東福寺は宋風の七堂伽藍に、仏殿本尊の釈迦如来坐像をはじめとした巨大群像が安置され、「新大仏寺」とも称されました。その後、度重なる災禍に遭いながらも復興を遂げ、「伽藍面」と称されてきた壮観を今に留めます。
中世の実景山水図の代表作ともみなされている、東福寺の全景を詳細に描く最古の絵画、重要文化財《東福寺伽藍図》も4月11日から展示されます。
円爾が博多の承天寺を開堂した際に、無準師範が贈った一群の額字・牌字(はいじ)は、堂舎に掛ける扁額や牌(行事等の告知板)の手本用の書です。無準と南宋の能書の張即之が筆者とされ、円爾とともに東福寺に移りました。この雄渾の書風は、東福寺から各地の禅院に広まり、多くの伽藍を飾ってきたのです。
仏教彫刻も、巨大なお堂にふさわしい特大サイズのものが紹介されています。
東福寺の仏殿に安置されていた旧本尊は、明治14年(1881) の火災で惜しくも焼失しまいますが、旧本尊の左手、光背に付けられた化仏と台座蓮弁の一部は焼け残り、往時の偉容を伝えています。展覧会初出品の巨大な左手は、手だけで217.5cm!この圧倒的な大きさをぜひ会場で体感してみてください。写真撮影もできます。
展示風景より、(右)《仏手》 東福寺旧本尊 鎌倉~南北朝時代 14世紀 東福寺【通期展示】
東福寺の本堂(仏殿兼法堂)本尊の脇侍である重要文化財《迦葉(かしょう)・阿難(あなん)立像》や、慶派仏師の作と考えられる重要文化財《金剛力士立像》、本堂本尊を守護する《四天王立像》など、会場には写実的で迫力のある仏像が並んでいます。
重要文化財《金剛力士立像》 鎌倉時代 13世紀 京都・万寿寺【通期展示】
展示風景より、(手前4軀)《四天王立像》 鎌倉時代 13世紀 東福寺【通期展示】
東福寺境内の通天橋は紅葉の名所として知られており、この時期には多くの観光客が訪れます。本展では、この通天橋を実物大で再現し、 実際に橋を渡る感覚を味わいながら、 紅く鮮やかに色づいたモミジのパノラマ風景が楽しめます。
再現とはいえ実にリアル!この光景は一見の価値があります。ここは写真撮影も可能です。
釈迦が亡くなる場面を表わした東福寺の《大涅槃図》は、明兆の代表作で、日本最大級の涅槃図です。 毎年3月15日の涅槃会の際に本堂に掛けられますが、 修理の完了と、本展の開催に合わせて今年は下記の期間に東福寺で特別に一般公開されます。秋季公開は紅葉の時期でもあるので、混雑しそうですが併せてご覧になるのもいいかもしれません。詳しくは東福寺のホームページをご覧ください。
春季公開:2023年4月15日 (土)~5月7日(日)
秋季公開:2023年11月11日 (土)~12月3日(日)
さまざまなミュージアムグッズも用意されています。
東福寺のすべてを収録した図録も販売中。本展に出品される東福寺ゆかりの宝物をフルカラーで紹介するほか、鎌倉時代から守り伝えられてきた貴重な書画や彫刻の数々や、明兆の作品をかつてない規模で収録しています。多彩なコラムや論文に加え、年表、伽藍・塔頭紹介などの資料も充実した、まさに「オール・アバウト・東福寺」の1冊です。
サイズA4変形/392ページ/3000円(税込)
東福寺の名は、奈良・東大寺の規模と、興福寺の隆盛になぞらえて、その一字ずつを取って付けられたというだけあって、スケールが大きい作品が多く、見せ方もダイナミック。普段日本美術や禅に馴染みがない方でも楽しめる、イチ押しの展覧会です。ボリュームたっぷりの展示で、東福寺の歴史や禅宗文化の流れをたどることができます。
事前予約は不要ですが、会期末はゴールデンウイークとも重なり、混みそうな予感。会期中展示替えが多いので、事前に展覧会公式サイトで各作品の展示期間等をご確認のうえ、おでかけください。
【展覧会概要】
展覧会名:特別展「東福寺」
会期:2023年3月7日(火)〜5月7日(日) ※会期中、一部作品の展示替えを行います。
会場:東京国立博物館 平成館
住所:東京都台東区上野公園13-9
開館時間:9:30~17:00(入館は閉館30分前まで)
休館日:月曜日(3月27日(月)、5月1日(月)は開館)
観覧料:一般 2,100円、大学生 1,300円、高校生 900円、中学生以下 無料
※障がい者および介護者1名は無料(入館時に障がい者手帳などを提示)
※事前予約不要(混雑時には入場を待つ場合あり)
展覧会公式サイト:https://tofukuji2023.jp/
■巡回情報
・京都会場
会期:2023年10月7日(土)~12月3日(日)
会場:京都国立博物館 平成知新館