展覧会「レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才」が、東京都美術館にて、4月9日(日)まで開催中です。
⑰チラシビジュアル

約30年ぶりとなるシーレの大規模展
若くして天才と呼ばれ、ときに暴力的なまでの表現で、人間の内面や性を生々しく描き出したエゴン・シーレ。本展は日本でおよそ30年ぶりとなるシーレの大規模展です。
本展はシーレ作品の世界有数のコレクションで知られるウィーンのレオポルド美術館の所蔵作品を中心に、シーレの油彩画、ドローイング50点を通して、画家の生涯と作品を振り返ります。あわせて、クリムト、ココシュカ、ゲルストルをはじめとする同時代作家たちの作品をとおしてウィーン世紀末における芸術表現の動向も紹介します。
⑯レオポルド美術館
レオポルド美術館 © Leopold Museum, Vienna, Ouriel Morgensztern

エゴン・シーレは1890年オーストリア生まれ。グスタフ・クリムト(1862~1918)との出会いなどを経て新たな芸術集団を結成。挑発的なモチーフや自画像を描き、独自の画風を確立しました。その後もドイツでの個展(1913年)や分離派展(1918年)などで評価を高めたものの、1918年にスペイン風邪に感染。わずか28歳でこの世を去ってしまいます。
①《エゴン・シーレの肖像写真》
アントン・ヨーゼフ・トルチカ《エゴン・シーレの肖像写真》 1914年 写真 レオポルド家コレクション Leopold Museum, Vienna

展覧会は全14章で構成。女性像、風景画、裸体というシーレの主題や、新芸術家集団の仲間やパトロンといった交友関係など、シーレや当時の芸術に変容を巻き起こした、ウィーン分離派とその周辺の活動を各章ごとのテーマに沿って紹介します。

シーレの油彩画やドローイングの作品約50点が集結
1890年に生まれたシーレは、16歳という若さでウィーンの美術アカデミーに入学し、当時、ウィーン世紀末美術を代表する存在であるクリムトに認められ、その装飾的な画風に影響を受けます。
カンヴァスの中央に大胆な色彩の花と葉を描いた本作は、クリムトの影響がもっともよくあらわれている作品。正方形のキャンバスや背景に金、銀をあしらう手法は、クリムトが好んだ技法で、これにより絵画の平面性、装飾性を高めています。同時に、ジャポニスム(日本趣味)の傾向も見ることができます。
②《装飾的な背景の前に置かれた様式化された花》
エゴン・シーレ《装飾的な背景の前に置かれた様式化された花》 1908年 油彩、金と銀の顔料/カンヴァス レオポルド美術館蔵 Leopold Museum, Vienna

黒い背景に浮かび上がるようなピンク、緑、黄色の菊の花。茎も花瓶もなく花だけが描かれ、なかでもひときわ大きく描かれている深い赤色の花が目を引きます。花びらの輪郭は折れ曲がり、まるで生き物のよう。華やかな装飾性を持ったこの作品もクリムトの影響が感じられます。
③《菊》
エゴン・シーレ《菊》 1910年 油彩/カンヴァス レオポルド美術館蔵 Leopold Museum, Vienna

シーレの絵画において、もっとも重要なテーマのひとつが「自画像」です。生涯にわたりシーレは数多くの自画像を描き、自分のアイデンティティを探求し続けました。本作は、シーレの自画像のなかでもっともよく知られている作品です。画中のシーレのまなざしは、不安げにも、挑発的にも見え、画家の複雑な内面が現れているようです。
白地に際立つ暗色系の髪と服は画面の端からはみ出すことで、画面の枠を強く意識させ、顔や肩の傾いた線など構図にも工夫を凝らしていることがわかります。青白い顔には、赤、青、緑の絵の具が施され、内的な情動を表しているかのようにも見えます。
⑥《ほおずきの実のある自画像》
エゴン・シーレ《ほおずきの実のある自画像》 1912年 油彩、グワッシュ/板 レオポルド美術館蔵 Leopold Museum, Vienna

 《ほおずきの実のある自画像》の前年に描かれた《自分を見つめる人Ⅱ(死と男)》も初期の不安定なフォルムで描かれた、鮮烈な印象の作品です。
画面中央にいる黒い男の背後には、不気味な灰色の亡霊が彼を抱くように描かれており、画面右側には骸骨のようなシルエットを見ることができます。中央の人物が画家自身とすると、その背後に迫るのは、自分の分身あるいは死神どちらでしょうか。シーレが21歳という若さで、こうした作品を描いていることに驚きます。
⑤《自分を見つめる人Ⅱ(死と男)》
エゴン・シーレ《自分を見つめる人Ⅱ(死と男)》 1911年 油彩/カンヴァス レオポルド美術館蔵 Leopold Museum, Vienna

シーレは男性の裸体を背後から描くことが多く、関節を強調した背骨、大きく突き出した肩甲骨の裸体の人物を描いた本作からは、寂しく無機質な死の予感と生/性の生々しさの両方が伝わってきます。
④背を向けて立つ裸体の男》
エゴン・シーレ《背を向けて立つ裸体の男》 1910年 グワッシュ、木炭/紙 個人蔵 Leopold Museum, Vienna

女性像は、自画像に次いでシーレ作品の重要なテーマです。
⑨《悲しみの女》
エゴン・シーレ《悲しみの女》 1912年 油彩/板 レオポルド美術館蔵 Leopold Museum, Vienna
長年連れ添った恋人、ワリー・ノイツェルをモデルにした《悲しみの女》。クローズアップで描かれた女の肌は青白く、頬はこけ、大きな瞳は涙でうるんでいます。左上の口をすぼめた表情の顔はシーレと考えられ、不穏な描写の中に二人の複雑な関係が表現されています。

こちらはワリー・ノイツェルと別れて、結婚した妻のエーディトを描いた作品。ほんのり頬を赤らめてためらいがちにこちらを見る女性は初々しく可愛らしい。不穏な空気は消え、落ち着いた色彩、表現で描かれた本作からは、対象に対する暖かい眼差しとともに、シーレの画風の変化を見て取ることができます。
⑫《縞模様のドレスを着て座るエーディト・シーレ》
エゴン・シーレ《縞模様のドレスを着て座るエーディト・シーレ》 1915年 鉛筆、グワッシュ/紙 レオポルド美術館蔵 Leopold Museum, Vienna

母子像や、妊婦、子供を描いた作品も並んでいます。本作は伝統的な聖母子像の構図ながら、母親の目と口は閉じられ、子供は何かに怯えるかのように大きく目を見開いています。通常、母子像は幸福や愛情の象徴ですが、シーレの場合は死や不安をほのめかすような作品になっています。
⑦《母と子》
エゴン・シーレ《母と子》 1912年 油彩/板 レオポルド美術館蔵 Leopold Museum, Vienna

本展には油彩だけでなく、ドローイングも数多く出品されていますが、人物画では簡略化した筆致で骨の硬さと肉の柔らかさを表現しており、シーレの対象を的確に捉える眼と腕の確かさが伝わってきます。
描かれる肉体のポーズが自然体ではなく、バラエティに富んでいるのもシーレの作品の特徴であり、魅力です。本作では、女性がひざまずいた状態から突然に前屈みになった瞬間がとらえられているようです。奇抜な人物のポーズや、人物以外の部分を余白のまま残すのは日本の浮世絵の影響ともいわれています。
⑪《頭を下げてひざまずく女》
エゴン・シーレ《頭を下げてひざまずく女》 1915年 鉛筆、グワッシュ/紙 レオポルド美術館蔵 Leopold Museum, Vienna

個性的な人物画で知られるシーレですが、風景画も数多く残しています。
曇天の下、風に吹き去られる木の枝が異様にねじれ、空を分割する枝は、ひび割れのようでもあり、人間の神経系や血管のようにも見えます。本作では自然を擬人化して描こうとしたシーレの試みを見て取ることができます。
⑧《吹き荒れる風のなかの秋の木(冬の木)》
エゴン・シーレ《吹き荒れる風のなかの秋の木(冬の木)》 1912年 油彩、鉛筆/カンヴァス レオポルド美術館蔵 Leopold Museum, Vienna

クルマウ(現チェコのチェスキー・クルムロフ)は、シーレの母親の故郷であり、彼自身も何度か訪れた町です。上方からの視点でとらえられた本作は、小さな窓やアーチのある壁に、帽子のような屋根を頂く家並みが、まるでおとぎの国のような雰囲気で描かれており、シーレの様式の新たな展開を感じさせる作品です。
⑩《モルダウ河畔のクルマウ(小さな街Ⅳ)》
エゴン・シーレ《モルダウ河畔のクルマウ(小さな街Ⅳ)》 1914年 油彩、黒チョーク/カンヴァス レオポルド美術館蔵 Leopold Museum, Vienna

展示を締めくくるのは、シーレ晩年の作品群。署名が入っていない未完成の作品《しゃがむ二人の女》が最後を飾ります。本作の制作を半ばにして、シーレは妻とともにスペイン風邪に感染し、28歳で亡くなります。
彼は晩年次のように語っています。「戦争が終わったのだから、僕は行かねばならない。僕の絵は世界中の美術館に展示されるだろう。」(1918年)
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会場では彼が残した数々の言葉もパネルで紹介され、シーレの考えを知ることができるとともに、作品を読み解き、鑑賞する際の参考になりました。

クリムト、ココシュカ、ゲルストルなどウィーン世紀末を生きた画家たちの作品も紹介
世紀末から20世紀初頭にかけてのウィーンでは、強烈な個性を放つ画家が数多く活躍していました。本展では、グスタフ・クリムトのほか、シーレと同時代に活動した画家の作品もあわせて紹介しています。

ウィーン世紀末美術のもっとも重要な画家クリムト。保守的なウィーン画壇に対抗すべくウィーン分離派を創設し、官能的な女性像や、建築や工芸といったジャンルを超えた表現を通して、新しく自由な芸術を模索しました。 シェーンブルンを取り囲む公園の風景を描いた本作は、クリムトがウィーンの街を描いた唯一の風景画。モネなど同時代のフランス絵画の影響も感じられます。
⑬《シェーンブルン庭園風景》
グスタフ・クリムト 《シェーンブルン庭園風景》 1916年 レオポルド美術館に寄託(個人蔵) Leopold Museum, Vienna

ウィーン分離派をクリムトとともに創設したモーザーは、絵画のみならず家具や工芸品など幅広いジャンルで活躍しました。本展では、モーザーがデザインを手がけた分離派展のポスターやオーストリアの記念切手、長い構想を経た《洞窟のヴィーナス》などが展示されています。
⑭《キンセンカ》
コロマン・モーザー《キンセンカ》 1909年 油彩/カンヴァス レオポルド美術館蔵  Leopold Museum, Vienna

ほかにも、クリムトとともにウィーン分離派を牽引したカール・モルのウィーンの日常風景を描いた木版画、シーレの自己表現に先んじるものとして位置付けられている、夭折した表現主義の先駆者リヒャルト・ゲルストル、特定の芸術運動に参加せず、独自の道を歩んだオスカー・ココシュカ、故郷の穏やかな風景や勤勉な農民たちを描いたチロル地方出身の画家アルビン・エッガー=リッツなどの絵画が並びます。
⑮《半裸の自画像》
リヒャルト・ゲルストル《半裸の自画像》 1902/04年 油彩/カンヴァス レオポルド美術館蔵 Leopold Museum, Vienna

画家として活動したわずか10年ほどの短い期間のなかで、次々と様式を変えていったシーレ。ポスターなどになっている前衛的で大胆な絵だけでなく、10代や晩年の20代後半の作品もとても魅力的でした。
短くも波乱万丈な人生を駆け抜けたシーレ。彼の作品のもつパワーと魅力をぜひ会場で直接感じ取ってみてください。
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撮影スポット

【展覧会概要】
展覧会「レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才」
会期:2023年1月26日(木)~4月9日(日)
会場:東京都美術館
住所:東京都台東区上野公園8-36
開室時間:9:30~17:30(金曜日は20:00まで)
※入室はいずれも閉室30分前まで
休室日:月曜日
観覧料:一般 2200円 / 大学・専門学校生 1300円/ 65歳以上 1500円 / 18歳以下(2004年4月2日以降生まれ)無料(公式チケットサイトで日時指定予約が必要)
※日時指定予約制
東京都美術館展覧会紹介サイト:https://www.tobikan.jp/exhibition/2022_egonschiele.html
展覧会公式サイト:https://www.egonschiele2023.jp/