展覧会「面構(つらがまえ) 片岡球子展 たちむかう絵画」が、横浜のそごう美術館にて、1月29日(日)まで開催中です。
片岡球子は、1905年札幌に生まれ、昭和から平成にかけて活躍した日本画家。その代表作「富士」や「面構」のシリーズに見るように、大胆な構図と鮮やかな色彩による作品を手がけ、日本画の新たな可能性を切り拓きました。1989年には、文化勲章を受章しています。
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1966年にスタートした「面構」シリーズは、片岡球子が還暦を過ぎて取り組み始め、2004年までの38年間で44点を制作し続けたライフワークといえる作品。
歴史上の人物を題材とした「面構」は、単に人物の肖像ではなく、人間の「魂」をも捉えようと取り組み続けたものでした。
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片岡球子肖像写真 ©相澤 實
本展では、「面構」シリーズ42点を一挙に展示。あわせて、初公開の小下図やスケッチ、「面構」の出発点となる作品なども一堂に紹介しています。

描かれている人物は、浮世絵師や読本作者、戦国武将など。 会場では、人物の魂までも表現しようとした片岡の思いが伝わってくるような作品が並びます。

歌舞伎に惹かれ、人物表現だけでなく作品の制作の本質を捉える姿勢を決定づけた作品
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《歌舞伎南蛮寺門前所見》 1954(昭和29)年 個人蔵

等持院の足利将軍像をもとに描いた、室町幕府の足利尊氏、義満、義政の3将軍は、それぞれの人物像をもとに黄不動、赤不動、青不動に見立て、異なる筆致や背景色で描いています。
戦前は反逆者として扱われましたが、片岡には「恵比須様」のように見えたという尊氏。戦いに明け暮れた生涯を送りましたが、包容力のある優しそうな人物に仕上がっています。
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《面構 足利尊氏》 1966(昭和41)年 神奈川県立近代美術館蔵

政治、経済、文化それぞれの面で優れた業績を残し、室町幕府全盛期を築いた義満。「生まれながらの将軍で尊氏とは風格が違う」とのこと。
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《面構 足利義満》 1966(昭和41)年 神奈川県立近代美術館蔵

東山文化、銀閣で有名な義政。等持院の像では神経質な人物に思えたので、背景の青はなるほどと思えました。
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《面構 足利義政》 1966(昭和41)年 神奈川県立近代美術館蔵

1967(昭和42)年の第52回院展に《面構 等持院殿》と一緒に出品された《面構 徳川家康公》も展示されています。

秀吉と軍師であった黒田如水。秀吉の衣装五三桐紋は、豊臣姓とともに朝廷から下賜されたもの。上杉謙信と直江兼続など、ほかにも戦国大名と軍師を組み合わせた作品を見ることができます。
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《面構 豊太閤と黒田如水》 1970(昭和45)年 神奈川県立近代美術館蔵

片岡は、1971年から浮世絵師を描くようになりました。北斎の赤富士は有名ですが、本作は富士の威容に北斎の偉業を重ねたという作品。面構シリーズには多くの浮世絵師が登場しますが、なかでも葛飾北斎は何度も繰り返し描いています。
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《面構 葛飾北斎》 1971(昭和46)年 神奈川県立近代美術館蔵
同じ年に描いた、今なお謎に包まれた浮世絵師、写楽の場合は「徳川家ゆかりの人物で、海外に定着し帰って来なかった」など、独自の人物設定をして描いています。

江戸小紋を着た粋な姿の広重。左は名所江戸百景の《大はしあたけの夕立》。
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《面構 安藤広重》 1973(昭和48)年 神奈川県立近代美術館蔵

戯作者と絵師を描いた作品もあります。
北斎と滝沢馬琴、自信に満ちた様子の二人が印象的な作品。同じポーズで描かれ、背景には著作が描かれています。2人のコラボ「椿説弓張月」は江戸時代の大ベストセラーになり、名コンビといわれましたが、北斎が馬琴の指示に従わず、勝手に絵を改変してしまうため、コンビは解消することになりました。
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《面構 葛飾北斎・瀧澤馬琴》 1979(昭和54)年 愛知県美術館蔵

「白浪五人男」は、江戸時代幕末から明治にかけて活躍した歌舞伎狂言作者河竹黙阿弥が、国貞の錦絵から思いついた世話物で、この絵では2人が熱く語る場面が描かれています。背景には登場人物の5人の男。細かく描き込まれた着物の柄も注目です。
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《面構 狂言作者河竹黙阿弥・浮世絵師三代豊国》 1983(昭和58)年 神奈川県立近代美術館蔵

粋なお兄さんといった風情の西村屋与八と粋な風情の浮世絵師鳥居清長は、浮世絵版元と絵師の組み合わせ。
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《面構 浮世絵師鳥居清長と版元榮壽堂主人西村屋与八》1993(平成5)年 横浜美術館蔵/片岡球子氏寄贈

近代文学・浮世絵研究者の鈴木重三は、片岡に浮世絵研究の助言をしたり、収集した浮世絵資料を貸し出すなど、創作を支援した人物。舞人・宗教家を除き、面構で唯一本人として現代人を描いた本作は、チョンマゲ姿の国芳とかしこまった様子の鈴木先生の対比が面白い。
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《面構 浮世絵師歌川国芳と浮世絵研究家鈴木重三先生》 1988(昭和63)年 北海道立近代美術館蔵

本展では、初公開の片岡球子の小下図やスケッチも展示され、本画と見比べることもできます。
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《面構 浮世絵師歌川国芳と浮世絵研究家鈴木重三先生》小下図

片岡は、91歳になって雪舟を描くようになり、面構では4度も雪舟を取り上げています。従者を伴い険しい山道を行く高士は、絵画の世界でさらなる高みをめざす片岡自身を重ね合わせているかのようです。
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《面構 雪舟》 1996(平成8)年 個人蔵

最晩年の99歳の時の作品は、山東京伝をモデルにしたもの。シンプルな構図と表情、落ち着いた色彩の絵で、シリーズの表現の変化もたどることができます。
面構には、日蓮、白隠や、制作時の天竜寺管長と同寺の開山である夢窓疎石を描いた作品など、宗教に取材した作品も多数あります。

片岡が美術教師として30年近く勤めた大岡小学校には、教え子を描いた「飼育」という作品が残り、今回その作品もそごう美術館でも展示中です。

さまざまに描かれた面構は、人物の背景など入念に調べあげ、片岡の独自の解釈によりその人物を表現していることが見どころの一つです。顔と言わず、面構という言い方からも、表面的な肖像でなく、人物の内面的な世界をより深く掘り下げようとしていることがわかります。
最晩年まで挑戦し続けた「面構」シリーズが、これだけの規模で揃う機会は今後もなかなかないかもしれません。「面構」が持つ強いエネルギー、パワーを会場で感じ取ってみてください。
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展覧会に合わせて「面構」を網羅した図録も発売されます。
『面構 片岡球子展 たちむかう絵画』企画:そごう美術館 編集:そごう美術館、北九州市立美術館、岩手県立美術館
発行:求龍堂 3,300円(税込)

【展覧会概要】
展覧会「面構(つらがまえ) 片岡球子展 たちむかう絵画」
会期:2023年1月1日(日・祝)~1月29日(日) 会期中無休
会場:そごう美術館
住所:神奈川県横浜市西区高島2-18-1 そごう横浜店 6階
開館時間:10:00~20:00
※入館はいずれも閉館30分前まで
※そごう横浜店の営業時間に準じて変更となる場合あり
観覧料:一般 1,400円(1,200円)、高校・大学生 1,200円(1,000円)、中学生以下 無料
※事前予約不要
※( )内は、クラブ・オン/ミレニアムカード、クラブ・オン/ミレニアム アプリ、セブンカード・プラス、セブンカード提示者の料金
※障がい者手帳各種の所持者および同伴者1名は無料で入館可
※展覧会やイベントは、中止、延期、一部内容変更となる場合あり(最新情報については、そごう横浜店およびそごう美術館ホームページにて確認のこと)
そごう美術館ホームページ  https://www.sogo-seibu.jp/common/museum/