日本の文化としての「遊び」を切り口にした展覧会「遊びの美」が、根津美術館にて2023年2月5日まで開催中です。
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歴史の中で、遊びは楽しみとして日々の暮らしに潤いを与えると同時に、必要な教養を高めることであり、求められる技芸を磨くことでもありました。
本展では、さまざまな文化としての「遊び」を、絵画や古筆、屏風の優品を通して紹介します。
※出品作品は、すべて根津美術館所蔵品です。
※会場内は撮影禁止です。展示室の写真は美術館の許可を得て撮影したものです。
◆◆◆子供の姿◆◆◆
古い時代の絵画の中にも、元気に遊ぶ子供たちを見出すことができます。平安時代末の歌人・西行の行状を絵画化した絵巻の一場面の中には、路上で遊ぶ子供たちが描かれています。
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《西行物語絵巻》 2巻のうち下巻 日本・室町時代 15世紀

菅原道真を祀る北野天満宮の由来を描く絵巻。仕事を手伝う子供のほか、遊びに熱中する子供、 喧嘩する子供などが生き生きと描かれています。
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《北野天神縁起絵巻》 6巻のうち第5巻 日本・室町時代 16世紀(重要美術品)

◆◆◆雅な遊び◆◆◆
平安時代、公家の生活はさまざまな遊びであふれていました。詩歌・管弦、庭前での蹴鞠や船遊び、 そして宴。 ことに歌を詠むことは彼らにとってコミュニケーションの手段であり、必須の教養でもありました。蹴鞠をはじめとする諸芸もそれらを専門とする家ができるほどに重視されました。 遊びは、 社会の中で生きることと密接に結びついていました。

鹿革の鞠を蹴り、回数や姿勢の美しさを競う蹴鞠は、公家が屋外で楽しんだ代表的な遊びですが、やがて鞠道(きくどう)として形式が整えられ、飛鳥井流など流派が形成されるほど技が高められました。
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満開の桜の木のもとで公家たちが蹴鞠を楽しむ様子を描いた《桜下蹴鞠図屏風》日本・江戸時代 17世紀(重要美術品)

平安時代の公家の遊びの一つである歌合(うたあわせ)は、左右に分かれて和歌を詠んでその優劣を競う遊びです。
この1巻は、一条天皇の后であった上東門院彰子のもと、 菊花の美しさを題材にして10番20首の歌が詠まれた歌合を記録したもの。 本展が初公開。
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《上東門院彰子菊合残巻(十巻本歌合)》 伝 宗尊親王筆 日本・平安時代 11世紀

「類聚歌合」 は、過去の歌合を集成して20巻に編成することを目指したもので草稿本として伝わります。 この巻は、 元永2年(1119) 7月13日に内大臣藤原忠通が自邸にて催した歌合を書写したもの。 左方人(ひだりかたうど)の詠み手に無名女房とあるのは、 実は忠通のことです。
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《内大臣殿歌合(類聚歌合)》伝 西行筆 日本・平安時代 12世紀(重要文化財)

物合(ものあわせ)は、同じ種類のものや事柄を比べ、その優劣を競い合わせる遊びの総称です。 本作は、源氏物語第17帖「絵合」の一場面を描いたもの。 絵合も、ものの優劣を競う「物合」 の一種です。
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(左)《源氏物語画帖》伝 土佐光起筆 日本・江戸時代 17世紀

同じ種類のものを比べて優劣を競う遊び「物合」の対象は様々でした。貝覆いまたは貝合と呼ばれる遊びも、平安時代末から貴族によって行われた遊びの一つ。本作は、明治天皇皇后両陛下が、 竹田宮家に嫁いだ第六皇女昌子内親王に贈ったもの。 
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《草花折枝鶴蒔絵貝桶》 日本・明治時代 20世紀

《百椿図》は、江戸時代初期の椿ブームを象徴する貴重な絵巻物です。2巻の巻子には100種類以上の椿が、濃厚な彩色と的確な筆致で描かれ、なかには今日では珍しい色や形の椿も見ることができます。
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《百椿図》伝 狩野山楽筆 日本・江戸時代 17世紀

◆◆◆武芸をみがく◆◆◆
武士の時代、武家のリーダーとして家臣人の支持を得るためには、武芸に堪能であることは非常に重要でした。そのため、乗馬や弓矢の訓練にもなる犬追物や、狩猟など、武家たちの「遊び」には、武芸の鍛錬という目的もありました。

犬追物は、馬上から先端をカバーした矢で放った犬を射る競技。鎌倉から室町時代にかけて武家において盛んに行われ、桃山時代以降は武家風俗の画題としてしばしば屏風絵に描かれています。馬場の周囲には、くつろいだ様子の見物客を見ることができます。
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《犬追物図屏風》日本・江戸時代 17世紀(重要美術品)

右隻は、源頼朝が自身と幕府の権威を天下に示すために富士山の裾野で繰り広げた巻狩りの場面。さまざまな姿態の武士や駈けゆく馬とともに、犬、鹿、兎、猪などの動物が生き生きと描かれています。狩りは遊楽だけでなく、 乗馬や弓矢を訓練できる場でもありました。
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《曽我物語図屏風》日本・江戸時代 17世紀

菅原道真を祀る北野天満宮の由来を描く絵巻。道真の弓の腕前に一座の者が眼を見張った場面が描かれています。射芸は武家だけでなく平安貴族の素養でもありました。
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《北野天神縁起絵巻》 6巻のうち第1巻 日本・室町時代 16世紀 (重要美術品)

◆◆◆市井の楽しみ◆◆◆
庶民の経済力や行動範囲が拡大した江戸時代。祭礼や社寺参詣は、宗教面だけでなく、娯楽や観光といった「遊び」の面もありました。その様子は絵画作品の中にもうかがうことができます。

江戸時代の伊勢神宮 のお参り風景を描いた一双屏風のうち左隻 (右隻は現在、名古屋市博物館蔵)。 女性芸人が三味線などを弾く小屋が並んだ間の山、 参拝後に精進落しをする歓楽街・古市を経て、 内宮に至るまでの、「参詣ついでに観光」を楽しむ人々の様子が生き生きと表現されています。
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《伊勢参宮図屏風》日本・江戸時代 17世紀

京の市街 (洛中) と郊外 (洛外) の景観を描いた屏風。 中心となるモチーフは祇園祭で、右隻に山鉾巡行、左隻に神輿渡御を描いています。当時の都市風俗が詳細に描かれ、華やかな年に一度の祭礼を楽しむ人々のパワーが伝わってくるような作品です。
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《洛中洛外図屏風》日本・江戸時代 17世紀

双六や腕相撲に興じる人々や、『平家物語』を語る琵琶法師など、遊里の豪壮な建物の内部や庭で展開されるさまざまな遊興の様子を描いた屏風。
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《邸内遊楽図屏風》 日本・江戸時代 17世紀 

和歌100首と、その各歌を連想させる扇面画を100図描いた画巻。 扇面画には和歌を読み解く要素が凝縮されており、 遊びのように楽しみながら、古典文学を習得できるツールでもありました。
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《扇面歌意画巻》日本・江戸時代 17世紀

同時開催のテーマ展示も充実した内容です。
◆◆◆展示室4「古代中国の青銅器」◆◆◆
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展示室4展示風景より

来年の干支である兎を鏡の中に探してみましょう!
中国において戦乱の時代に衰退した青銅鏡の製作は、 隋唐時代になると復活をみせます。 全く新しい形や文様がみられ、文様はどれも浮彫が用いられ、それまでの四神文にくわえて十二支文が枠の中に施されています。 また月宮図の兎は、餅つきでなく、長寿の仙薬を挽いている姿であらわされています。
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古鏡の見どころは文様面ですが、鏡として機能していたのは磨かれた面です。今回、当時の鏡面に真鍮の薄板を接合し、表面を磨いて再現したものも展示されているので、ぜひご覧ください(画像左端)。

◆◆◆展示室5 山水◆◆◆
山水画は、 中国・宋時代(960~1279) に完成され、日本でも盛んに描かれました。
日本や中国の山水画で重要視されたのは、実際の景色をそのまま描くことではなく、理想的な自然の情景を描くことでした。 こうした山水画は、国や地域、時代を超え、様々な表現で描き続けられました。
ここでは多彩な表現で描かれた、山水画の優品が楽しめます。

八角形釜の各側面に瀟湘八景が表されています。 瀟湘八景は茶人にも大変好まれた主題でした。 
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《八角尾垂釜》 芦屋 日本・桃山時代 16世紀

左は、鎌倉・円覚寺の少年僧を慕う人物が、夢に見た花々に囲まれた美しい書斎の光景を画に描かせた作品。 題記により、その筆者が書斎に披錦斎と名付け、かつ仲間の禅僧から詩を集めて少年僧に贈ったものとわかります。 少年僧は受け取ってくれたのでしょうか?本作は、京より遅れて流行した、鎌倉における詩画軸の代表作例です。
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(左)《披錦斎図》宗甫紹鏡ほか六僧賛 日本・室町時代 寛正5年 (1464) 

雪舟等楊が改名する前の拙宗時代の作品もあります。左は玉澗の撥墨技法に基づいて描いた山水図。
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展示室5「山水」展示風景より、拙宗等揚の作品

◆◆◆展示室6 一除夜釜新年を迎える一◆◆◆
除夜釜とは、 大晦日、年末の亭主が用意する茶席のこと。忙しい年の瀬にふさわしく、亭主は一服の茶でさらりと客をもてなします。本年は、1月21日が旧暦の大晦日です。
ここでは「大晦日」 の銘を持つ茶杓や、 歳の瀬のあいさつに配られる「暦茶碗」など、季節の茶道具が展示されています。
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展示室6展示風景より、茶道具取り合わせ

表千家四代の江岑宗左 (1613~72) による茶杓。 江岑は、 千利休の孫にあたる宗旦の三男で、その跡を継ぎ、紀州徳川家の茶頭をつとめました。
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(左)《茶杓 銘 大晦日 共筒》 江岑宗左 作  日本・江戸時代 17世紀

暦(カレンダー)が書かれた茶碗は、江戸時代、年末の贈答品として広まりました。 ただし、本作は正式な暦ではなく、ユーモア溢れる縁起や、架空の年号が書かれています。 
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《志野暦茶碗 銘 年男》日本・江戸時代 17世紀

本展のテーマの1つ「雅な遊び」にちなみ、関連イベントとして「雅楽を聴いてみよう」が2023年1月7日、1月29日に開催されます。美術館内で、雅楽の音色を聞きながら作品を鑑賞することができます。演目など詳細についてはこちら→https://www.nezu-muse.or.jp/jp/event/index.html

ミュージアムショップでは、2023年カレンダーなど、来館の記念になるオリジナルグッズが多数揃っています。館蔵の茶道具の名品13種類によるロールシール〈茶道具シリーズ〉は今回新発売。
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【展覧会概要】
企画展「遊びの美」
会期:2022年12月17日(土)〜2023年2月5日(日)
会場:根津美術館 展示室1・2
住所:東京都港区南青山6‐5‐1
開館時間:10:00〜17:00(入館は閉館30分前まで)
休館日:月曜日(1月9日(月・祝)は開館)、年末年始(12月26日(月)〜1月4日(水))、1月10日(火)
入館料:一般 1,300円、学生 1,000円、中学生以下 無料
※オンラインでの日時指定予約制
※根津倶楽部会員、招待はがきを所持していて入館無料の場合も予約が必要
※障害者手帳提示者および同伴者1名は200円引き
※当日券(一般1,400円)も美術館受付にて販売(予約済みの来館者を優先して案内するため、当日券での来館者は待つ場合あり。混雑状況によっては当日券を販売しない場合あり)
根津美術館ウェブサイト:https://www.nezu-muse.or.jp/