企画展「北斎かける百人一首」が、東京のすみだ北斎美術館にて、2023年2月26日(日)まで開催中です。
企画展《北斎かける百人一首》チラシ-1
『百人一首』は、江戸中期頃には一般教養として広く浸透し、次第に狂歌や見立てといったさまざまなかたちで流布するようになりました。『百人一首』が存在感を増すなか、北斎最後の大判錦絵シリーズ「百人一首乳母かゑとき(ひゃくにんいっしゅうばがえとき)」は企画されました。同作では、北斎は歌や歌人の一般的な伝承やイメージに独自の発想を盛り込み、北斎ならではの世界観を表現しています。
本展ではすみだ北斎美術館が所蔵する「百人一首乳母かゑとき」シリーズから前期・後期あわせて23図を展示するほか、『百人一首』に関する作品を幅広く紹介します。※出展作品は全てすみだ北斎美術館所蔵

■展示構成
序章 『百人一首』の成立/第 1 章 『百人一首』の普及/第 2 章 『百人一首』の発展/第 3 章 描か
れた『百人一首』の4章構成。

本展の見どころ
◎序章『百人一首』の成立
『百人一首』は、藤原定家が小倉山あたりで編纂したという『百人秀歌』が元となり、鎌倉時代中期以降に成立したと最近の研究ではいわれているそうです。本作は江戸、京都、大坂の三都の名所について雪月花をテーマに3か所ずつ紹介したシリーズのうちの1図で、画面右上に小倉山と思われる山が描かれています。
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(右)葛飾北斎《勝景雪月花 山城嵯峨ノ雪》前期展示

◎第1章 『百人一首』の普及
『百人一首』は、江戸時代中期頃になると解説付きの書物が数多く出回るようになり、また教科書や手習いの見本にも取り入れられるなど、広く浸透していきます。本章では、教材やかるたとしての『百人一首』から、江戸時代の人々が『百人一首』に抱いていたイメージを紹介します。
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第1章展示風景より、教材としての百人一首

『百人一首』は、江戸中期頃までに一般教養として浸透し、かるたとしても親しまれました。挿絵入りの注釈書のほか、女性が百人一首かるたに熱中する様子を描いた作品なども制作されました。
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菱川宗理《美人正月遊興図》前期展示

江戸時代、和歌とポルトガルから伝来した「カルタ」が結びついた百人一首かるたが普及します。
本作は、札に「桐壺」、「夕霧」など『源氏物語』の巻名にまつわる和歌が使われた歌がるた。青い縁の札は上の句が記された読み札、 黄色い縁の札は下の句が記された取り札と考えられ、それぞれに関連する絵が摺られています。
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葛飾北斎 《風流源氏うたがるた》展示替あり

本作は、細身で目のつりあがった独特の美人を多く描いた北斎の門人、 抱亭五清による肉筆画。
美人の着物の帯には、『百人一 首』や『拾遺和歌集』 の歌が確認できます。 
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(右)抱亭五清《美人と花籠図》 前期展示

第2章 『百人一首』の発展
本章では、『百人一首』の歌人を見立てた姿が描かれた作品や、歌をもじった狂歌の作品などをとおして、『百人一首』の発展をたどります。
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第2章展示風景より

右は楊枝屋の店先の様子を描いた申年の摺物。江戸時代、楊枝屋を「さるや」と呼んでいたことに因んで、店の奥には楊枝を持った猿が描かれ、『百人一首』の歌人・猿丸大夫と歌をもじった狂歌も添えられています。
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(左)菱川宗理《掛軸を飾る二美人》(右)葛飾北斎《楊枝屋店先》いずれも前期展示

『百人一首』 の形式を利用した作品もあります。本書は北斎が挿絵を担当している狂歌絵本で、タイトルに使われている「五拾人一首」は、優れた歌を100首選ぶ『百人一首』の形式を真似て、50人の狂歌師と1首ずつの狂歌を選んだことを示しています。
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第2章 展示風景より、(左)葛飾北斎『五拾人一首 五十鈴川狂歌車』頁替えあり

英雄といえる人物を百人選び、関連する歌と解説を添えた書物もあります。
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第2章 展示風景より、(左)柳川重信《続英雄百人一首》通期展示

第3章 描かれた『百人一首』
『百人一首』の歌を色鮮やかに表現した「百人一首乳母かゑとき」は、北斎最後の大判錦絵シリーズ。百人一首の歌の意味を絵で説明する主旨で企画され、「乳母が絵解きをする」の意からこの名称がついています。本章では、「百人一首乳母かゑとき」全27図のうち、すみだ北斎美術館が所蔵する23図を前期・後期にわけて展示。会場では『百人一首』の歌と現代語訳についても、キャプションで詳細に解説しています。
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第3章展示風景より

北斎は「百人一首乳母かゑとき」で、歌や歌人にまつわる一般的な伝承やイメージに独自の発想を取り入れています。
たとえば、小野小町の「花の色はうつりにけりないたつらに わか身よにふるなかめせしまに」に対しては、春の農村の日常風景を描くことで、毎年咲いては散る儚い桜と、平凡な日常を過ごしながら年老いてゆく小町自身の姿を対比した歌意を絵で表していると考えられます。
また、「色はうつりにけり」から、染め物をする人の姿も描かれています。
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葛飾北斎《百人一首うはかゑとき 小野の小町》前期展示

歌意の天女から、桜の下で五節舞を舞う乙女が描かれています。 本来11月に催される行事ですが、ここでは春爛漫のイメージで表現されています。
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(左)葛飾北斎 《百人一首うばがゑとき 僧正遍照》前期展示

猿丸太夫の「奥山に 紅葉ふみわけ なく鹿の 声きく時ぞ 秋はかなしき」の歌をもとにした左の作品は、山の上に2頭の鹿のシルエットが描かれていますが、右の作品にも2頭の鹿が配されているのを見ることができます。
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(左)葛飾北斎 《百人一首乳母かゑとき 猿丸太夫 》、(右)葛飾北斎《諸国名橋奇覧 飛越の堺つりはし》いずれも作品を入れ替えて通期展示

本シリーズは、天保の大飢饉の最中で不況だったことや、絵に盛り込まれた北斎独自の発想が難解であったことなどから、27図で中断されます。しかし、色数が多く、手の込んだ技法も多い 「百人一首乳母かゑとき」は、北斎の世界観が謎解きのようにちりばめられた、芸術的にはとても価値の高いシリーズといえます。
本展の「百人一首乳母かゑとき」シリーズの展示期間はすみだ北斎美術館ホームページでご確認ください。

『百人一首』の歌人たちは、歌仙絵や狂歌のモチーフなど、様々な形で浮世絵にも登場します。本章では、北斎や門人が、『百人一首』の歌人を題材に描いた作品も紹介されています。
右は、歌聖と呼ばれた、柿本人麻呂、 山部赤人の2人を描いた作品。
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(左)蹄斎北馬《和歌三神の図》前期展示、(右)葛飾為斎《『北斎人物画譜』山辺の赤人 柿本人麿》通期展示

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第3章展示風景より、小野小町を題材にした作品

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第3章展示風景より、(左ガラスケース内)菅原道真を題材にした作品

 本作は、5人の歌仙を描いたシリーズの1図で、月を仰ぎ見る美女が描かれています。歌人・赤染衛門をイメージした作品といわれ、銀摺や空摺といった手の込んだ技法が用いられた大変豪華な作品です。
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葛飾北斎《五歌仙 月》作品を替えて通期展示

紫式部は百人一 首の歌人でもあります。
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(左)蹄斎北馬《見立紫式部》、(右)葛飾北斎《五歌仙 檜扇》いずれも前期展示

葛飾北斎画、曲亭馬琴作の読本『椿説弓張月』に登場する崇徳院は、江戸時代『百人一首』 の歌人としても知られており、本書中にも『百人一 首』の歌が添えられています。
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第3章展示風景より

3階ホワイエでは、新年にちなんで、2023年2月26日(日)まで、綴プロジェクト高精細複製画「新年風俗図(初夢・朝化粧)」が展示中です。写真撮影もOK。
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オリジナルリーフレット
すみだ北斎美術館が所蔵する「百人一首乳母かゑとき」シリーズから4点の作品図版と解説に加え、江戸時代の『百人一首』事情がうかがえる作品などをオールカラーで紹介するオリジナルリーフレットも販売中です。
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(右上)タイトル 「北斎かける百人一首」リーフレット 価格 300円(税込)、形態/ページ数 A4縦長8ページ

来館者には、『百人一首』の一覧や歌人の関係性を紹介する補助資料も配布され、北斎の作品とともに、奥深い『百人一首』の世界についても学ぶことができます。
江戸文化体験「百人一首かるたを体験しよう!」などの関連イベントも予定されています。詳細はすみだ北斎美術館ホームページをご覧ください。

展覧会概要】
企画展「北斎かける百人一首」
会期:2022年12月15日(木)~2023年2月26日(日) 前後期で一部展示替え予定
[前期 12月15日(木)~1月22日(日) / 後期 1月24日(火)~2月26日(日)]
会場:すみだ北斎美術館
住所:東京都墨田区亀沢2-7-2
開館時間:9:30~17:30(入館は17:00まで)
休館日:月曜日(1月2日(月・振替休日)・9日(月・祝)は開館)、年末年始(12月29日(木)~1月1日(日・祝))、1月4日(水)・10日(火)
観覧料:一般 1,000円、高校・大学生 700円、65歳以上 700円、中学生 300円、障がい者 300円、小学生以下 無料
※会期中観覧日当日にかぎり、AURORA(常設展示室)および常設展プラスもあわせて観覧可
※中学生、高校生、大学生(高専、専門学校、専修学校生含む)は生徒手帳または学生証を提示
※65歳以上は年齢を証明できるものを提示
※身体障がい者手帳、愛の手帳、療育手帳、精神障がい者保健福祉手帳、被爆者健康手帳などの所持者および付添者1名までは、障がい者料金にて観覧可(入館時に身体障がい者手帳などを提示)
すみだ北斎美術館ホームページ: https://hokusai-museum.jp/100Poems/