「大本山 相国寺と金閣・銀閣の名宝」が大分県大分市の大分県立美術館で2023年1月22日まで開催中です(会期中一部作品の展示替えあり)。
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京都の名刹・相国寺は、1382(永徳 2)年に夢窓疎石を開山として、室町幕府三代将軍の足利義満が創建した寺院です。
幕府・朝廷が定めた「京都五山」という格式ある禅寺の一つで、五山文学を代表する禅僧や、雪舟らの日本水墨画の規範を築いた画僧を多く輩出し、地理的にも、文化的にも京都の中心に在り続けてきました。
このような600年余の歴史により、相国寺には中近世の墨蹟・絵画・茶道具を中心に多数の文化財が伝来しています。

本展では、相国寺だけでなく、鹿苑寺(金閣)や慈照寺(銀閣)といった同寺の塔頭(小寺院、別坊、脇寺等のこと)も含めて、各寺院の所蔵する名宝73点を展示。長谷川等伯や伊藤若冲、円山応挙、狩野探幽などの絵画の名品から、禅画、墨蹟、唐物、茶道具、そして日本画家・岩澤重夫による金閣寺客殿障壁画まで、日本美術の名品を一堂に紹介する展覧会です。
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大分県立美術館3階コレクション展示室入口

本展の主な見どころを中心に展覧会の構成に沿ってご紹介します。
※館内は撮影禁止です。掲載した写真は、美術館より特別の許可を得て撮影したものです。

第一章「頂相・墨蹟・水墨画」
本章は、頂相・墨蹟・水墨画を中心に禅宗美術を象徴する数々の宝物を紹介します。

禅僧の肖像画を頂相(ちんそう)と呼びます。禅宗では、頂相を弟子に与えることで、師の法を正式に嗣いだことを示す証明として用いられました。
夢窓疎石(1275〜1351)は相国寺の勧請開山(既に亡くなった高僧を初代住職に迎えること)。図上には夢窓の賛と印章が捺されています。
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《夢窓疎石頂相 自賛》  南北朝時代・14世紀 相国寺蔵 

墨蹟は、禅僧が記した筆蹟のことで、 法語や経典の抄録 (抜粋) など内容は多岐にわたります。 
夢窓疎石は、行・草書の墨蹟を多く遺しており、この書も流れるような墨線の草書体の名筆です。
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第一章展示風景より、(手前ガラスケース内右)夢窓疎石《墨蹟「別無工夫」》南北朝時代・14世紀 相国寺蔵

雪舟(1420~1506)は、室町時代の画僧。相国寺で禅の修行を積み、同寺の周文に絵を学びました。甲冑に身を固めた毘沙門天を描いたこの作品は、勢いのある速筆で、風に翻る躍動的な衣や、甲冑の装飾の細部まで的確に描いています。
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(左)雪舟《毘沙門天像》室町時代・15世紀 相国寺蔵 重要文化財【展示期間:11/26~12/25 】
また、 相国寺では四季を通じて様々な法要があり、こうした祈りの場を荘厳する加藤信清の文字絵による 《法華経観音像》や、禅宗の始祖・達磨を描いた水墨画なども展示されています。 

第二章 茶の湯の美
本章では、相国寺とその塔頭寺院に伝来した茶道具の名品を取り上げ、各時代の名品を通して、茶の湯の文化を紹介します。茶の湯の文化や茶道具は、時代とともにどのように変化し、どのように引き継がれていったのかを名品をとおして見ることができます。

12世紀頃、中国で学んだ禅僧によってもたらされた宋時代の新しい喫茶法は、次第に禅宗寺院や武家など日本でも浸透していきます。
室町時代には、 中国の美術工芸品である 「唐物」を用いて茶を喫すること、また室内を飾ることが重視されるようになり、中国宋・元時代の青磁茶碗や天目茶碗、連歌や茶会などを催した会所と呼ばれる建物では、画僧・牧谿などの唐物の絵画が、最上の名品として賞玩されました。
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第二章展示風景より、(右)《柿栗図》 牧谿 相国寺蔵と天目茶碗の展示
《柿栗図》には足利将軍家の美術品を管理した同朋衆の相阿弥(?~1525)による外題、そして江戸初期の大名茶人として著名な小堀遠州(1579~1647)による箱書きが付属します。

その後、16世紀(安土桃山時代)になると、唐物に加えて、日常に使われているもののなかから自分の好みに合った道具をとりあわせる「侘(わび)茶」が千利休により大成されます。
利休は、唐物に比肩する侘茶の道具を見い出しただけでなく、新たな道具を創り出し、それらを取りあわせることで茶の湯の世界に新しい風を吹き込んだのです。
利休と親交のあった古田織部(1544~1615)は、その茶風を受け継いだ大名茶を確立していく一方で、歪みがあり、「ひょうげもの」と称された形状の茶碗など、織部好みとされる茶道具をつくり出しました。
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第二章展示風景より、(左)千利休 《竹茶杓 千利休共筒 随流齋箱》 桃山時代・16世紀 慈照寺蔵 
(右)《黒織部沓茶碗》桃山時代・16世紀後期 相国寺蔵

利休や秀吉が活躍したのち、武家、公家、僧侶、町人とそれぞれの立場において茶の湯が広がっていきます。本展では、井戸茶碗に代表される朝鮮半島で作られた無作為な趣の高麗茶碗、さらに京都、唐津などの日本各地の陶工たちが生み出した、 日本独自の多様な器が展示されています。
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第二章展示風景より、(右)桃山~江戸時代初期に書、陶芸、漆芸、茶の湯など幅広い芸術分野で指導的役割を果たした、本阿弥光悦作《赤楽茶碗 加賀》桃山~江戸時代初期・17世紀前期 相国寺蔵 重要文化財

本展では、やきものにとどまらず、茶の湯の空間を構成する絵画、書跡、漆工など各分野にわたる名品が併せて展示され、茶の湯の歴史と、茶人たちの美意識の変遷をたどることができます。

第三章 近世絵画の名宝
江戸時代中期、京都では多様な画派が個性を競っていました。その中でも円山応挙(1733~1795)の写生を基本とした写実的で、平明かつ美しい作風は、誰にも親しまれ、多くの人々の支持を得ました。
《牡丹孔雀図》は応挙の代表作の一つ。本作は画面の中心に配された孔雀の羽の一枚一枚まで細密に描かれた写実的な表現、咲き誇る牡丹の花びらの色の濃淡の絶妙な加減、そして今なお鮮やかな岩絵の具の輝きが見どころです。
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(左)円山応挙 《牡丹孔雀図》 明和8(1771)年 相国寺蔵 重要文化財【展示期間:11/26~12/25 】
(右)狩野探幽、狩野尚信、狩野安信 《中観音図・猿猴図》 正保2(1645)年 相国寺蔵
江戸幕府の御用絵師であり、江戸時代初期に画壇を牽引した、狩野探幽、尚信、安信の3兄弟の合作。中心の観音像を探幽、右側の猿を尚信、左側を安信が描いています。

もとは障壁画であったと思われるこの作品は、右側に滝、左側に川の流れを描き、場所に応じて描写を描き分けて、動きの止まらない水を巧みに表現しています・
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第三章展示風景より、(左)円山応挙 《山渓樵蘇図》江戸時代・18世紀 相国寺蔵

応挙の弟子である長沢芦雪は、本作のように大小の極端な対比や、写実を無視した大胆な構図の作品を多く手掛けており、近年「奇想の画家」として人気が高まっています。左隻には、唐子(中国の子ども)のほかに水辺で遊ぶ3匹のかわいい子犬も描かれています。
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長沢芦雪 《白象唐子図屏風》江戸時代・18世紀 鹿苑寺蔵

本章では、このほか、近世初期の巨匠・ 長谷川等伯 (1539~1610) の屏風などのほか、うつわに描かれた意匠が楽しめる野々村仁清の茶碗や、尾形乾山の鉢など、近世に華開いた多彩な絵画の名宝を見ることができます。

第四章 伊藤若冲の名品
相国寺の第113世住職・梅荘顕常 (大典顕常、 1719~1801) は、伊藤若冲(1716~1800)の才能を早くから見抜き、良き理解者であり、指導者でもあったことから、相国寺には若冲の作品が数多く伝えられています。 本展では若冲の水墨画の名品を中心に約20点を公開します。

《鹿苑寺大書院旧蔵障壁画》は、かつて鹿苑寺(金閣寺)大書院の5室を飾っていたとされる全50面の襖絵からなる重要文化財です。現在は相国寺内の承天閣美術館に保管されています。
若冲40代の独自の水墨画法確立期の傑作として声価が高いこの障壁画は、保存の観点から一般への公開期間は限られており、本展は若冲画業初期のこの重要作をまとめて見ることができる貴重な機会といえます。  ※会期中展示替えあり
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第四章展示風景より、《鹿苑寺大書院旧蔵障壁画》江戸時代・宝暦9(1759)年 鹿苑寺蔵  重要文化財

美しい色彩で、丹念に綿密に描かれた、国宝《動植綵絵》を思わせる彩色画も展示されています。
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第四章展示風景より

若冲は”鶏の画家”と呼ばれるほど鶏を生涯にわたって描き続けました。自宅に数十羽もの鶏を解き放ち、その生態を観察していたといわれていますが、この作品もいろいろなポーズの鶏がでてきます。
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伊藤若冲《群鶏蔬菜図押絵貼屏風》江戸時代・18世紀 相国寺蔵 

NHKで2021年に放映されたアートエンターテインメント作品「ライジング若冲」をご覧になった方もいるのではないでしょうか。若冲終生の理解者であった相国寺の梅荘顕常 (大典顕常) との交流を中心に、若冲と京の人々との交流を描いたこの作品には、池大雅、円山応挙も登場しますが、本展では、この3人の作品が並べて展示されています!それぞれの画風を比較してみるのも楽しいですね。
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(左から)伊藤若冲筆 梅荘顕常賛《雪梅図》江戸時代・18世紀 大光明寺蔵 、円山応挙筆 梅荘顕常賛 《梅に斑鳩図》 江戸時代・18世紀 大光明寺蔵 、池大雅筆 梅荘顕常賛《山水図》江戸時代・18世紀 大光明寺蔵 

構図の面白さはもとより、筆の勢いを伝える大胆で力強い筆致や、《布袋渡河図》など簡潔な線で特徴を捉えた表現力豊かな水墨画を見ると、思いきりよく筆を運んでいた若冲の姿が目に浮かぶようです。「筋目描き」という、墨と紙の特性を生かした若冲オリジナルの技法で描いた作品もあります。鶴、亀、龍、もちろん鶏もいて、本章では自由で遊び心に溢れた若冲ワールドが楽しめます。
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第四章展示風景より

第五章 金閣寺客殿障壁画
本展では、戦後の京都画壇で活躍した大分県日田市出身の日本画家・岩澤重夫が、その最晩年に手がけた金閣寺客殿障壁画も展示。3年間にわたる構想ののち、北の間には「写実の梅」、中の間には「抽象の桜」、そして南の間には「プラチナと薄墨の山水」という主題のもとで制作された障壁画は、雄大で写実的な風景画を得意とした岩澤の集大成であるばかりでなく、あえて抽象画の世界にも挑んだ意欲作にして絶筆でもあります。各部屋の趣向を違えた神々しく美しい世界をぜひ会場でご覧ください。
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第五章展示風景より、岩澤重夫《金閣寺客殿 北の間南面襖絵(紅白梅の図)》 平成21(2009)年 鹿苑寺蔵 ほか

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第五章展示風景より、岩澤重夫《金閣寺客殿 中の間東面襖絵(抽象の桜)》 平成21(2009)年 鹿苑寺蔵 ほか

ミュージアムショップでは、展覧会公式図録図録も販売しています(税込2,750円)。
図録は出品される全作品をカラー図版で紹介するとともに、作品の拡大図版も豊富に掲載。エッセイや作品解説なども収録された充実した内容の一冊です。

大分県立美術館の3階に日本文化が誇る名作がずらりと並ぶさまは壮観で、日本中どこからでもわざわざ出かける価値がある、素晴らしい展覧会です。若冲ファンはもちろん、これから若冲のことを知りたいという方には特におすすめです。
大分というと、ちょっと遠いと思われるかもしれませんが、JR大分駅からは中心市街地循環バス「大分きゃんバス」(100円)に乗車、「オアシスひろば前(県立美術館南)」下車、徒歩すぐです。今回は博多駅や小倉駅などからバスツアーもでています。
また、本展は12月26日(月)を除き、会期中無休。年末年始も開館していますので、九州に行く予定のある方は、大分県立美術館ウェブサイトもチェックしてみてください。

冬の寒い時期には、温かい場所でのんびりと過ごしたいもの。この冬は、日本美術の名作鑑賞後、源泉数、湧出量ともに全国第1位の「おんせん県」大分で、ゆったりした時間を過ごしてみてはどうでしょうか。
関連イベントもあります。詳細は「大本山 相国寺と金閣・銀閣の名宝」特設サイトをご覧ください。

【展覧会概要】
展覧会名 大本山 相国寺と金閣・銀閣の名宝
会 期 2022 年 11 月 26 日(土)~2023 年 1 月 22 日(日)
※12 月 26 日(月)は展示替えのため休展
※会期中一部作品の展示替えあり。詳細は大分県立美術館ウェブサイトでご確認ください。
時 間 10:00~19:00 ※金曜日・土曜日は 20:00 まで(入場は閉館の 30 分前まで)
会 場 大分県立美術館 3 階 展示室 B・コレクション展示室
観 覧 料 一般 1200(1000)円、大学・高校生 800(600)円
※( )内は前売および有料入場 20 名以上の団体料金 ※中学生以下は無料
※障がい者手帳等をご提示の方とその付添者 1 名は無料
※学生の方は入場の際、学生証をご提示ください。
大分県立美術館ウェブサイト https://www.opam.jp/exhibitions/detail/779
「大本山 相国寺と金閣・銀閣の名宝」特設サイト https://www.o-bje.net/lp/shokokuji/