上野アーティストプロジェクト2022「美をつむぐ源氏物語─めぐり逢ひける えには深しな─」が2023年1月6日(金)まで東京都美術館で開催中です。
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「上野アーティストプロジェクト」は、毎年異なるテーマのもと、公募展で活躍する作家を紹介している展覧会シリーズです。第6弾となる今回のテーマは『源氏物語』。
これまでは、書と美術のテーマを隔年で開催してきましたが、本展では源氏物語の多様性を踏まえ、 書、ガラス工芸、染色、そして絵画など、多彩なジャンルの作家7人の作品をとおして、時代を超えて人々を魅了し続ける『源氏物語』の世界を紹介します。

◆出品作家(50 音順)
・青木寿恵(1926―2010)
・石踊達哉(1945―)
・高木厚人(1953―/臨池会)
・鷹野理芳(1959―/日本書道美術院)
・玉田恭子(日本ガラス工芸協会)
・守屋多々志(1912―2003/日本美術院)
・渡邊裕公(1950―/光風会)

◆展覧会構成・作家紹介
【第1章 和歌をよむ】
『源氏物語』には多数の和歌が収められており、これらを通して登場人物の感情やその時の情景が表現されています。
また、書風に関する記述が数多く見られ、当時のかなに対する美意識も伺うことができます。
『源氏物語』の和歌に着目する第1章では、源氏物語を「美のバイブル」と位置付け、独自の感性で和歌を解釈・表現する鷹野理芳や、洗練された空間構成と巧みな筆遣いによって、和歌の世界を書で表現する高木厚人の作品から、源氏物語の世界を紹介します。

鷹野理芳の作品は、華麗な料紙とともに、源氏物語や書を楽しませる工夫が随所に見られ、書をさまざまな視点から鑑賞することができます。和歌と物語に登場する姫君のイメージ像を組み合わせるなど、装飾的な作品にも取り組んでいます。
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第1章展示風景より、 鷹野理芳の作品

本作は、銀箔が貼られた大きなパネルに、左右で歌が呼応するかのように左右で54枚(計108枚)の扇面が配され、その上に物語から読み取った姫君の筆跡と古筆を重ね合わせた書風で、各帖の代表的な和歌が書かれています。
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鷹野理芳《生々流転II~響 ~ 54帖・贈答歌 「桐壺の巻から夢浮橋の巻」まで》作家蔵

高木厚人は、杉岡華邨に師事し、源氏物語に描かれた美意識こそがかな書道の基本であることを学びます。現代語訳本や大和和紀の漫画「あさきゆめみし」を通して源氏物語に魅せられ、光源氏とさまざまな女性との間で交わされる贈答歌を制作するようになります。
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第1章展示風景より、高木厚人の作品

《光源氏と藤壺中宮との贈答歌》では、源氏の和歌は金など明るい色の料紙、藤壺の和歌は銀などやや暗い色の料紙を用いるとともに、書風も墨の濃淡や墨色の変化、また線の強弱を使い分けることで、2人の感情を表現しています。かなの造形美を活かした空間構成、贈歌と返答歌の違いを意識した文字の配置も見どころです。
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第1章展示風景より、(左)高木厚人《光源氏と藤壺中宮との贈答歌》作家蔵

【第2章 王朝のみやび】
華やかな王朝の世界を描く源氏物語には、日本の美意識の根幹となる四季の移ろいや豊かな自然の風景が豊かに表現されています。のちにその様子が絵画化されたことで具体的なイメージが構築されると、さまざまなジャンルで受容され、現在もなお美の拠り所となっています。本章では、現代の視点からみやびな王朝の風景を表現した、ガラス工芸の玉田恭子・染色の青木寿恵・絵画の石踊達哉の作品を紹介します。

玉田恭子は、色ガラスや 墨流し模様などを電気炉で板状にし、それを何層にもかさねて形作る独自の技法を用いて、平安時代の美的理念を表す言葉 「もののあはれ」を作品で具現化しています。
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第2章展示風景より、玉田恭子の作品

玉田の代表作ともいえる《源氏封本抄》の作品。見る角度によって色彩や文字の見え方が異なり、ガラスによって作り出された幻想的空間の中に、現代的な王朝のみやびを見出すことができます。
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第2章展示風景より、(右)玉田恭子《源氏封本抄 「晩光の帖」 》作家蔵など

天然染料の草木染めには自然の命や太陽の香りがあると語った青木寿恵は、自然の生命力から得た感動を独自の手描き更紗(さらさ)で表現しました。
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第2章展示風景より、青木寿恵の作品

源氏物語を題材にした独創的な王朝の世界をモチーフとした作品には、手描きならではのあたたかみが感じられます。『源氏物語』に登場する若紫がエッフェル塔の方を向いて立っている姿を描いた《パリの若紫》などユニークな作品も手掛けています。
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左から:青木寿恵《季それぞれの》、青木寿恵《パリの若紫》いずれも寿恵更紗ミュージアム蔵

石踊達哉は、「花鳥風月」をテーマに、日本の美の世界を現代的に捉えた作品を制作しています。
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第2章展示風景より、石踊達哉の作品

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第2章展示風景より、石踊源氏絵の代表作(左)石踊達哉《真木柱》講談社蔵
 
人物や定型の一場面を描かず、象徴的なモチーフのみで表した抽象的・暗示的な構図の作品も見ることができます。本作は、秋の夕暮れ、匂宮が久しぶりに中の君を訪ね、琵琶を弾いて中の君に聞かせる場面をもとに描いた作品です。
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石踊達哉 《「宿木」の帖より 秋の響 》講談社蔵

【第3章 歴史へのまなざし】
紫式部は、単なる虚構の物語として源氏物語を執筆したのではなく、物語を通して社会の道理や歴史の重要性、人間の本質を伝えようとしました。
さまざまな分野に影響をもたらし、各時代の特色を取り入れ、受け継がれてきた源氏物語の歴史を理解することは、日本の歴史や文化を知ることにもつながるともいえます。
本章では、歴史画家の守屋多々志と、背景にカラーボールペンで歴史的な絵画を描く渡邊裕公の作品を通して、源氏物語やその歴史について考えていきます。

守屋多々志は、前田青邨に師事し、日本美術院で歴史画や風俗画を数多く制作しました。源氏物語への関心も高く、1991年に約3年余りの歳月をかけて源氏物語の扇面画130点を完成させました。淡い色彩と繊細なタッチで、人間の情愛や苦悩、葛藤を表現したこの作品群から、本展では14点を紹介します。
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第3章展示風景より、守屋多々志の作品

須磨へ退去した源氏が、京の人々からの手紙を読んできる場面を描いた作品。緻密な歴史考証をもとに描かれた作品からは、作中の人物の心情まで読み取ることができそうです。
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守屋多々志《須磨「松韻」 》個人蔵

制作過程を「原画の世界への時間旅行」と語る渡邊裕公は、絵の具を使わず、インクの種類や色、太さが異なるカラーボールペンを使い分け、ボールペンの線と点だけで独自の色鮮やかな世界を表現しています。中央に大きく描かれた人物の背景には「豊国祭礼図屏風」、「風神雷神図屏風」などの歴史的絵画や地図などが細密に描かれています。
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第3章展示風景より、(中央)《千年之恋〜源氏物語〜》作家蔵  
横たわる女性の背景に「源氏物語絵巻」が描かれています。

カラーボールペンは色を重ねても各色が混ざらず、透明感のある軽やかな色彩が特徴です。
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第3章展示風景より、渡邊裕公の作品

展覧会をたのしむためのイベントも多数開催されます。イベントの詳細及び最新情報は展覧会ウェブサイトでご確認ください。

サブタイトルが「めぐり逢ひける えには深しな」となっているように、”縁”は、本展のテーマでもあります。
「いつの時代も”縁”は大切にされてきました。そして人との出会いはもちろん、美術館で作品とめぐり逢うことも、ひとつの縁と言えるのではないでしょうか。本展が、人や社会とのつながり方が変化しているコロナ禍において、私たちの生活を見つめ直す機会となれば幸いです。」と本展の担当学芸員である東京都美術館の杉山哲司さんは語ります。
本展では、作品を鑑賞する手引きとして、物語のあらすじや人物関係をわかりやすく紹介しています。お子様向けのジュニアガイドも用意されています。本展で源氏物語に触れてみるのも、新たな”縁”につながるかもしれません。
7人7色の多彩な視点で表現された新感覚の「源氏物語展」をぜひこの機会にご覧ください。

【展覧会概要】
上野アーティストプロジェクト2022「美をつむぐ源氏物語─めぐり逢ひける えには深しな─」
会期:2022年11月19日(土)〜2023年1月6日(金)
会場:東京都美術館 ギャラリーA・C
住所:東京都台東区上野公園8-36
開室時間:9:30〜17:30
※夜間開室:11月25日(金)、12月2日(金)・9日(金)・16日(金)・23日(金)は20:00まで
※入室はいずれも閉室30分前まで
休室日:11月21日(月)、12月5日(月)・19日(月)、12月29日(木)〜1月3日(火)
観覧料:一般 500円、65歳以上 300円、学生以下 無料
※身体障害者手帳、愛の手帳、療育手帳、精神障害者保健福祉手帳、被爆者健康手帳の所持者およびその付添者(1名まで)は無料
※学生、65歳以上、各種手帳の所持者は、証明できるものを提示
※特別展「展覧会 岡本太郎」(会期:2022年10月18日(火)〜12月28日(水))のチケット提示にて入場無料
※事前予約不要(混雑時に入場制限を行う場合あり)

「源氏物語と江戸文化」展も同時開催中です。
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本展では東京都江戸東京博物館のコレクションを中心に、源氏物語をモチーフにした江戸時代の浮世絵、狩野派の絵師による絵画などを通して、江戸文化のなかで多様な展開を見せた『源氏物語』の世界を紹介します。
「美をつむぐ源氏物語」、「源氏物語と江戸文化」どちらの展覧会も一部を除き写真撮影可能。あわせてご覧いただき、バラエティ豊かな源氏物語の世界をお楽しみください。
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「源氏物語と江戸文化」展示風景より

江戸時代以降も、 武家は源氏物語をはじめとする王朝文化を教養の 一種として受容していました。本作は、江戸時代後期の老中で寛政の改革を行った松平定信をはじめ、 徳川御三卿や幕臣らが詠んだ和歌をもとに描かれた作品です。
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狩野栄信/狩野惟信《十二ヶ月月次風俗図》東京都江戸東京博物館蔵

江戸期には印刷技術の普及などを背景に、『源氏物語』は貴族や武士ばかりでなく大衆にも浸透し、関連する書物が数多く出版されるようになりました。その代表的な例が、源氏物語を柳亭種彦が翻案し、歌川国貞(初代、のちの三代豊国)が挿絵を手がけた『偐紫田舎源氏(にせむらさきいなかげんじ)』です。
大筋は源氏物語をもとにしていますが、 舞台を室町時代、主人公・足利光氏は将軍の子という設定に変わっています。歌舞伎の要素も取り入れ、 江戸時代末期の大ベストセラー作品となりました。
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歌川豊国(三代)《源氏四季ノ内 冬》 東京都江戸東京博物館蔵
『偐紫田舎源氏』の一場面から、浅草寺境内で行われた「歳の市」を描いた作品。この図のように物語と江戸の年中行事を組み合わせた画題が多く描かれました。

江戸時代になると、源氏物語は着物や身近な調度品に取り入れられ、ファッションとしても楽しまれるようになります。着物の文様のうち、源氏物語の一場面やモチーフを意匠化した「源氏文様」は、 江戸の人びとに好まれました。
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「源氏物語と江戸文化」展示風景より、主に着物の型染に用いる「源氏文様」の型紙

【展覧会概要】
コレクション展 「源氏物語と江戸文化」
会期:2022年11月19日(土)〜2023年1月6日(金)※会期中一部展示替えあり
会場:東京都美術館 ギャラリーB
住所:東京都台東区上野公園8-36
開室時間:9:30〜17:30
※夜間開室:11月25日(金)、12月2日(金)・9日(金)・16日(金)・23日(金)は20:00まで
※入室はいずれも閉室30分前まで
休室日:11月21日(月)、12月5日(月)・19日(月)、12月29日(木)〜1月3日(火)
観覧料:無料
※事前予約不要(混雑時に入場制限を行う場合あり)