「光彫り」というオリジナル技法の作品を創作する、現代アーティストゆるかわふうの初めての大規模な展覧会が横浜・そごう美術館で開催中です。内覧会でのゆるかわふうさんのトークを交えて、本展のみどころをご紹介します。
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「光彫り」の作品は、建築物の内側に使われる発泡断熱材を使用して制作します。断熱材の背後からLED照明を当て、表面を金属ブラシで削ったり、半田ごてやシンナーで溶かしたりして凹凸をつけ、その彫り具合で濃淡を作り、光と陰影を表現します。壁や床の中に埋め込まれ、ふだんは目にすることがない断熱材ですが、東京藝術大学で建築を学んだゆるかわふうさんにとっては、建築模型を作るための材料として身近なものでした。
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発泡断熱材と制作に使用する工具類

ある時、断熱材の背後から白い光を当ててみたところ、浮かび上がった美しく鮮やかな「青」が、趣味のダイビングで魅せられていた海中の「青」のイメージに重なったそうです。絵の具では表現できない透明感のある奥行きが表現できる、この画材と技法の発見によって、絵画でも彫刻でも映像でもない、唯一無二の「光彫り」は誕生しました。
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ゆるかわふう、制作の様子

さらに昨年からは、「光彫り」を不透明なアクリルでカバーし、その光のトーンを靄がかかったようにぼかした新シリーズを発表しています。

会場は、「海エリア」、「羽衣伝説エリア」、「空エリア」などで構成され、新作を含めた約30点が展示されています。
【海エリア】
クジラやウミガメなど海で暮らす動物の姿を描いた作品を展示したエリアです。青い海の世界が会場いっぱいに広がります。
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【海エリア】展示風景より

大きな身体の生き物が立体的に表現され、画面の中からこちら側に迫ってくるようです。
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クジラを描いた2作目の《YOU GOT WATER 01》2015年と作品について解説するゆるかわふうさん。
「このときは、まだ試行錯誤の状態でした。断熱材の背後から白いLED 照明を当てることで、鮮やかな色彩が浮かび上がります。建築資材から、このような美しい光が現れることに感動を覚えました。」とゆるかわふうさん。

ここでは、水の青さや透明感、広い海の奥行きが美しく表現された世界を見ることができます。
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左:親の帰りを待つホッキョクグマの子供を描いた《極北の空》2021年
右:《YOU GOT WATER 》2019年

水中に夢見るようにたゆたうシロクマ。「上から光をあてることで、浅い海を表現しています。」とゆるかわふうさん。
シロクマの毛が水になびく様子や、お腹のふわふわ感も注目です。
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《うたかたの夢》2020年 

【羽衣伝説エリア】
月、天女、白鳥、松など、羽衣伝説をテーマにした作品を展示したエリアです。天界と地上を繋ぐ神話の世界が、荘厳な雰囲気を漂わせながら美しく表現されています。

《天の羽衣》は羽衣をまとった天女が空から舞い降りてくる姿を描いています。モデルは藤田ニコルさん。本格的な大作品として人間の女性を初めて描いた作品で、「私は美しい光そのものを描きたいのだ」 と自覚できた作品だということです。
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《天の羽衣》2021年と作品について解説するゆるかわふうさん。
「人は表情だけで多くのことを語りかけます。特に目の表情と濡れたような唇の表現には気を使いました。削り過ぎてしまうと修正がほとんどできない技法なので、少しずつ慎重に削っては遠くに離れて確認し、 また少しずつ削ってという作業の繰り返しでした。肌は滑らかな 艶がでるように丹念にヤスリで磨いています。」とゆるかわふうさん。
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《天の羽衣》2021年(部分)
画像だとわかりにくいのですが、実際に見てみると、彫りによる凹凸がよくわかります。

険しい山岳を超えていく二羽の白鳥と、大空に輝く天の川銀河を描いた作品。「星に見せるために開けた穴は、大きさや角度、深さに変化を与えているので、見る角度によって多様な光り方をします。自分が動くと星がまたたくように感じられると思います。」とゆるかわふうさん。山岳と宇宙の間に薄い大気の層も表現されています。無限に続く宇宙空間の広がりが感じられる作品です。
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《Deep Current 》2019年

夜空を飛ぶ白鳥は、羽ばたく音が聞こえてきそうなくらい緻密に表現されています。
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《Deep Current 》2019年(部分)

右は神が降臨する依代である「影向の松」を描いた作品。左の作品の雲間から見える月は、「光彫り」ならではの輝くような美しさで表現されています。
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左:《In The Night》2019年
右:《影向の松》2019年

【空エリア】
「光彫り」をさらに発展させて制作した新シリーズを展示したエリアです。
種類の異なる複数の断熱材を組み合わせて、時間や季節によって変化する色とりどりの空を緻密に表現しています。
無限の奥行きをもった壮大な空の景色が、額縁の中に美しい光のグラデーションとして表現された世界を見ることができます。
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【空エリア】展示風景より、《In The Biginning 》シリーズの連作 2021年

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《The Birthday 0000/01/05 》2021年

【その他】
横浜に停泊している飛鳥Ⅱをモチーフにした新作は今回初公開。
「本展にあわせて、横浜の風景を描こうと思いました。”横浜らしさ”について考えた末、大桟橋に停泊する豪華客船「飛鳥Ⅱ」を描くことにしました。」とゆるかわふうさん。大桟橋のデッキの向こうに、飛鳥Ⅱの後部甲板が見えます。他の人物は冬の服装なのに、画面左端の少女だけがワンピースを着て、風を受けて今にも飛んでいきそうです。
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《I'm flying》 2022年 横浜会場特別出品
近くで見ると作品がとても立体的に見えるのに驚きます。ぜひ会場で確認してみてください。

オレンジ色の断熱材を使用した作品は、光を当てると黄金のように美しく輝きます。
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《約束の地へ》2017年 

会場の最後に展示されている作品は購入することも可能です。気になる作品を見つけたら、チェックしてみてはいかがでしょうか? 
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本展では、一部の作品は背後の照明を消した状態でも見ることができ、作品の繊細な彫り具合と、光による変化を確認することができます。
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《うたかたの夢》2020年と作品について解説するゆるかわふうさん。 

ミュージアムショップでは、作品をモチーフにしたクリアファイル、ポストカードなど、本展オリジナルグッズが販売中。
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シロクマの作品がモチーフになった「クランベリーチョコレートクランチ」(1,798円税込).は、エクシブ湯河原離宮とのコラボレーションパッケージです。
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展覧会図録(1,500円税込)

出品リストに掲載された作品は写真撮影が可能です。
暗い会場に「光彫り」によって描き出された美しく輝く海や空、生き物や風景。絵画でも彫刻でも映像でもない、唯一無二の幻想的な光の世界をぜひ会場でご覧ください。
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会場入口

◆ ゆるかわふう 作家プロフィール
発泡断熱材「スタイロフォーム」を使用した世界初のオリジナル技法「光彫り」を考案。絵画でも彫刻でも映像でもない新ジャンルアートのパイオニアとして注目されている。神奈川県湯河原町を拠点に作品を制作。日本テレビ「ヒルナンデス」、読売テレビ「ミヤネ屋」 、NHK「おはよう日本」、フジテレビ「めざましテレビ」など、テレビ出演多数。
1980年大阪府出身。東京藝術大学美術学部建築科卒業、同大学院美術研究科芸術学(美術解剖学)修了、同大学院美術研究科芸術学教育研究助手を経て現在に至る。
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ゆるかわふう

【開催概要】
光の芸術家 ゆるかわふうの世界 宇宙そらの記憶
会場:そごう美術館(横浜駅東口・そごう横浜店6階)
会期:2022年11月12日(土)~12月25日(日)
休館日:会期中無休
開館時間:午前10時~午後8時 ※入館は閉館の30分前まで
入館料:一般1,200円、大学・高校生1,000円、中学生以下無料
※障がい者手帳各種をお持ちの方、およびご同伴者1名は無料で入館できます。
※クラブ・オン/ミレニアムカード、クラブ・オン/ミレニアム アプリ、セブンカード・プラス、セブンカード提示で200円引