三井記念美術館でリニューアル・オープン記念の第2弾「茶の湯の陶磁器 〜 “景色”を愛でる 〜」展が開催中です。

茶の湯の陶磁器 “景色”を愛でる (1)
人や草花をはじめ、植物や動物、様々な事物に名があるように、茶道具の中にも名を持つものがあります。茶の湯の世界では「銘」と呼ばれますが、それらの名称を決める大きな要素は、茶人の間で古くから共有されて来た「景色」という美意識です。
器の形や釉薬の窯の中での変化を、あたかも自然の景色を見るように器の中に景色を見い出し、そこでひらめいた、いわばインスピレーションで付けられた名称が銘となります

本展では、茶碗や茶入、茶壷、花入、水指、香合といった様々な陶磁器が展示されており(会期中、一部展示替えあり)、それぞれの名品が象徴する「景色」を、自然を見るような心持ちで鑑賞することができます。

展示室1(茶碗)
広く世に知られた銘を持つ茶道具は数多く、銘の種類も様々ですが、展示室1では茶碗を展示。名碗とされる茶碗の多くには、その茶碗独特の器形や文様などにちなんだ銘や、所持者の名前に由来した銘があります。
茶の湯の陶磁器 “景色”を愛でる (212)
展示室1 展示風景

本作は、千利休所持とされる高麗茶碗の古三島茶碗。秀吉の袋師二徳が所持したとされるところから二徳三島の名があります。高麗時代の象嵌青磁の流れをくむ茶碗を三島茶碗と呼んでいるのは、見込みの文様が三島暦に似ているところからの名称といわれます。
茶の湯の陶磁器 “景色”を愛でる (158)
古三島茶碗 二徳三島 伝千利休所持 1 口 朝鮮時代・16世紀

楔形の釉薬の残りの部分が特徴的な景色のこの茶碗は、戦国時代の武将三好長慶の所持とされるところから三好粉引と呼ばれてきました。長慶のあと、豊臣秀吉が所持したと伝わる大名物です。
茶の湯の陶磁器 “景色”を愛でる (174)
重文 「粉引茶碗 三好粉引」大名物 1 口 朝鮮時代・16世紀 (7/9~ 8/7展示)

展示室 2(茶碗)
ここでは前期には国宝の「志野茶碗 銘卯花墻」が展示。日本で焼かれた陶磁器の中で、国宝は2碗しかありませんが、そのうちの貴重な1碗です。銘はその景色から連想される古歌によって付けられました。後期には重要文化財の玳皮盞鸞天目(8/9~9/19展示)が展示されます。
茶の湯の陶磁器 “景色”を愛でる (2)
国宝 「志野茶碗 銘卯花墻」 1 口 桃山時代・16 〜 17世紀(7/9~8/7展示)

展示室 3〔如庵ケース〕茶道具取り合わせ
如庵ケースは、茶道具の取り合わせを展示。床には織田有楽最晩年の消息。茶碗は、有楽所持として伝わる高麗茶碗の大井戸茶碗です。
茶の湯の陶磁器 “景色”を愛でる (24)
展示室3 展示風景

展示室4(花入・水指)
展示室4の正面ケースには川端玉章の京都名所十二ヶ月のうち、1月から6月までを展示。その右側のケースでは花入と水指、左側のケースでは水指と建水が展示されています。作品は、和物の信楽・備前・瀬戸・伊賀・仁清、そして南蛮物。
茶の湯の陶磁器 “景色”を愛でる (214)
展示室4 展示風景

茶の湯の陶磁器 “景色”を愛でる (9)
「京都名所十二月(1月~ 6月)」 12幅の 内6幅 川端玉章 明治31年(1898)

右は、自然釉の中に、貴公子然とした気品が感じられることから「業平」と名付けられた花入。左の「夜叉神」の由来は不明。
茶の湯の陶磁器 “景色”を愛でる (144)
右:「伊賀耳付花入 銘業平」 1 口 桃山時代・17世紀 
左:「伊賀耳付花入 銘夜叉神」 覚々斎直書在判 1 口 桃山時代・17世紀 

一番右の信楽不識形大水指の銘は「山猫」。表千家七代の如心斎が胴に「山猫」と直書しているところから付けられたそうですが、なぜ山猫なのか由来は不明だそう。実際の器と銘を見比べながら「自分ならどんな銘にするだろう」と考えながら鑑賞するのも、本展の楽しみ方の一つかもしれません。
茶の湯の陶磁器 “景色”を愛でる (17)
展示室4 展示風景

ほかにも呉春、応挙の風炉先屏風なども見ることができます。
茶の湯の陶磁器 “景色”を愛でる (147)
右:「流釉釣舟花入」 1 口 野々村仁清 江戸時代・17世紀
左:「梅に小禽図風炉先屏風」2曲1隻 松村呉春 江戸時代・18世紀

茶の湯の陶磁器 “景色”を愛でる (183)
右:「竹図風炉先屏風」 2曲1隻 円山応挙 江戸時代・18世紀と建水の展示

展示室5(茶壺・茶入)
展示室5では主に茶壺、茶入が展示されています。
写真中央は、藤原行成筆とされる雲紙和漢朗詠集の古筆切で、千利休所持として伝わったもの。
茶の湯の陶磁器 “景色”を愛でる (206)
中央:雲紙和漢朗詠集切 伝千利休所持 1 幅 伝藤原行成 平安~鎌倉時代・12 ~ 13世紀

茶の湯の陶磁器 “景色”を愛でる (51)
展示室5 展示風景

足利義政所持とされる大名物で重要文化財の北野肩衝は前期展示。唐物肩衝茶入を代表する優品として、茶道文化史上とても貴重な作品です。
茶の湯の陶磁器 “景色”を愛でる (58)
重文 「唐物肩衝茶入 北野肩衝」大名物 1 口 南宋時代・12 ~ 13世紀 (7/9~8/7展示)

小堀遠州が取り上げた茶入の多くは、 後に中興名物と呼ばれます。中央は茶入に付属する松平不昧の添状で、小堀遠州が茶入選びの席で二度見たとことから二見茶入の銘が付けられたと記しています。
茶の湯の陶磁器 “景色”を愛でる (44)
中央:「松平不昧書状(二見茶入添状)」 1 幅 松平不昧 江戸時代・19世紀と中興名物の茶入

さらに和歌にちなんで館蔵品の中から、和漢朗詠集の古筆切と帖もあわせて展示されています。いずれも景色に関係する題の「雲」「山家」「眺望」の3点です。
茶の湯の陶磁器 “景色”を愛でる (53)
「和漢朗詠集帖「眺望」 」2 冊 近衛家煕 江戸時代・17 ~ 18世紀

展示室6(香合)
展示室6では、和物香合の名品と、永樂保全・和全の交趾写香合が展示。香合には銘が付けられたものは少ないですが、器形そのものの名称と、器形から想像した名称がつけられているものとがあります。鏡餅のような重ねた餅をイメージして「志野重餅香合」、巾着形の器形であることから「織部砂金袋香合」と名付けられるなど、展示作品からは茶人の工夫と遊び心が見て取れます。
茶の湯の陶磁器 “景色”を愛でる (66)
展示室6 展示風景

展示室 7楽茶碗・紀州御庭焼
展示室7では、展示室4に引き続き、正面ケースに川端玉章(1842~1913)の京都名所十二ヶ月のうち、7月から12月までを展示。その右側のケースには楽茶碗、右側のケースには紀州御庭焼の作品が並びます。
茶の湯の陶磁器 “景色”を愛でる (95)
「京都名所十二月( 7 月〜 12月)」 12幅の 内6幅 川端玉章 明治31年(1898)

楽茶碗は、千利休が自ら求めるわび茶の美にかなった茶碗を考え、その指導を受けて長次郎が焼いたものが始まりとされています。
楽茶碗の銘は意識的な命名や、 インスピレーションによる命名などがあり、その多くは器の中に景色を 見い出す審美眼が働いています。
茶の湯の陶磁器 “景色”を愛でる (71)
展示室7 展示風景

本作は、樂家初代長次郎の作品である黒楽茶碗、銘「俊寛」。添状では、千利休が薩摩の門人の依頼で、長次郎の茶碗を三碗送ったところ、この茶碗を残して二碗は送り返されてきたので、『平家物語』にある鬼界島に一人残される俊寛の故事にちなんで命名されたと記されています。
茶の湯の陶磁器 “景色”を愛でる (75)
重文 「黒楽茶碗 銘俊寛」1 口 長次郎 桃山時代・16世紀 

紀州御庭焼は、徳川御三家の一つである紀州徳川家の十代藩主徳川治宝と、十一代藩主徳川斉順が和歌山城内と城下で行った御庭焼を主に指します。 それぞれに「弁慶」、「野分」など景色を愛でた銘が付けられています。
茶の湯の陶磁器 “景色”を愛でる (97)
展示室7 展示風景

徳川斉順が営んだ「湊御殿」で焼かれた清寧軒焼の作品も展示。
茶の湯の陶磁器 “景色”を愛でる (105)
右:「赤楽釣舟花入 清寧軒焼」 1 口 江戸時代・19世紀 
左:「海眺山水図」 1 幅 円山応挙 江戸時代・安永 8 年(1779)

新しくなったミュージアムショップでは、本展開催にあわせて、現代の工芸作家などによる陶磁器も販売中。
茶の湯の陶磁器 “景色”を愛でる (225)
茶の湯の陶磁器のなかで、釉薬や器形に「景色」 を見い出し、ひらめいた銘をつけて鑑賞し、さらに古典文学や和歌の世界に想いを馳せて鑑賞するという、茶の湯独特の世界が楽しめる展覧会。

器に自然の景色を見い出し、わび・さびの美を感じる茶人たちの独特の審美眼を、数々の名器を通して感じてみてはいかがでしょうか。

【開催概要】
リニューアルオープンⅡ 茶の湯の陶磁器 〜 “景色”を愛でる 〜
会期 2022年7月9日~9月19日
会場 三井記念美術館
住所 東京都中央区日本橋室町2-1-1 三井本館7階
電話 050-5541-8600
開館時間 10:00~17:00(金〜19:00)※いずれも入館は閉館30分前まで。最新情報は公式ウェブサイトにて要確認
休館日 月(7月18日、8月15日、9月19日は開館)、7月19日
観覧料 一般 1,000(800)円、大学・高校生 500(400)円、中学生以下 無料
※70歳以上の方は800円(要証明)。
※20名様以上の団体の方は( )内割引料金
※リピーター割引:会期中一般券、学生券の半券のご提示で、2回目以降は( )内割引料金
※障害者手帳をご呈示いただいた方、およびその介護者1名は無料。
ナイトミュージアム割引:会期中毎週金曜日17:00以降の入館で( )内割引料金。