沖縄の復帰50年を記念し、琉球の歴史と文化について、かつてない規模で展観する特別展「琉球」が東京・上野の東京国立博物館で開催中です。
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展覧会は5章構成。先史文化から琉球王国の隆盛、今も受け継がれる祈りの文化、首里城の復興などを、これまで紹介される機会の少なかった考古資料や歴史資料も交えて紹介。東京で琉球・沖縄の歴史と文化に出会うことができるまたとない機会です。
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第1章「万国津梁 アジアの架け橋」
琉球王国は、今の沖縄県から奄美諸島にかけてかつて存在した国家。12世紀以降、一体的な文化圏を形成し、15世紀に政治的な統合を遂げます。本展では、日本や朝鮮半島、中国大陸、そして東南アジアと交流し、アジア各地を結ぶ中継貿易の拠点として栄えた琉球王国の文物を紹介。

本章の序盤では、「万国の架け橋」であることをうたう銘文を刻んだ《銅鐘 旧首里城正殿鐘》(重要文化財)などが展示され、アジアにおける琉球王国の成立と、その繁栄の様子を紹介。
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重要文化財《銅鐘 旧首里城正殿鐘(万国津梁の鐘)》第一尚氏時代・1458年(天順2) 沖縄県立博物館・美術館蔵

古くに海外で作成された地図にも、「琉球」は詳しく記載されていて、その存在感の大きさを伺わせます。
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第1章展示風景より

「アジアの架け橋」である琉球には、さまざまな交易品がもたらされました。首里城をはじめ、沖縄各地のグスク跡や遺跡から出土した品々も、中国、朝鮮、東南アジアなどの器が入り混じり、琉球王国が交易で担った役割を今に伝えてくれます。会場には景徳鎮や龍泉窯でつくられた陶磁器、明時代に現在の中国・福建省あたりで焼かれた「華南三彩」などが並びます。
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第1章展示風景より

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《三彩鴨形水注》、《三彩鶴形水注》 中国・明時代 16世紀(中央ガラスケース内)など

琉球の島々で謡われてきた古歌謡「おもろ」の歌謡集。
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重要文化財《おもろさうし》 第二尚氏時代・18世紀 沖縄県立博物館・美術館蔵 ※会期中展示替えあり

第2章「王権の誇り 外交と文化」
琉球国王第二尚氏(しょうし)は、1470年から約400年にわたり琉球王国を治めました。
本章では、金銀、水晶など色とりどりの玉で飾られた「玉冠」をはじめ、王族が身につけた格調高い衣裳や刀剣、首里城を華やかに彩った漆器や陶磁器など尚家伝来の貴重な品々が一堂に会します。これらの国宝は戦前に東京へ移されていたために沖縄戦の戦火を免れました。
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第2章展示風景より
 
国宝《玉冠[付簪]》は、現存する唯一の琉球国王の冠。琉球独自の美意識が投影された装飾がみどころです。国宝《赤地龍瑞雲嶮山文様繻珍唐衣裳》は、中国・清朝の皇帝から下賜された錦を用いた礼装。玉冠とともに、国の重要な儀式でのみ用いられた冬季の礼装用の表着です。
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国宝《玉冠(付簪)》〔琉球国王尚家関係資料〕 第二尚氏時代・18~19世紀 沖縄・那覇市歴史博物館蔵(中央)、国宝《赤地龍瑞雲嶮山文様繻珍唐衣裳》〔琉球国王尚家関係資料〕 第二尚氏時代・18~19世紀 沖縄・那覇市歴史博物館(右)など[展示期間:5月3日(火・祝)〜5月15日(日)]

琉球の染物といえば王族や貴族階層を中心に着用された紅型衣裳が知られています。本章では鮮やかな色彩で表現された当時の衣裳類が数多く展示。
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第2章展示風景より

琉球王国時代の神女組織のなかで、最高位にあった聞得大君が所持したと伝わる金銅製の簪。カブと呼ばれる半球状の頭部には、太陽とみられる大きな渦や龍が施されています。    
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沖縄県指定文化財《聞得大君御殿雲龍黄金簪》 第二尚氏時代・15~16世紀 沖縄県立博物館・美術館蔵(手前ガラスケース内)など

琉球は日本、中国・清それぞれに従属しつつも王国体制の維持に努め、近世には日中との交流を前提とした独自の王国文化が花開きます。
中国皇帝や日本の大名・公家などに贈られた美しい漆器や染織品などは、王国の高い美意識と技術を物語ります。

左の国宝《黒漆雲龍螺鈿東道盆》は、黒漆塗りに螺鈿で五爪の雲龍文様が施された東道盆。東道盆は神仏への供え物や客人をもてなす際に使用されるもので、同様の品は中国皇帝へも献上されました。
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国宝《黒漆雲龍螺鈿東道盆》〔琉球国王尚家関係資料〕 第二尚氏時代・19世紀 沖縄・那覇市歴史博物館蔵(左)[展示期間:5月3日(火・祝)〜5月29日(日)]ほか

黒漆地にヤコウガイの螺鈿で飾った大盆。中国皇帝の象徴とされる五爪の龍があらわされています。
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沖縄県指定文化財《黒漆雲龍螺鈿大盆》 第二尚氏時代・18~19世紀 沖縄・浦添市美術館蔵(手前ガラスケース内)など 

琉球の文化人でのちに聖人と称された程順則が江戸中期の公家、近衛家煕公に献上した杯。
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《孔林楷杯》 第二尚氏時代・18世紀 京都・陽明文庫蔵 (中央ガラスケース内)など

17~19世紀、漢学の素養のある琉球の王族・士族は、冊封使として渡来した清の官僚や、江戸参府で繋がりをもった日本の人士と交流しました。清と琉球の文化人の書も展示されています。
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第2章展示風景より

首里城とその周辺では芸能音楽が盛んに演じられ、美術・工芸の専門家が数多く活躍していました。琉球画壇に強い影響を与えた中国・清代の画家・孫億、孫億に学び琉球画壇を代表する絵師となった山口宗季(呉師虔)など、東京でまとまって公開される機会が少ない琉球絵画の優品を見ることができます。
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第2章展示風景より、琉球画壇の画家たちの作品※会期中展示替えあり

国宝の刀剣は展示替えも含めて3振展示。その華やかさと緻密さから、往時の王国の栄華を偲ぶことができます。
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国宝《黒漆脇差拵(号 治金丸 )》 〔琉球国王尚家関係資料〕[刀身]室町時代・16世紀 [拵]江戸時代・17世紀 沖縄・那覇市歴史博物館蔵 (左)、  国宝《青貝螺鈿鞘腰刀拵(号 北谷菜切)》〔琉球国王尚家関係資料〕 [刀身]室町時代 15世紀 [拵]江戸時代・16~17世紀 沖縄・那覇市歴史博物館蔵 (右)など [展示期間:5月3日(火・祝)〜5月29日(日)]

ほかにも沈金や螺鈿の格調高い装飾が目を引く杯、箱、盆など、時代によって変遷した技法の特徴や魅力をたどりながら、多彩な琉球工芸の名品が楽しめます。
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《朱漆山水楼閣人物箔絵足付盆および丸重》 第二尚氏時代・18世紀 京都・東福寺蔵(中央ガラスケース内)など 

右は「竹に虎図」を編んだガラス玉(ビーズ)であらわした凝った作りの座屛。その左は朱漆地にヤコウガイの螺細で飾った豪華な卓、沖縄県指定文化財《朱漆牡丹尾長鳥螺鈿卓》沖縄・浦添市美術館蔵[展示期間:5月3日(火・祝)〜5月29日(日)]。
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浦添市指定文化財《朱漆竹虎連珠沈金螺鈿座屛》 第二尚氏時代 17~18世紀 沖縄・浦添市美術館蔵 [展示期間:5月3日(火・祝)〜5月29日(日)](右)など

円覚寺は、琉球黄金時代を築いた尚真王が建立した王家の菩提寺。琉球を代表する名刹でしたが、沖縄戦で壊滅的な被害を受け、現在では廃寺となっています。本展では、同寺に安置されていた貴重な仏像群も見ることができます。
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沖縄県指定文化財《釈迦如来および文殊菩薩・普賢菩薩坐像》 〔旧円覚寺関係木彫資料〕 江戸時代・寛文10年(1670) 沖縄県立博物館・美術館蔵  、沖縄県指定文化財《羅漢立像》〔旧円覚寺関係木彫資料〕 清時代・17世紀 沖縄県立博物館・美術館蔵 

第3章「琉球列島の先史文化」
本章では先史時代の人びとが日々の暮らしに用いた道具とともに、交流によってもたらされた希少な品々を紹介。
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第3章展示風景より、縄文土器などの展示

沖縄の先史文化を代表する装身具がジュゴンの骨でつくられた蝶形骨製品です。ジュゴンが生息するサンゴ礁の海は豊かな海の象徴でもあり、本作品は当時の人びとが海の恵みを活かして暮らしていたことを今に伝えてくれます。
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《蝶形骨製品》縄文時代晩期・前1000~前400年 沖縄・読谷村教育委員会蔵(左)など

本州・四国・九州の弥生文化とは異なり、琉球列島では「貝塚文化」と呼ばれる、海の恵みと交易を土台とした文化が花開きました。遺跡から出土した南海産の大型巻貝であるイモガイや、ヤコウガイを柄杓型に加工した《貝匙》などからは、その豊かな文化を垣間見ることができます。
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重要文化財《貝匙貝塚時代後期・6~7世紀 鹿児島・奄美市立奄美博物館蔵(手前ガラスケース内)など

第4章「しまの人びとと祈り」
本章では、琉球の島々の暮らしと祈りの形に着目。祭祀に代表される琉球の人々の暮らしと祈りの形を通して、土地に根ざした多様な文化、地域の個性を見つめます。

しまのやきものは、琉球王国時代から交易を通して東アジアのさまざまな国から技術を吸収したため、多種多様な技法が特徴。王国最大の窯場だった壺屋では、沖縄で採れる土と伝統的な釉薬を使って庶民の物から王族・士族の物まで、あらゆる階層が使うやきものが作られていました。
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第3章展示風景より、壺屋焼のやきもの

女性が祭祀の中心的役割を担うというのは、琉球文化の特徴のひとつと考えられています。
本章では、村落の祭祀をつかさどる「ノロ」と呼ばれる女性を描いた《ノロの図》や、ノロの祭儀具を入れる櫃、神女が祭祀で身につける「玉ハベル」や「玉ダスキ」といった祭りの道具の展示から、琉球が育んだ祭祀の文化を感じることができます。
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第4章展示風景より

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《ノロの図》第二尚氏時代・19世紀 東京国立博物館蔵(右)[展示期間:5月3日(火・祝)〜5月29日(日)]※東京会場のみ など

厨子甕とは、洗骨を入れて墓室に納めるという琉球特有の墓葬を象徴する蔵骨器。厨子甕には絢爛なものも多く、そこには陶工の手わざを見ることができます。
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《厨子甕》第二尚氏時代・雍正5年(1727) 沖縄・那覇市立壺屋焼物博物館蔵 

また、本章では久米島、宮古島、八重山などでつくられた衣裳も紹介。各島の風土や歴史にかたちづくられた衣裳を比較することで、多彩な文化が花開いていたことがわかります。
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第4章展示風景より

5「未来へ」
本展の終章では、締めくくりとして、首里城の復活を中心に、琉球文化の復興と継承の道のりをたどります。

1879年に明治政府により沖縄県が設置された後、伊波普猷の『古琉球』をきっかけに琉球史や独特の文化事象など沖縄への眼差しが深められ、沖縄学が確立。その流れは琉球・沖縄文化の保護活動へと繋がっていきます。
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《古琉球》 伊波普猷著 明治44年(1911) 沖縄県立芸術大学 芸術文化研究所蔵 (左ガラスケース内)など
本章では、近代の沖縄研究において重要な役割を果たし、沖縄学の父と呼ばれる伊波普猷(1876〜1947)、沖縄を調査して膨大な琉球・沖縄関連資料である「鎌倉資料」を残した鎌倉芳太郎(1898〜1983)の業績を紹介。

そして、本章の展示のメインとなっているのが首里城です。第二尚氏時代に王城となった首里城は、15世紀初めから約450年間、政治・外交の中心でしたが、歴史の中で焼失と再建を繰り返しています。どの時代も再建には困難が伴いましたが、多くの努力により甦ってきました。
会場では、往時の首里城を伝える映像展示などを見ることができます。

右は、昭和度御大礼を奉祝するため、沖縄県から献上された衝立。進貢船の帰港で賑わう那覇港の様子が美しく描かれた、琉球漆芸の極みともいうべき作品です。
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《黒漆首里那覇港図堆錦螺鈿衝立》昭和3年(1928) 鹿児島県歴史・ 美術センター黎明館蔵 (右ガラスケース内)など

左は王国時代の首里城を西側から俯瞰して描いた《首里城図》。
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《首里城図》 第二尚氏時代・19世紀 東京・公益財団法人 美術工芸振興佐藤基金蔵 (左)[展示期間:5月3日(火・祝)〜5月29日(日)]

戦前、首里城正殿前に設置されていた大龍柱(吽形)。
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《大龍柱》(旧首里城正殿前) 第二尚氏時代・康熙 50年(1711) 沖縄県立博物館・美術館蔵

沖縄県では、平成27年度より最新の科学分析や研究情報に基づき、失われた文化遺産の模造復元に取り組んできました。本章ではその成果と、事業に関わってきた人びとの想いが紹介されています。
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第5章展示風景より

技術も記録も多くが失われた状況で、数百年前の作品を復元することは、困難の連続だったそうです。 それでも、作り手と研究者が協力して7年の歳月をかけて65件の文化財が現代に甦りました。会場では、この事業によって制作された琉球の美と技を今に伝える、圧巻の模造復元作品を見ることができます。
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模造復元《 旧円覚寺仁王像(阿吽形)》令和2年度[原資料]室町時代・15~16世紀 沖縄県立博物館・美術館蔵(中央) 、《旧円覚寺仁王像残欠》 [当初材]室町時代・15~16世紀 [後補材]第二尚氏時代・18~19世紀 沖縄県立博物館・美術館蔵(右)など

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模写復元《四季翎毛花卉図巻》 令和元年度 [原資料]孫億筆、 清時代・康煕 51年(1712) 沖縄県立博物館・美術館蔵※会期中場面替えあり 
 
錫製の瓶の上から、色とりどりの飾玉をあしらった酒器。編み込まれたガラス玉は、隙間が小さくなるようにあえて不揃いのものを組み合わせていたことが復元の過程でわかりました。
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模造復元 《美御前御揃(御玉貫 )》平成30年度[原資料]第二尚氏時代・16~19世紀 沖縄県立博物館・美術館蔵(中央)[展示期間:5月3日(火・祝)〜5月29日(日)]

特別展「琉球」公式図録も販売中。東京国立博物館と九州国立博物館の2会場の出品作品約400件すべてを詳しい解説付きで収録した読み応えのある一冊です。
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B5版 492ページ/3,000円(税込)

本展オリジナルグッズを一部紹介!
国宝3振「金装宝剣拵(号 千代金丸)」、「黒漆脇差拵(号 治金丸)」、「青貝螺鈿鞘腰刀拵(号 北谷菜切)」の本展出品を記念し、PCブラウザ&スマホアプリゲーム「刀剣乱舞-ONLINE-」とのコラボが決定!会期中描き下ろしイラストや等身大パネルの展示されるほか、コラボグッズも販売中されます。
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また本展オリジナルのサンリオキャラクターズとのコラボグッズも登場!鑑賞後はぜひショップへもお立ち寄りください。
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沖縄みやげもたくさんあります。
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音声ガイドのナレーターを務めるのは、NHKの連続テレビ小説「ちむどんどん」にも出演中の仲間由紀恵さん。 ※音声ガイド貸出料金:1 台600 円(税込)
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撮影スポット

琉球王国は、海上交易の拠点として大いに栄えましたが、一方で、日中両国にはさまれた小国でもありました。本展では琉球の輝きと苦難の両方を見ることができます。
本展をとおして、琉球・沖縄の歴史と文化に触れ、未来へと歩み続ける沖縄について改めて見つめ直してみてはいかがでしょうか。
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【展覧会概要】
沖縄復帰50年記念 特別展「琉球」東京会場
会期:2022年5月3日(火・祝)~6月26日(日)※会期中、一部作品の展示替えを行います。
会場:東京国立博物館 平成館
住所:東京都台東区上野公園13-9
問い合わせ先TEL:050-5541-8600 (ハローダイヤル)
開館時間:午前9時30分~午後5時 (入館は閉館の30分前まで)
休館日:月曜日
観覧料:一般 2,100円、大学生 1,300円、高校生 900円
※中学生以下、障がい者およびその介護者1名は無料(入館時に学生証、障がい者手帳などを提示)
※本展は事前予約不要(混雑時には入場を待つ可能性あり)
※展示作品、会期、展示期間等については、今後の諸事情により変更する場合があります。最新情報は展覧会公式サイトなどでご確認ください。