すみだ北斎美術館では、春らしい企画展「北斎花らんまん」が5月22日(日)まで開催中です。
チラシ1
展示は「1章 春の到来」「2章 桜 花爛漫」「3章 色とりどりの四季の花」「4章 暮らしを彩る花の意匠」の4章で構成。北斎やその門人たちの作品から、様々な“花”をテーマにした作品約100点が紹介されます。

1章 春の到来 早春の花々
この章で描かれるのは、厳しい冬が終わった後、人々に喜びをもたらす早春の花々。その中心になるのは古くから歌にも詠まれた梅の花です。
IMG_20220314_154920

本図では灰を撒く花咲か爺さんの姿が描かれていますが、桜ではなく梅の花が描かれ、画面左上には、梅の香りや春の訪れへの期待が詠まれた狂歌が添えられています。
IMG_20220314_152809
存斎光一「花咲か爺さん」すみだ北斎美術館蔵(前期)

辛夷(こぶし)やモクレンなども、春の訪れを告げるおめでたい象徴として喜ばれた花々です。
IMG_20220314_152732
葛飾北斎 「文鳥 辛夷花」 すみだ北斎美術館蔵(前期)

2章 桜 花爛漫
江戸時代には、様々な花見の名所が新たに作られ、北斎の作品にも桜を楽しむ人々の様子が多く描かれています。この章では、浮世絵版画や肉筆画から、花見の名所や、人々が花見をする様子を描いた作品が紹介されています。
IMG_20220314_154842

IMG_20220314_153342
蹄斎北馬 「桜下花魁道中図」すみだ北斎美術館蔵(前期)

古くから人気があった桜は、数ある花の中でもとりわけ多く、絵の題材になっています。
現在の品川区北品川に位置した御殿山は、享保年間(1716〜36)以降、江戸屈指の花見の名所でした。北斎の代表作「冨嶽三十六景」にも、花見シーズンの御殿山が描かれています。
IMG_20220314_153516
葛飾北斎「冨嶽三十六景 東海道品川御殿山ノ不二」すみだ北斎美術館蔵(前期)
枝いっぱいに咲く桜は、淡い紅をぼかして摺った後に、色をつけず凸凹のみで表す空摺(からずり)という技法が使われています。ござを広げて酒宴に興じる人々や、扇を持ち浮かれ騒ぐ男性たちなど、様々な花見の楽しみかたも見ることができます。

「新板浮絵」という、赤いすやり霞が使われたシリーズのうちの一つです。浮絵とは、遠近法を利用した形式のこと。現在の 東京都台東区上野に位置する東山寛永寺を描いています。『江戸名所花暦』では「東都第一の花の名所」と称されました。
IMG_20220314_153618
葛飾北斎「新板浮絵東叡山花盛之図」すみだ北斎美術館蔵(前期)

桜は様々な物語にも登場します。
本図は「仮名手本忠臣蔵」四段目の「花籠の段」の一場面を描いたもの。門や窓を閉めて出入りを禁ずる刑罰を受けた塩治判官のために、妻が桜の花を活けています。桜が小道具として登場し、場面を華やかに飾り立てます。
IMG_20220314_153835
葛飾北斎 「仮名手本忠臣蔵 四段目」すみだ北斎美術館蔵(前期)

3章 色とりどりの四季の花
季節ごとの花々の作品も登場します。
この章では、現代の四季感に基づき、春(3月〜5月)、夏(6月〜8月)、秋(9月〜11月)、冬(12月〜2月)に区分し、季節の花々が描かれた作品を紹介。牡丹、桔梗、椿など、精細に描かれた季節の花々の魅力が楽しめます。
IMG_20220314_154951

西村屋与八から出版された大判花鳥画シリーズ 全10図のうちの1図です。本図は、風に揺られる牡丹と蝶を描いており、一瞬を捉える観察眼の鋭さにも注目。花脈、葉脈なども緻密に描き込まれており、花の細部まで観察していたことが分かります。
IMG_20220314_154312
葛飾北斎「牡丹に胡蝶」すみだ北斎美術館蔵(前期)

 画面左には太鼓橋と藤が有名な亀戸天神社、画面右には梅屋敷が描かれ、1つの画面に開花時期の異なる梅と藤が同時に描かれています。
IMG_20220314_154105
葛飾北斎 「新板浮絵亀井戸天満宮之図」すみだ北斎美術館蔵(前期)

菊慈童とは、中国・穆王に愛された侍童。罪を犯して流罪に処されたたものの、その地で菊の露を飲んで不老不死となりました。本作は、菊慈童の周りに赤、 黄、白の菊が多数描かれ、画面を華やかに彩ります。 白菊には空摺が施されており、菊の花弁の柔らかさが伝わります。
IMG_20220314_155837
葛飾北斎 「菊慈童」すみだ北斎美術館蔵(前期)

鉢植えに入れられ、座敷に飾られた福寿草を描いた作品。福寿草は旧暦の正月頃に咲き、正月を祝う花として江戸時代の人々に愛されました。
IMG_20220314_160115
魚屋北溪 「扇に福寿草」 すみだ北斎美術館蔵(前期)

4章 暮らしを彩る花の意匠
この章では、着物や道具など、生活の中の身近な物の柄や装飾として花が意匠化された作品が楽しめます。
IMG_20220314_160307

『万職図考』は北斎の門人、二代葛飾戴斗が考案した刀装具や煙管等、 様々なデザインを集めた版本です。三編では、着物の柄の デザインが紹介されています。雪、月と関係の深い兎、桜の花で雪月花が表されています。
IMG_20220314_163303
二代葛飾戴斗 『万職図考』三編 雪月華 すみだ北斎美術館蔵(前期)

『新形小紋帳』は北斎がデザインした小紋染の模様を集めた図案集。このページでは、花が鶴の形に図案化されて、それぞれ名前や説明が記されています。
IMG_20220314_160638
葛飾北斎 『新形小紋帳』すみだ北斎美術館蔵(通期)

馬尽というシリーズの1図です。菖蒲革風の模様が入った煙草入れと、鸚鵡の図柄の根付が描かれています。通常は菖蒲の文様ですが、ここではデザイン化された馬と蒲公英が施されています。
IMG_20220314_160744
葛飾北斎 「馬尽 駒菖蒲」すみだ北斎美術館蔵(前期)

『万職図考』五編では、硯蓋の蒔絵のデザイン等を紹介。鉄線、朝顔、梅、牡丹、山吹等、様々な種類の 金蒔絵の華やかなデザインが楽しめます。
IMG_20220314_161001
二代葛飾戴斗 『万職図考』五編 金蒔画 てつせん 朝かほ うめ 牡丹 山吹 すみだ北斎美術館蔵(通期)

3階ホワイエでは、綴プロジェクト制作の高精細複製画「十二ヶ月花鳥図」(画:アメリカ・フリーア美術館蔵)が特別展示。撮影も可能です。右から順に1月から12月までの各月に対応する花鳥図が描かれています。落款がないことから作者について議論もありましたが、精緻な描写や動物たちの姿から現在では北斎の作品と考えられています。展示は2022年5月22日(日)まで。
12花鳥図

4階では、常設展プラス「隅田川両岸景色図巻(複製画)と北斎漫画」が中。全長約7mに及ぶ「隅田川両岸景色図巻」は、保存の関係で実物は展示される機会が少なく、なかなか見ることはできませんが、今回複製でその全貌を実物大で見ることができます。
IMG_20220314_161806
また、<『北斎漫画』ほか立ち読みコーナー>では、北斎の絵手本『北斎漫画』、『一筆画譜』や『をどり独稽古』などから数冊ずつ実物大高精細レプリカを展示。毎日入れ替えるそうなので、何が出ているかお楽しみに!

本展の見どころをわかりやすくまとめた、オールカラー8ページのオリジナルリーフレットはオススメ!1階ミュージアムショップで税込価格300円で販売中です。
IMG_20220314_163950

本展では、桜をはじめ、梅、朝顔、桔梗、椿など前期・後期あわせて約35種もの描かれた四季の花を見ることができます。
春めいた陽気になってきました。展示室では北斎や門人たちの描いた四季の花が見ごろです。浮世絵に描かれた花々を通じて、美術館でお花見、いかがでしょうか。
撮影スポット

【開催概要】
企画展「北斎花らんまん」
会期:2022年3月15日(火)〜5月22日(日) ※前後期で一部展示替えあり。
前期 3月15日(火)〜4月17日(日)/後期 4月19日(火)〜5月22日(日)
場所:すみだ北斎美術館
住所:東京都墨田区亀沢2-7-2
休館日:毎週月曜日 ※3月21日(月・祝)は開館、3月22日(火)休館
開館時間:9:30〜17:30(入館は17:00まで)
料金:一般 1,000円、高校生・大学生 700円、65歳以上 700円、中学生 300円、障がい者 300円、小学生以下 無料
※本展のチケットは、会期中観覧日当日に限り、AURORA(常設展示室)をはじめ全ての展示を観覧可能。
※団体での来館は、当面の間、受付なし。
※会期・開館時間・観覧料・イベント・講演会の開催など変更、中止の可能性あり。 最新情報は、すみだ北斎美術館公式ホームページ(https://hokusai-museum.jp/)で確認を。