日本史の教科書でおなじみの《空也上人立像》(重要文化財)をはじめ、平安から鎌倉時代の彫刻の名宝を六波羅蜜寺の歴史とともに紹介する特別展「空也上人と六波羅蜜寺」が、東京国立博物館 本館特別5室で5月8日(日)まで開催中です。
チラシ

本展の見どころ①
重要文化財 《空也上人立像 東京で半世紀ぶりに公開
「市聖」「阿弥陀聖」として知られる空也上人は、平安時代、南無阿弥陀仏ととなえて極楽往生を願う阿弥陀信仰をいち早く広めた僧侶。上人が京都・東山の地に創建した六波羅蜜寺(創建時は西光寺と称した)には、現存最古となる像が伝えられています。運慶の四男である康勝作で、仏師の代表作と考えられています。
頬がこけた痩身の体つきの僧が、首からかけた鉦架に吊るした鉦鼓を右手に持つ撞木で打ち鳴らし、左手に鹿杖を持ち歩く姿は、念仏を勧めて市中を巡り歩いた上人の姿を彷彿とさせます。
開いた口から木造の小さな阿弥陀立像が六体現れ出るさまは、空也上人が「南無阿弥陀仏」の名号をとなえると、その声が阿弥陀如来の姿に変じたとする伝承を立体化したもの。
空也上人と六波羅蜜寺展 (42)
重要文化財 空也上人立像 康勝作 鎌倉時代・13世紀 京都・六波羅蜜寺蔵

この像が制作されたのは鎌倉時代で、上人がこの世を去ってから200年以上が経過していましたが、まるで念仏をとなえ歩いた空也上人を目の当たりにして作られたかのような写実性にあふれた像です。

六波羅蜜寺では正面からの拝観ですが、展示室では360度さまざまな角度から鎌倉肖像彫刻の傑作を存分に鑑賞することができます。横から見るとかなり腰をかがめて歩いていることがよくわかります。
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重要文化財 空也上人立像 康勝作 鎌倉時代・13世紀 京都・六波羅蜜寺蔵

実際に声を出しているかのような喉仏や首筋、力強く地面を踏みしめる筋肉の張った足、杖を握る左腕に浮き出た血管など、とても写実的に表現されています。鹿の皮を衣にした「かわごろも」とみられるゴワゴワした着衣、擦り切れたわらじの表現など、細部の描写をこの機会にじっくりご覧ください。
空也上人と六波羅蜜寺展 (36)
重要文化財 空也上人立像 康勝作 鎌倉時代・13世紀 京都・六波羅蜜寺蔵

本展の見どころ②
平安・鎌倉彫刻の宝庫 六波羅蜜寺の名品が一堂に集う
京都・東山に位置する六波羅蜜寺の周囲は、古くは鳥辺野(とりべの)という葬送の地であり、また信仰の場でもありました。
六波羅蜜寺は幾度か兵火にあいましたが、創建時から伝わる重要文化財 《四天王立像》をはじめ、平安から鎌倉期の名宝が伝来しています。
一堂に集う数々の作品を通じて、大きく歴史が動いた平安から鎌倉の仏像の移り変わりも堪能できます。
空也上人と六波羅蜜寺展 (102)
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【開催概要】展覧会公式サイト
特別展「空也上人と六波羅蜜寺」
会期:2022年3月1日(火)~5月8日(日)
会場:東京国立博物館 本館特別5室
住所:東京都台東区上野公園13-9
電話番号:050-5541-8600(ハローダイヤル) 
開館時間:9:30〜17:00 
休館日:月(3月21日(月・祝)、28日(月)、5月2日(月)は開館)、3月22日(火)
観覧料:一般1,600円、大学生900円、高校生600円、中学生以下無料
※事前予約(日時指定券)推奨
※正門窓口でも当日券を購入可能だが、混雑状況により入場を待つ場合や、当日券の販売が終了している場合有。
本展開催をきっかけに結成された「空也上人ファンクラブ」では、展覧会をより楽しむためのさまざまな情報を随時発信しています。https://kuya-rokuhara.exhibit.jp/fanclub/index.html
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展覧会は2章で構成。第1章「空也上人と六波羅蜜寺の創建」では、現在の六波羅蜜寺にあたる西光寺を創建した空也上人の足跡を、寺創建時の像とともに紹介し、六波羅蜜寺の歴史をたどります。

空也上人は、世の平安を祈って六波羅蜜寺の前身、西光寺の《十一面観音立像》(国宝/六波羅蜜寺の秘仏本尊として現存)を造立した際、同時に梵天・帝釈天、及び四天王像を造像したと伝えられています(増長天のみ鎌倉時代の補作)。
本展では、平安時代当時の一木造の技術と表現を今に伝える四天王像がまとめて出展されています(増長天のみ寄木造で制作)。

中央は、空也上人の弟子である天台僧中信が10世紀後期に造像したと伝えられる《薬師如来坐像》(重要文化財)。中信が西光寺から六波羅蜜寺に改名し、本像を本尊としました。次代に仏師定朝が完成させた、頭体部の中央で左右を接合する寄木造の技法による現存最古のもので、時代の過渡期に位置付けられる像でもあります。
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中央:重要文化財 薬師如来坐像 平安時代・10 世紀 京都・六波羅蜜寺蔵
上記以外:重要文化財 四天王立像 平安時代・10 世紀 (増長天のみ鎌倉時代・13世紀)京都・六波羅蜜寺蔵

ほかにも、空也上人の1周忌にあわせて著された伝記である重要文化財 《空也誄(くうやるい)》 、初期の六波羅蜜寺について写した古写本《六波羅蜜寺縁起》などの貴重な文書も展示されています。
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重要文化財 空也誄[原本]源為憲撰  平安時代・12世紀 愛知・真福寺(大須観音宝生院) 蔵

第2章は「六波羅とゆかりの人々」。
六波羅蜜寺は、京都の葬送の地の一つ鳥辺野の入口にあり、「あの世」と「この世」の境界に位置する寺として、人々の篤い信仰を集めてきました。本章では、六波羅のもつ独特の立地が生み出した六波羅蜜寺のゆかりの品が紹介されています。

平家滅亡からそれほど時を隔てない時期に作られた、平清盛と伝わる像。僧侶の姿で巻物を持ち、これに視線を注ぐようにして座る独特の姿勢で作られています。近くで見ると目じりや額のしわまで精緻に表現されていることがわかります。
六波羅の地には12世紀後半に平家の邸宅が建ち並んでいましたが、寿永2年(1183年)7月、平家は六波羅などにあった邸宅を焼き払い、都落ちしました。
空也上人と六波羅蜜寺展 (65)
重要文化財 伝平清盛坐像 鎌倉時代・13 世紀 京都・六波羅蜜寺蔵

仏教説話集『今昔物語集』の中に、地獄に落ちた源国挙が地蔵菩薩の助けにより蘇生したことから、大仏師定朝に地蔵菩薩像をつくらせ、六波羅蜜寺に安置したという話があります。下はこれに該当すると考えられる像で、中世には六波羅地蔵堂に安置され、篤い信仰を集めていました。
衣には截金による文様が表されています。
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重要文化財 地蔵菩薩立像 平安時代・11 世紀 京都・六波羅蜜寺蔵

六波羅蜜寺一帯は亡くなった人を送る場所で、冥界への入口と考えられてきました。死者は冥界で閻魔王など十王の裁きを受け、次に生まれ変わる世界が決まります。
空也上人と六波羅蜜寺展 (58)
重要文化財 閻魔王坐像 鎌倉時代・13 世紀 京都・六波羅蜜寺蔵

六波羅蜜寺は運慶一門にゆかりの深い寺でもあります。堂々とした体躯と、衣のひだが布の質感を見事に表現した作風から、運慶の作といわれる《地蔵菩薩坐像》(重要文化財)なども残されています。
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重要文化財 地蔵菩薩坐像 運慶作 鎌倉時代・12 世紀 京都・六波羅蜜寺蔵

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左:重要文化財 伝運慶坐像 鎌倉時代・13 世紀 京都・六波羅蜜寺蔵 
右:重要文化財 伝湛慶坐像 鎌倉時代・13 世紀 京都・六波羅蜜寺蔵 

南宋から元にかけて中国・寧波で活躍したとされる陸信忠の、冥界で死者の生前の行いを裁く十王を描いた《十王図》も展示。全十幅が3期に分けて展示されます。
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十王図 陸信忠筆  中国・南宋~元時代・13~14世紀 京都・六波羅蜜寺蔵
画像の(泰広王、初江王、宋帝王)は、 3月21日(月・祝)までの展示となります。

本展に連携して、六波羅蜜寺所蔵の長快作・重要文化財《弘法大師坐像》などの彫刻が、本館11室に展示されていますので、こちらもお見逃しなく。
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会場特設ショップでは展覧会オリジナルグッズを販売中。ポストカードやクリアファイルといった定番グッズから、六波羅蜜寺ゆかりの香や京都の洋菓子店「マールブランシュ」とのコラボスイーツまで、多様なラインナップが揃っています。
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空也上人と六波羅蜜寺展 (75)

京都では、一般に一年の無病息災を願い、正月に「大福茶」を飲む習慣がありますが、今回、六波羅蜜寺に奉納している京都・福寿園の大福茶が特別に販売されています。
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そして注目は展覧会の開催を記念して製作された空也上人立像のフィギュア。全高約13㎝、精密でリアルなフィギュア製作で定評のある海洋堂の制作で、六波羅蜜寺公認です。空也上人立像の表情、手足に浮き出た血管等の肉体表現、6体の化仏、鉦鼓、鹿角杖など細部まで精巧に再現されています。価格は9,800円(税込)。展覧会入場者のみ購入可。個数限定なので購入はお早めに。
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空也上人の没後1050年の御遠忌にあわせて、六波羅蜜寺初の「空也」御朱印も登場!
展覧会の会期中は会場限定の授与。展覧会終了後は六波羅蜜寺での授与が予定されています。
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展覧会のために撮り下ろした空也上人立像の写真を横顔のアップや背面までたっぷり掲載した展覧会図録も販売中。巻末には空也上人立像のポスター(裏面は六波羅蜜寺紹介/六波羅歴史散歩)が付いています!歴史小説家の澤田瞳子さんによる巻頭エッセイ、東京国立博物館の彫刻担当研究員による論文やコラム、X線CT画像などの資料も収録。
展覧会がより楽しめる1冊です。

空也上人立像をはじめ六波羅蜜寺に伝わる名宝が一堂に集まるまたとない機会です。
空也上人は平安時代、京の都で疫病が流行った際に、人々のために念仏をとなえて回り、民衆を救ったといいます。
たび重なる苦難を経ても、創建者である空也上人の想いを伝え続けた六波羅蜜寺。同寺に長く守り伝えられてきた貴重な寺宝を、そこに込められた祈りや願いとともに、この機会に鑑賞してみてはいかがでしょうか。