本展は、“日本の歴史”に着目し、主に高等学校の日本史の授業で取り上げられる人物や事件を軸とし、当時の歴史観に基づき神話の時代から安土・桃山時代、そして北斎の生きた江戸時代の歴史的事象が描かれた作品、弟子の描いた明治時代の錦絵を紹介する展覧会です。
【本展の見どころ】
見どころ①
歴史小説や物語等でも有名な歴史的場面を北斎やその弟子たちの作品で楽しめる。
見どころ②
北斎や弟子が描いたイメージから、作品が描かれた江戸時代当時の歴史の見方を知ることができる。
見どころ③
高校日本史で習う歴史用語の解説、北斎や弟子の作品に描かれている場面の解説もあり、日本史の勉強にも役立つ。
見どころ④
北斎の武者絵を収録した版本『和漢絵本魁』(『絵本魁』初篇)、『絵本武蔵鐙』、『絵本和漢誉』は、展示してあるページと異なるページもパネルで楽しめる。
『武蔵鐙』は日本の武者のみを集めた32図、『絵本魁』『和漢誉』には中国の武者も描かれ、それぞれ31図、30図が掲載されています。3冊中20図 は画面を見開きで縦に使って、迫力を演出する工夫をしているのも見どころ。武田信玄と上杉謙信、宮本武蔵と佐々木小次郎など、歴史上著名な人物も登場します。今回はその一部が展示され、別のページはパネル展示されています。
会場では時代順に作品が紹介されています。
◎神話の時代
『古事記』や『日本書紀』などに記された神話を題材とし、アマテラス、スサノオノミコトなど、神話に登場する神々などを描いた作品が並びます。こうした神話は、江戸時代には日本の歴史の起源として考えられていました。
『富嶽百景』は北斎の富士図を約100 図収載した版本で、本図はその最初のページに描かれたコノハナノサクヤビメです。衣服をチリチリとした線で表現するなど、北斎の描画の特徴がみられます。
葛飾北斎『富嶽百景』初編 木花開耶姫命 (通期)すみだ北斎美術館蔵
コノハナノサクヤビメは『日本書紀』や『古事記』に登場する神で、富士山麓にある浅間神社の御神体としてまつられています。
江戸時代の人々の歴史観は現代とは違いました。例えば、 現在の教科書にある縄文、弥生時代について当時は知られていませんでした。江戸の人々がどのように歴史を認識して いたかを知る手がかりの一つとして、寺子屋の学習で使用さ れた歴史を内容とした教科書があります。
葛飾北斎 『三字経』 日本武命 武内宿祢 神功皇后(通期)すみだ北斎美術館蔵
『三字経』は、明治に出された後摺の本ですが、もとは江戸時代に刊行され、寺子屋で使用された教科書でした。人情本作者で知られる為永春水の撰集で、北斎の弟子の為斎が挿絵を寄せています。本書の叙述は神代の記述から始まり、江戸時代の初めまで述べられており、日本の歴史が神代から始まる当時の歴史観がみてとれます。◎古墳・飛鳥時代
ここでは古墳時代、飛鳥時代におこった仏教伝来や大化の改新など歴史上の出来事が描かれた作品が紹介されています。
御簾の奥の欽明(きんめい)天皇へ、二人の百済の僧が鳳輦(ほうれん)を捧げている場面を描いたもの。百済の聖明王が欽明天皇に仏像や経典を伝えたといわれていることから、本作は日本に仏教が伝わった歴史的場面を描いた作品といえます。
葛飾北斎『三国伝来記』(前期)すみだ北斎美術館蔵
天智天皇の死後、近江朝廷を率いる大友皇子(天智天皇の皇子)と吉野の大海人皇子(天智天皇の弟)が 皇位継承をめぐって争った戦い(壬申の乱、671年) を描いたもの。大海人皇子が勝利 し、飛鳥浄御原宮で即位しました(天武天皇)。
二代柳川重信『日本百将伝ータ話』 二 天武と大友の皇子合戦(前期)すみだ北斎美術館蔵
このほか聖徳太子、大化の改新など、古墳・飛鳥時代に関する人物や出来事が描かれた作品が展示されています。
◎奈良時代
平城京に都がおかれ、貴族の権力者の交代が続いた激動の時代。中国では隋にかわりが唐が建国、日本から引き続き、遣唐使が派遣されました。ここでは、この時期の政治や文化を担った人物に関連する作品が紹介されています。
阿倍仲麻呂は 717年に留学生として入唐し、玄宗皇帝に重用され、李白や王維とも交流しました。
本作は「小倉百人一首」に選ばれた仲麻呂の「天の原ふりさけみれば春日なる三笠の山に出でし月かも」という歌を踏まえたもの。手すりにもたれて、月を見て故郷を思う心境を描いています。
「詩歌写真鏡」は、和漢の有名な歌人 や歌意を題材とした10図が確認されるシリーズ。
こちらは同じく遣唐使の真備大臣こと吉備真備を描いたもの。
本作品は、着物には空摺りとよばれる凹凸のある摺りがほどこされ、きらめきのある真鍮粉が用いられるなど、豪華な作品に仕上がっています。
魚屋北溪「尚歯会番続 吉備大臣」(前期)すみだ北斎美術館蔵
◎平安時代
当初は天皇や貴族が政治権力をもっていましたが、次第に源平の武士が力をつけ、末期には平氏政権が誕生します。ここでは、平将門、源頼光などの武士のほか、紫式部などの文化人を描いた作品が紹介されています。
森高雅「紫式部」(前期)すみだ北斎美術館蔵
平安時代中期の武将で、土蜘蛛退治などの説話で知られる源頼光と、彼に仕えた頼光四天王の一人、卜部季武(うらべのすえたけ)を描いた作品。
北亭為直「賴光大江山凱陣 源頼光朝臣卜部季武」(前期)すみだ北斎美術館蔵
そして時代は平安末期へ。平家台頭の時代に入ります。下は 平氏に反発する後白河法皇の近臣である藤原成親や俊寛が、京都の東山鹿ヶ谷で平氏打倒の密議を行った鹿ケ谷の陰謀を描いたもの。
蹄斎北馬 『平家物語図会』前編一東山鹿谷俊寛が山荘へ会合の図(通期)すみだ北斎美術館蔵
◎鎌倉時代
ここでは源平の合戦も含め、鎌倉幕府の時代を描いた作品を紹介。
下は、源義経は平氏軍の背後の鵯越の断崖をかけ降り奇襲して、 平氏軍に勝利した一の谷の戦い(1184) を描いたもの。画面右側には断崖を降りる義経軍の様子が細かく描かれています。
下は、源義経は平氏軍の背後の鵯越の断崖をかけ降り奇襲して、 平氏軍に勝利した一の谷の戦い(1184) を描いたもの。画面右側には断崖を降りる義経軍の様子が細かく描かれています。
執権となる北条氏などの人物や事件、武家の争いによる社会不安の中で生まれ た鎌倉仏教の開祖日蓮などを描いた作品もあります。
◎室町時代
後醍醐天皇の倒幕運動により鎌倉幕府が滅亡、その後足利尊氏によって開かれた室町幕府の時代に関する作品が展示されています。
最初は動乱の『太平記』の時代を題材に、北条氏最後の得宗北条高時、楠木正成、新田義貞、足利尊氏を描いた作品が並びます。
新田義貞の鎌倉攻めの名場面を描いたもの。義貞が祈る面前に描かれるのは龍神。 手前には義貞が海に投げ込んだ刀が描かれています。
葛飾北斎『絵本和漢誉』新田左中将源の義貞 竜神に祈て稲村が崎を干潟となす(通期、作品パネル)すみだ北斎美術館蔵
応仁の乱(1467~77)は、 将軍継嗣争いや、管領家の家督争いなどに、幕府の実権を握ろうとした細川勝元と山名持豊(宗全)が介入 し、全国の守護大名をまきこんで起こった争い。約10年続き、和睦後も地域的な争乱は全国で続き、戦国の世となっていきました。
二代柳川重信『日本百将伝ータ話』 十一 応仁の乱東西対陣の図(通期)すみだ北斎美術館蔵
◎安土・桃山時代
応仁の乱後、大名が力をつけ群雄割拠した時代。その後、織田信長や豊臣秀吉が出て、全国統一がなされます。
ここでは川中島の合戦や、桶狭間の合戦、本能寺の変など、歴史上の有名な事件、合戦を描いた作品が展示されています。
川中島の合戦の名場面として有名な、上杉謙信と武田信玄の一騎打ちを北斎が描いた作品も。
葛飾北斎『画本武蔵鐙』下 上杉輝虎入道兼信 武田晴信入道信玄(通期)すみだ北斎美術館蔵
本能寺の変を描いた作品。森蘭丸、森坊丸兄弟など忠義を尽くした家臣が大きく手前に描かれ、右奥に信長が描かれています。
◎江戸時代
徳川家康によって開かれた江戸幕府の時代。最初は北斎の弟子・二代葛飾北斎が徳川家康を描いた肉筆画が展示。浮世絵師が江戸幕府将軍を描いた珍しい作品です。
葛飾北斎「忠臣蔵討入」(前期)すみだ北斎美術館蔵
鎖国の時代でも海外との交流はありました。長崎の出島やオランダ船、朝鮮通信使などを描いた作品も登場します。
本作は、幕府に参府するため、日本橋にあった「長崎屋」に宿泊しているオランダ人を、江戸の町人が見物している様子を描いたもの。
二代葛飾北斎「徳川家康束帯座像」(前期)すみだ北斎美術館蔵
葛飾北斎「忠臣蔵討入」(前期)すみだ北斎美術館蔵
鎖国の時代でも海外との交流はありました。長崎の出島やオランダ船、朝鮮通信使などを描いた作品も登場します。
本作は、幕府に参府するため、日本橋にあった「長崎屋」に宿泊しているオランダ人を、江戸の町人が見物している様子を描いたもの。
◎明治時代
明治時代になっても活躍した北斎の弟子による西南戦争を描いた作品も展示されています。西郷隆盛が小さく描かれていますので、探してみてください。
本展のリーフレットが1階ミュージアムショップにて販売中。日本歴史上の人物や事件が、北斎や弟子の作品にどのように描かれているのか、一部、歴史用語の解説も交えてオールカラーで紹介されています。(A4縦長・全8ページ)価格:300円(税込)
撮影スポット
3階にはアメリカ・フリーア美術館蔵の葛飾北斎「新年風俗図(初夢・朝化粧)」の高精細複製画の展示もあります。こちらもお見逃しなく!
日本史が好き、大河ドラマが好き、という方なら絶対楽しめる展覧会。年内は12月28日まで、年始は1月2日から開館ですので、初詣を兼ねて出かけてみませんか。
企画展「北斎で日本史 ―あの人をどう描いたか―」
企画展「北斎で日本史 ―あの人をどう描いたか―」
開催期間 2021年12月21日(火) ~ 2022年2月27日(日)
※前後期で一部展示替えあり
・前期:2021年12月21日(火)~2022年1月23日(日)
・後期:2022年1月25日(火)~2022年2月27日(日)
休館日 毎週月曜日、年末年始(12月29日~1月1日)
※開館:2022年1月2日(日)、1月3日(月)、1月10日(月・祝)
※休館:2022年1月4日(火)、1月11日(火)
開催時間 9:30~17:30(入館は17:00まで)
開催場所 すみだ北斎美術館 3階企画展示室(〒130-0014 東京都墨田区亀沢2-7-2)
※新型コロナウイルス感染予防・拡大防止のため、会期・開館時間・観覧料・イベント・講演会の開催など変更、中止の可能性有り。最新の状況は、すみだ北斎美術館公式ホームページにて確認。