特別展「奥村土牛 -山﨑種二が愛した日本画の巨匠 第2弾-」が11月13日から山種美術館(東京・広尾)で開催中です。

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山種美術館が所蔵する土牛作品は135点を数え、質・量ともに最高の水準を誇ります。本展ではその屈指の土牛コレクションより初期から晩年まで代表作を大公開!《醍醐》《鳴門》《那智》など山種美術館が所蔵する土牛の人気作品をほぼ全部見ることができます。※展示作品及び資料は全て山種美術館蔵

土牛の最高傑作の一点であり、近代日本画のなかでも、傑作の一つに数えられることの多い《鳴門》。
 奥村土牛「鳴門」1959(昭和34)年
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すさまじい轟音を立てて交錯しながら流れていく渦潮が、透明感のある色彩と迫力ある筆致で描かれています。

《鳴門》《城》《那智》といった作品については、下絵もあわせて展示。
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奥村土牛「醍醐」1972(昭和47)年
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淡い色彩で描かれた満開の桜が、柔らかな春の光をまとって、静かに咲き誇っています。枝から優雅にしな垂れる花びらは、まるで流れ落ちる滝のよう。花びらはどこまでも淡く、透明な薄紅色をしています。京都・醍醐寺三宝院のしだれ桜を描いた土牛の代表作の一つ。

土牛は作品に自身のことばを残していて、キャプションで紹介されています。絵の制作の背景や、作者の思いを知ることができるので、ぜひ会場でご覧ください。

42年ぶり公開の作品も。
奥村土牛「鯉」 1948(昭和23)年頃
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優雅に水の中を泳ぐ鯉の姿を鱗を含めて写実的に描いています。美術館の方に伺うと、特に理由があって展示しなかったわけではなく、たまたま展示の機会がなかったとのことですが、次回はいつ見られるかわかりません。この機会にぜひ!

土牛は101年におよぶ生涯を通じて絵筆を握り続けました。本展では長寿を全うする直前まで絵画と向き合い続けた土牛の歩みを見ることができます。
奥村土牛「吉野」 1977(昭和 52)年
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《醍醐》は83歳の時、本作は88歳の時の作品です。

本展では、白寿(99歳)を記念して企画された展覧会のために98歳の時に描いた《山なみ》や、自らしたためた墨書《白寿記念》も第2展示室で展示されています。
右から:奥村土牛「山なみ」 1987(昭和 62)年 、奥村土牛「白寿記念」 1987(昭和 62)年 
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《山なみ》の製作中「今までにやったことのないことをしているんです」と語ったという土牛。98歳で新たなチャレンジをするパワーはすごいですね。

初入選が38歳と遅咲きでしたが、土牛は生涯にわたって院展で活躍しました。今回は山種美術館が所蔵する土牛の院展出展作品35点全てが展示されています。
奥村土牛「枇杷と少女 」1930(昭和 5)年 
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初入選から3年後の41歳に描かれた作品です。その後、1932年(昭和7年)に日本美術院の正会員である同人に推挙されました。

人物画も名作揃い。土牛の作品を見ていくと、土牛が単に「写実」を重視していたわけではないということがわかります。バレリーナの谷桃子さんがモデルの《踊り子》、横綱・栃錦を描いた《稽古》などそれぞれのキャラクターをよくとらえています。
右から:奥村土牛「踊り子」 1956(昭和31)年 、「舞妓」1954(昭和29)年、「稽古」 1966(昭和41)年
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写生を重視した土牛ですが、見たものをそのまま写実的に描くのではなく、「色」や「かたち」を工夫することにより、対象の本質を捉えていく作品も残しています。このことについて、土牛は若い頃に学んだ二人の師からの教えや、日本で紹介 され始めていたセザンヌなどポスト印象派の影響があったと述べています。

奥村土牛「城」 1955(昭和30)年
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天守閣を下から仰ぎ見る構図で描いた《城》。色面を積み重ねて城壁の形態や量感を表しています。

奥村土牛「茶室」 1963(昭和38)年
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京都・大徳寺の真珠庵の茶室の一角を描いた作品。柱や壁の質感は絵具の塗り重ねで表され、色調を抑えた面と直線を幾何学的に組み合わせた、抽象的ともいえるような不思議な構図の絵です。

動物を描いた作品も注目です。
奥村土牛 「兎」1936(昭和11)年(部分)この作品は会場内で撮影OK!
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珍しいアンゴラ兎を飼っている人がいると聞き、写生のもと制作した作品。うさぎの毛並みのふわふわ感がすごいです。「目が楽しいから生きものを描くのが好き」と語ったという土牛。 生きものに対する愛情が伝わってくるようです。
ほかにも鹿や牛、鳥、猫、魚など生きものをモティーフにした作品が多数展示されています。

各地で描いた新鮮な写生をもとに、日本の美しい風景を、叙情豊かに表現した風景画も出展されています。
左から:奥村土牛「大和路」 1970(昭和45)年、「輪島の夕照」 1974(昭和49)年「谷川岳」 1975(昭和50)年 
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上の画像中央の《輪島の夕照》の空の色は、何十回と塗り重ねた絵具が絶妙な色を生み出しています。夕暮れに染まる空の色彩の変化が巧みに表現され、ぜひ一度は実物を見てほしい作品です。

亡くなった人への追悼の思いをこめて描いた作品もあります。
右から:「浄心」 1957(昭和32)年、「蓮」1961(昭和36)年 
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右は、師であった小林古径、左は日本美術院の重鎮、齋藤隆三を偲んで制作した作品。

今回第2展示室では、美術館との関わりが深い作品が展示されています。山種美術館創立者の山﨑種二氏は、約半世紀にわたり、土牛と家族ぐるみで交際し、支援を続けました。

美術館がかつて東京・日本橋兜町にあった時代、併設されていた茶室で正月に茶会が行われていました。その際配布した干支の扇子の原画を、昭和50年から12年間土午か担当します。今回そのうちの8点が展示され、小品でありながらも画家の穏やかな優しいまなざしが感じられる作品です。
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山種美術館に来たらカフェははずせません。今回もカフェでは青山の老舗菓匠「菊家」が展覧会出品作品をイメージして作ったオリジナル和菓子が5種用意されています。
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また、ミュージアムショップでは、出品作品をあしらったクリアファイル、ポストカード、マスキングテープ、 一筆箋など、さまざまなグッズが揃っています。
山種美術館の奥村土牛作品全135点を紹介する作品集『山種美術館所蔵 奥村土牛作品集』も販売中(税込2,200円/2010 年発行)。 今回展の入場券とのお得なセット券もあります(税込2,900円)。詳細はこちら
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土牛が《醍醐》に描いた醍醐寺三宝院の「太閤しだれ桜」は、樹齢約 170 年といわれる名木で、「土牛の桜」ともよばれています。 この「土牛の桜」の後継樹として、住友林業株式会社が組織培養により増殖させた桜が寄贈され、開館 55周年を記念して 2021年11月、山種美術館正面玄関の右手に植樹されました。 現状は、下の画像のとおりですが、早ければ来年、遅くとも2、3年後には花を咲かせるそう。来年の春が待ち遠しいですね。
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展覧会概要  美術館ホームページ
開館55周年記念特別展「奥村土牛 ─山﨑種二が愛した日本画の巨匠 第2弾─」
会期:2021年11月13日(土)~2022年1月23日(日)
会場:山種美術館
住所:東京都渋谷区広尾3-12-36
開館時間:10:00〜17:00(入館は閉館30分前まで)
休館日:月曜日(12月27日(月)、1月3日(月)・10(月・祝)は開館)、1月11日(火)、年末年始(12月29日(水)~1月2日(日))
入館料:一般 1,300円、大学生・高校生 1,000円、中学生以下 無料(付添者の同伴が必要)
※障がい者手帳、被爆者健康手帳の提示者、および介助者(1名)は1,100円 、左記いずれかのうち大学生・高校生は900円
※きもの特典:きものでの来館者は、一般200円引き、大学生・高校生100円引き
※入館日時のオンライン予約が可能(詳細は美術館ホームページを参照)
※会期・開館時間などは変更となる場合あり(最新情報については美術館ホームページなどを確認のこと)