すみだ北斎美術館で、9 月 26 日(日)まで「THE北斎 ―冨嶽三十六景と幻の絵巻―」展が開催中です。

「THE北斎 ―冨嶽三十六景と幻の絵巻―」チラシ-1
すみだ北斎美術館が所蔵する二大名品「冨嶽三十六景」シリーズと、すみだ北斎美術館開館記念展で約100年ぶりの再発見として話題となった幻の絵巻「隅田川両岸景色図巻」を中心に、すみだ北斎美術館が誇る「これぞ北斎」と呼ぶにふさわしい錦絵、摺物、版本など、人気の高い北斎作品約100点が前期・後期にわけて展示されます。
「THE北斎 ―冨嶽三十六景と幻の絵巻―」チラシ-2

はじめて「冨嶽三十六景 山下白雨」のバージョン違いを並べて展示、また北斎の錦絵「桜に鷹」等の版木を使用した火鉢を初公開するなど、見どころがたくさん!
展覧会は2章で構成。
1 章 「冨嶽三十六景のすべて」
この章では、すみだ北斎美術館所蔵の「冨嶽三十六景」46図すべてを、「空間を構成する」「○×△で作られた世界」「驚異の自然」「形のないものを捉える」 「イリュージョンを仕掛ける」「超絶表現」の6節に分けて、それぞれの切り口から、見方のポイント、見どころを紹介、展示されています。

1 空間を構成する
空間表現や構図の面で北斎のさまざまな試みが見られる作品が紹介されています。
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(右)葛飾北斎 「冨嶽三十六景 江戸日本橋 」 天保2年(1831)頃
(左)葛飾北斎 「冨嶽三十六景 御厩川岸より両国橋夕陽見 」天保2年(1831)頃
右の作品は、西洋の透視図法を用いて 奥行きを強調した作品の代表例です。左の作品は手前のものをはっきり、遠くのものをシルエットで表し、奥行きを表現しています。

2 〇✕△で作られた世界
北斎は「冨嶽三十六景」の中で、円や弧などを組み合わせるなど、 幾何学的な構図を用いた作品を発表しています。ここでは北斎の絵の中から幾何学図形を効果的に用いた作品が展示されています。
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(右)葛飾北斎 「冨嶽三十六景 江都駿河町三井見世略図」 天保2年(1831)頃
(左)葛飾北斎 「冨嶽三十六景 武州千住 」天保2年(1831)頃
右の作品は、建物の屋根と富士山の三角が対比するように描かれ、左の作品では堰枠の間に荒川と富士山を描いています。

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葛飾北斎 「冨嶽三十六景 尾州不二見原」天保2年(1831)頃 
桶職人が扱う巨大な丸の桶枠に小さな三角形の富士山が見えますか?

3驚異の自然
北斎が70代で発表した「冨嶽三十六景」は、北斎の生涯の代表作にして最高傑作としても名高い作品であったため、人気の高い図柄は、摺りの状態が異なるものや変わり図も制作されました。
その中でも研ぎ澄まされたモチーフ選択と考え抜かれた構図で名高い「山下白雨」。雷の部分はすみだ北斎美術館のロゴマークのデザイン元にもなっています。
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すみだ北斎美術館では3枚の「山下白雨」を所蔵していますが、左の作品は、富士山の稜線や山頂直下の雪解けをあらわす点、落款の文字に欠けがなく、稲妻の線もシャープで、初摺に近いものと考えられます。中央の作品は、同じに見えますが、じっくり見ると欠けが生じているのがわかります。右は山裾に新たに松林が加えられた変わり図。
同じタイトルの作品でも、並べてみると版が異なることで印象が変わる、木版画ならではの魅力が楽しめます。

4形のないものを捉える
ここでは、風、音、静けさといった無形のものを描き出そうとしたと思われる作品が並んでいます。
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(右)葛飾北斎 「冨嶽三十六景 礫川雪ノ且」 天保2年(1831)頃
(左)葛飾北斎 「冨嶽三十六景 駿州江尻 」天保2年(1831)頃
右の作品は、冨嶽三十六景で唯一雪景色を描いたもの。この絵では3羽の鳥の声を、左の作品では風を描こうとしています。
北斎が捉えようとした形の ないものたちをぜひ会場で感じ取ってみてください。

5イリュージョンを仕掛ける
北斎は自然な景色と見せかけて、現実ではありえないような景色を描いています。ここでは富士山をメインに、北斎が仕掛けたイリュージョンの数々が楽しめます。
例えば下の作品では、夏の河口湖の湖面に、なぜか雪の積もった真冬の富士山が逆さ富士になって映っています。
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葛飾北斎 「冨嶽三十六景 甲州三坂水面」 天保2年(1831)頃

6超絶表現
浮世絵は浮世絵師1人で作るものではなく、業務分担して制作されていました。ここでは絵師たちを支えた彫師(ほりし)や摺師(すりし)など、印刷関係に携わった多くの職人たちの共同作業による超絶表現が堪能できます。
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(右)葛飾北斎 「冨嶽三十六景 本所立川」  天保2年(1831)頃
(左)葛飾北斎 「冨嶽三十六景 東海道品川御殿山ノ不二」 天保2年(1831)頃
右の作品では、職人の動作や、材木の細かな描写に注目。左の作品は、桜の御殿山で楽しむ庶民を描いたもの。近くで見ると、桜の花の部分に無数の花弁が細かく表現されています。

2章 「橋と滝の絶景」
この章では、第1節ですみだ北斎美術館蔵の「諸国名橋奇覧」11図を、第2節で同じく館蔵の「諸国瀧廻り」 8図を前期・後期にわけ展示。

1 ふしぎな橋の構図
「諸国名橋奇覧」に描かれた11図には場所もわからない橋や、北斎がいた当時は失われていた橋もあります。北斎は、有名無名にかかわらず、インスピレーションを受けた橋を選び、ふしぎな橋の構造やそうした橋をめぐる珍しい眺めを描こうとしたと考えられています。
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葛飾北斎 「諸国名橋奇覧 三河の八つ橋の古図」 天保5年(1834)頃 
上の作品は愛知県知立市にあったといわれる八橋を描いたもの。今でもあれば見てみたいですね。ほかにも北斎の選んだふしぎな、珍しい橋の絵が揃っています。

第2節「水のかたちを捉える」
北斎はさまざまな滝に象徴される水のかたちを捉えようと、著名な滝から無名の滝まで多種多様な滝を描きました。この節では、北斎の筆が捉えたさまざまな滝と水の表現が楽しめます。
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葛飾北斎 「諸国瀧廻り 木曽路ノ奥阿弥陀ヶ瀧」  天保4年(1833)頃
上部の丸い滝口から勢い良く落下する水の流れとともに、滝口の部分にゆらめくような波紋が描かれ、滝を通して千変万化する水のかたちを描こうとしています。

3 章 「花と鳥、虫たちの楽園」
この章では、北斎が花や鳥、虫たちを描いた作品のほか、今年新たに発見され、すみだ北斎美術館に寄託された北斎の錦絵「桜に鷹」等の版木を使用した火鉢も合わせて展示されています。この火鉢は昨年新発見されたもので、実物の公開は本展が初めて。
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葛飾北斎「桜に鷹」ほか四面版木火鉢  年代未詳
この火鉢の側面には、葛飾北斎の錦絵「桜に鷹」をはじめとする、浮世絵 版画の版木4種が用いられています。本資料に用いられた 4種の版木はすべて輪郭線を彫った主版で、材質がよく、近くで見ると絵柄の美しいデザインがよくわかります。北斎の一枚摺りの錦絵の版木となると、アメリカのボストン美術館に1点 所蔵されるくらいで、国内での確認は極めて稀だそうです。

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葛飾北斎 「桜に鷹」 天保5年(1834)頃

4章 「幻の絵巻 隅田川両岸景色図巻」
この章では注目の隅田川両岸景色図巻とともに、約100年前の絵巻の所在を伝える資料、さらに絵巻と同じ地点を描いた作品が併せて紹介されています。

1 隅田川の名所
隅田川の両岸には、見世物小屋が建ち並ぶ両国橋界隈、浅草寺など多くの神社仏閣が位置し、また山谷堀を西に向かうと新吉原遊郭がありました。こうした風光明媚な隅田川は、浮世絵の題材としてもよく取り上げられており、 北斎も多くの作品で描いています。
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上に「隅田川両岸景色図巻」の解説、下に同じ地点を描いた作品が展示され、比較が楽しめるようになっています。

2 幻の絵巻隅田川両岸景色図巻
2015年に約100年ぶりに再発見された幻の絵巻「隅田川両岸景色図巻」。かつて北斎壮年期の傑作のひとつと言われながら、2015年に ヨーロッパで発見されるまで、長く行方がわかりませんでした。その後墨田区が取得し、現在はすみだ北斎美術館が所蔵しています。前期・後期で巻替えを行い通期で全巻展示されます。
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両国橋付近から新吉原へ向かう隅田川両岸の風景と、新吉原における遊興の様子が描かれたこの絵巻は、巻末の狂文も含めて全長約7mに及び、現存する北斎の肉筆画の中で最長です。
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隅田川の水面には、橋や船、岸辺の影まで丁寧に描き入れられており、西洋画法の研究の成果が見受けられます。風景・人物表現も見ごたえがあり、宗理期から北斎期への過渡期に位置づけられる貴重な壮年期の傑作です。

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すみだ北斎美術館が所蔵する「冨嶽三十六景」全 46 図を紹介した『THE 北斎 冨嶽三十六景 ARTBOX』がすみだ北斎美術館ミュージアムショップをはじめ、全国書店で販売中です。
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さまざまな切り口で、北斎の生涯の代表作「冨嶽三十六景」の見どころを紹介。細かな点にも着目した分かりやすい解説も魅力です。各図のポイントや作品の背景をより深く知ることができ、本展の復習にもおすすめです。
定価 |2,200 円(税別) サイズ |15 x 15 x 1.8 cm 単行本(ソフトカバー)196 ページ

北斎の描く富士は絵画としてはもちろん、デザインとしても素晴らしいことを改めて実感。北斎だからこそなしえた冨嶽三十六景を思う存分堪能しつつ、江戸時代より観光スポットとして知られた隅田川周辺の名所観光も楽しめる展覧会です。この夏、時空を超えて楽しめる北斎ワールドに出かけてみてはいかがでしょうか。
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撮影OKのフォトスポット

「THE北斎 ―冨嶽三十六景と幻の絵巻―」展覧会公式サイト
会期 2021年7月20日(火)〜2021年9月26日(日)
前期:7月20日(火)~8月22日(日)
後期:8月24日(火)~9月26日(日)
※前後期で一部展示替え予定
会場 すみだ北斎美術館
住所 東京都墨田区亀沢2-7-2
時間 9:30〜17:30(最終入場時間 17:00)
休館日 月曜日、8月10日(火)、9月21日(火) ※ただし、8月9日(月・振)、9月20日(月・祝)は開館
観覧料 一般 1,200円
高校生・大学生 900円
65歳以上 900円
中学生 400円
障がい者 400円
小学生以下 無料
※本展のチケットで、会期中観覧日当日に限り、AURORA(常設展示室)も鑑賞可。
※新型コロナウイルス感染拡大防止のため、会期・開館時間・観覧料・イベント・講演会の開催など変更、中止の可能性あり。最新の情報は、すみだ北斎美術館公式ホームページをご確認ください。