海外における日本の漫画に対する人気は非常に高く、いまや世界共通言語となった日本の漫画=MANGA。その歴史をたどる企画展、「GIGA・MANGA 江戸戯画から近代漫画へ」が、東京のすみだ北斎美術館にて2021年1月24日(日)まで開催中です。
漫画の起源にはさまざまな説があります。
《鳥獣戯画》は、一部の場面に現在の漫画に用いられている効果に類似した手法が見られることもあって、「日本最古の漫画」ともいわれることもあります。しかし、こうした絵巻を見ることができたのは、貴族、僧侶、武将など上流階級の人々だけで、一般的なものではありませんでした。
本展では、漫画=大衆が手軽に読めるメディアであるという考えに基づき、江戸時代中期以降、印刷出版文化が発展し、浮世絵が量産されるようになり大衆化したことから、江戸時代の風刺表現やユーモアが含まれる戯画を、漫画的な表現の出発点としています。
展示は「商品としての量産漫画の誕生」「職業漫画家の誕生」「ストーリー漫画の台頭」の3章構成で、江戸時代の浮世絵版画に始まり、明治・大正時代の諷刺漫画雑誌、昭和初期の子ども漫画等など、江戸、明治、大正、昭和という約230年の流れの中で日本の漫画の歴史をたどれるように構成されています。
特に江戸時代の北斎、国芳、暁斎などの浮世絵版画と、明治以降に台頭した漫画雑誌や漫画本などの近代漫画に着目。時代に合わせ姿を変えながら発展してきた、現代の漫画的表現のルーツといえる作品が楽しめます。
では会場にご案内!
では会場にご案内!
① 浮世絵版画
第1章 商品としての量産漫画の誕生 江戸中期からの戯画の大衆化 ~戯画本・戯画浮世絵~
戯画と呼ばれる、人物の顔や動物などを滑稽さ、諷刺的な意味を持たせて描かれた絵が庶民にも親しまれるようになったのは、印刷出版文化が発達した江戸時代中期以降です。
江戸中期から幕末までの錦絵や版本などには、現代に通じる漫画表現がたくさん含まれています。
江戸中期に京都で生まれた手足の長い人物が特徴の鳥羽絵。腕が長い!
作者不詳「鳥羽絵風戯画 腕相撲」 年代不詳
簡略化された「鳥羽絵」スタイルの画は、その後さまざまな形で発展していきます。
日本人は昔地震は地下の鯰が暴れて起きるものと信じていました。鯰をパロディ風に描いた「鯰絵」もあります。
文字を使った戯画「文字絵」や障子などに映る影を描く「影絵」などの遊び絵も登場。下は富士山、こうもりなどを座敷芸で表現したもの。
歌川国利「有が多気御代の蔭絵」 年代不詳
歌川国貞(初代) 「大津絵所作ノ内 げほふはしごずり 大こく ふくろく」 1857(安政4)年10月
葛飾北斎、歌川国芳など、人気絵師が次々と登場するのもこの時代です。
北斎が弟子たちに自分の絵を教えるために出版した絵手本「北斎漫画」。コマ表現など現在の漫画の原点ともいえるものが含まれています。
葛飾北斎、歌川国芳など、人気絵師が次々と登場するのもこの時代です。
北斎が弟子たちに自分の絵を教えるために出版した絵手本「北斎漫画」。コマ表現など現在の漫画の原点ともいえるものが含まれています。
江戸時代後期には、幕府による改革の失敗、行き過ぎた倹約や飢麓などから、政治や世相を批判する戯画が登場し、民衆の人気を集めました。江戸のヒットメーカー国芳は老中水野忠邦による天保の改革に対する風刺画を描きました。
歌川国芳 「源頼光公館土蜘作妖怪図」 1843(天保14)年8月
河鍋暁斎がことわざを戯画化した「狂斎百図」。ユーモアあふれる暁斎の魅力がたっぷり楽しめる作品です。前中後期で全38枚が展示されます。
左:河鍋暁斎「狂斎百図」 すずめ踊り 1863(文久3)年5月
右:河鍋暁斎 「狂斎百図」 書の大天狗/象の鼻引 1863(文久3)年5月
② 近代漫画 ~第2章・第3章の展示から~
第2章 職業漫画家の誕生 ~ポンチ・漫画の時代へ~
明治になり、それまでの制度や習慣が大きく変わりました。明治という時代の変化、世相の混乱の様子を描いた月岡芳年、小林清親などの作品もあります。彼らは戯画錦絵の最後の時代を飾った絵師たちでした。
歌川芳雪「流行鳥獣興廃競」年代不詳 当時飼育ブームの主役だった兎と鶏の争いを描いたもの。
1862(文久2)年、日本在住のイギリス人やほかの外国人を対象に時局や日本風俗を紹介する漫画雑誌「THE JAPAN PUNCH」がイギリス人チャールズ・ワーグマンによって横浜で創刊されました。日本で「ポンチ」という言葉が使われるようになったのもこの雑誌がきっかけです。
右:チャールズ・ワーグマン 『THE JAPAN PUNCH』1883(明治16)年5月号
イギリスの雑誌「パンチ」を参考に創刊された『團團珍聞』。
『團團珍聞』第1号 1877(明治10)年3月24日
遊び心あふれる諷刺画と文章で人気となった「滑稽新聞」。この雑誌の人気により、明治後期に漫画雑誌ブームが起きました。
『滑稽新聞』第109号 1906(明治39)年2月20日
明治の漫画雑誌ブームを先導した「東京パック」。この雑誌を創刊した北沢楽天は、日本で初めての職業漫画家と考えられています。現代的な意味に近い形で「漫画」という言葉を使い、普及させた一人です。
第1次『東京パック』第1巻第4号 1905(明治38)年7月15日
東京パックは全頁カラーの豪華な雑誌で、当時の世相がよくわかります。
大正時代の「東京パック」には、竹久夢二、小杉未醒、小川芋銭らも寄稿していました。
建築家として有名な伊藤忠太の描いた河童の画。伊東忠太の妖怪好きは有名で、建築にも至る所に動物・霊獣の彫刻を飾ったりしていますが、多くの妖怪の絵も残しています。
伊東忠太ほか『阿修羅帖』第1巻 1920(大正9)年4月
正チャンがリスをお供にお伽の国を旅する「お伽 正チャンの冒険」。日本の漫画史に残る名作漫画の一つです。
この漫画は、西洋画風のモダンな絵柄と、日本では初めての「ふきだし」を使った当時としては斬新なスタイルで、正チャンは国民的人気者になり、日本の漫画史に大きな影響を与えました。正チャンの被っている毛糸の帽子から「正チャン帽」という名称も生まれ、日本初のキャラクターともいわれています。
第3章 ストーリー漫画の台頭 ~昭和初期から終戦まで~
この章では、昭和初期から終戦までの漫画について紹介。
読売新聞日曜付録『読売サンデー漫画』は、大判カラー刷りの豪華な漫画付録。刊行は1年ほどでしたが、多くの人気作品を生み出しました。
読売新聞日曜付録『読売サンデー漫画』1931(昭和6)年1月1日号 1931(昭和6)年1月1日
いたずら好きな子ども健ちゃんを主人公にした新聞4コマ漫画。
横山隆一『江戸ッ子健ちゃん』 1936(昭和11)年12月
昭和初期、女性をテーマにした漫画も登場するようになります。また少しずつ戦争の影響が漫画にも出てくるようになります。
1931(昭和6)年にスタートした「のらくろ」シリーズも、軍隊をテーマにしたものですが、親しみやすい画風で大ヒットし、11年にわたる長期連載となり、戦後にアニメにもなるほどの人気でした。
読売新聞日曜付録『読売サンデー漫画』は、大判カラー刷りの豪華な漫画付録。刊行は1年ほどでしたが、多くの人気作品を生み出しました。
読売新聞日曜付録『読売サンデー漫画』1931(昭和6)年1月1日号 1931(昭和6)年1月1日
いたずら好きな子ども健ちゃんを主人公にした新聞4コマ漫画。
横山隆一『江戸ッ子健ちゃん』 1936(昭和11)年12月
昭和初期、女性をテーマにした漫画も登場するようになります。また少しずつ戦争の影響が漫画にも出てくるようになります。
1931(昭和6)年にスタートした「のらくろ」シリーズも、軍隊をテーマにしたものですが、親しみやすい画風で大ヒットし、11年にわたる長期連載となり、戦後にアニメにもなるほどの人気でした。
改めて漫画の歴史をたどってみて思うのは、日本では本当に古くから戯画・漫画が生活の中にあって、愛されてきたということ。伝統文化と並んで日本が世界に誇る文化の1つとなった漫画ですが、こうした土台があったからこそなんですね。
皆さんもこの機会に漫画のルーツといわれる作品を通して、漫画の歴史についてたどってみてはいかがでしょうか?
ミュージアムショップにて展覧会「GIGA・MANGA 江戸戯画から近代漫画へ」の展覧会公式図録も販売中です。江戸戯画から近代漫画への漫画的表現の変遷を、体系的に、時代の流れに沿って解説。巻頭に本展覧会監修者・清水氏の論文も掲載しています。
『GIGA・MANGA 江戸戯画から近代漫画へ』
仕様|全 284 ページ(並製/縦 257x 横 195mm)
発行|毎日新聞社
定価|2,530 円(税込)
あと、本展と併せてぜひご覧いただきたいのが「クラクフ ドラゴンとドラゴン」展。
すみだ北斎美術館は、2019年11月15日に、ポーランドのクラクフにある“日本美術技術博物館マンガ(通称:マンガ館)”と友好協定を締結しました。
両館の友好協定締結1周年を記念して、マンガ館のあるポーランドの街クラクフのヴァヴェル城に伝わる「ポーランドのドラゴン」と、北斎の龍の画にインスピレーションを得た「日本のドラゴン」をテーマに、ポーランド人のアーティスト6名による 作品が展示されています。
企画展「GIGA・MANGA 江戸戯画から近代漫画へ」公式サイト
会期:2020年11月25日(水)〜2021年1月24日(日) 一部展示替えを実施予定
[前期 2020年11月25日(水)〜12月13日(日) / 中期 12月15日(火)〜2021年1月3日(日) / 後期 1月5日(火)〜1月24日(日)]
会場:すみだ北斎美術館
住所:東京都墨田区亀沢2-7-2
休館日:月曜日(1月11日(月・祝)は開館)、1月12日(火)、年末年始(12月29日(火)〜1月1日(金・祝))
観覧料:一般 1,200円、高校生・大学生 900円、65歳以上 900円、中学生 400円、障がい者 400円、小学生以下 無料
※当面のあいだ、団体受付はなし
※上記料金で会期中観覧日当日に限り、AURORA(常設展示室)も観覧可
※来館の際は、美術館公式ホームページで最新の開館予定を確認のこと
※予告なく期間などが変更となる場合あり
会場内の写真は美術館の許可を得て撮影しています。
会場内の写真は美術館の許可を得て撮影しています。