すみだ北斎美術館では、現在企画展「北斎師弟対決!」が開催中です。
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孫弟子も含めて200人にも及ぶ弟子がいたという北斎。浮世絵研究の先駆者、飯島虚心による北斎の伝記『葛飾北斎伝』には、北斎は弟子に自ら教えることは好まず、出版した絵手本で学習させることで、弟子の能力を引き出し、多くの名手を育てたようです。
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本展ではすみだ北斎美術館蔵品から、師・北斎と弟子20名の作品が、前後期あわせて約100点集結。北斎にどのような弟子がいたのかも詳しく紹介されています。

本展は「1章 人物」「2章 風景」「3章 動物」「4章 エトセトラ」の4つの章で構成され、北斎と弟子が同じテーマで描いた作品を対になるように展示し、どこの部分が北斎の影響を受けたのか、画題ごとに北斎と弟子の作品見比べながら見ることができます。
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会場入口のフォトスポット

 1 章 人物
北斎の描いた人物は多岐にわたり、描き方も繊細なものから コミカルなものまで多彩です。弟子たちは、北斎の描く人々の姿、ポーズなど、師の画風を学びながら、それぞれ独自の工夫もしています。
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北斎は90度に腰を曲げた女性をしばしば描いています。弟子の柳々居辰斎 の作品は同じような姿勢で描かれ、北斎の表現を学んだことが見てとれます。
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左:葛飾北斎「雪中二美人」
右:柳々居辰斎 「兎手柄噺 六 」

下はいずれも戦う武将を描いた作品。つりあがる眉や目、への字に引き結ばれた口などが共通しています。北鵞の武者は、目が血走り歯を食いしばるなど、より鬼気迫る表情で、模倣ではなく、自分なりの表現を追求したことがわかります。卍楼北鵞は葛飾風の描写を多く残し、北斎の弟子という伝承もありますが、北斎門人の抱亭五清の弟子という説もあります。
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左: 葛飾北斎「鎌倉の権五郎景政 鳥の海弥三郎保則」
右:卍楼北鵞 「椿説弓張月巻中略図 山雄(狼ノ名也)主のために蟒蛇を噛て山中に躯 を止む 」

北斎と、謎の弟子と言われている雪斎が描いた花魁と禿は、面差しがよく似ています。
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左:葛飾北斎「大黒酒宴図 」
右:雪斎 「門松と遊女」

北斎の娘、応為の作品『女重宝記』四「女ぼう香きく処」では、優美な指先の描写に注目。
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AURORA(常設展示室)では、北斎の弟子・露木為一が描いた「北斎仮宅之図」(国立国会図書館所蔵)を元につくられた「北斎のアトリエ」再現模型を常設展示しています。晩年の北斎と応為の制作の様子がうかがえます。

2 章 風景
北斎は、従来はあまり人気のなかった風景画というジャンルの人気を高め、定番化しました。弟子も風景を描いた作品を多く残しています。この章では北斎の作風に忠実な作品、一工夫加えた作品など、弟子が北斎の作品を学習しながらも、自身の表現を作り上げようとする様子をみてとることができます。
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いずれも両国橋の花火花火見物で賑わう両国橋の様子を描いた作品。 どちらも両国広小路に立ち並ぶ見世物小屋や屋台、 橋の上の見物客の様子などを細かくとらえていますが、構図が異なり、北斎の作品では、隅田川が奥行をもって表現されており、北寿の作品は両国橋の長さを強調した構図となっています。
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左:葛飾北斎「 新板浮絵両国喬夕涼花火見物之図」
右:昇亭北寿 「新板浮絵両国橋夕景色之図 」

北斎にならい、弟子魚屋北溪も勢いよく水が流れる様子を、直線を用いて表現しています。
魚屋北溪は、当初魚屋を営んで松平志摩守邸の御用をつとめましたが、のちに画業に専念。狩野養川院惟信に学んだ後、北斎の門人となりました。
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左:葛飾北斎 「諸国瀧廻り 美濃ノ国養老の滝」
右:魚屋北溪 「 養老の滝」

「冨嶽三十六景」も、弟子によって描かれています。春婦斎北妙(しゅんぷさい・ほくみょう)は、北斎の作品を忠実に再現しながら、ミニチュア版を制作。ミニチュアならではの北妙の個性が見て取れます。
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左:葛飾北斎 「冨嶽三十六景 隠田の水車」
右:春婦斎北妙「 冨嶽三十六景 隠田の水車」

3 章 動物
北斎は、たくさんの種類の動物を描いています。弟子たちは、想像上の生き物 だけではなく、スケッチができる動物を描く際にも、北斎の描写を丹念に学んでいます。
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北斎が『北斎漫画』二編で描いた、背中を丸めて、しっぽを前方に向けた猫は、 弟子の魚屋北溪や葛飾為斎の作品にもそっくりなポーズで登場。猫の背中や尻尾の様子などは似ているものの、模様は微妙に異なっています。
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左から、葛飾北斎 「北斎漫画」二編 ねこ
魚屋北溪「北里十二時」
葛飾為斎 「山水花鳥早引漫画」第二編 猫

『北斎漫画』二編右頁に描いた「てん」が、為斎の描いた絵手本に登場します。右前肢を左前肢より高く描くなど 細かな点まで共通していて、為斎は北斎のフォルムを踏襲したと考えられています。
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左:葛飾北斎 「北斎漫画」二編 てん
右:葛飾為斎 「山水花鳥早引漫画」第三編 てん 
為斎は、北斎の晩年に門人となり、師の画風を忠実に踏襲。北斎没後は、北斎が歌川派の絵師と合作した百人一首の版本のシリーズを引き継ぐなど、一時、後継者的な立場にありました。

北斎の画風に忠実に描いたカナリア。
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右:葛飾北斎 「小禽」
左:二代葛飾戴斗「花鳥画伝」初編 加奈阿利
二代葛飾戴斗の描いた『花鳥画伝』には、カナリアの他、おしどり、錦鶏、燕など、北斎の画風を忠実に再現した鳥の表現がみられます。
弟子たちが北斎の絵手本を良く学び、画技を受け継いでいたことがうかがえます。

4 章 エトセトラ
この章では、1章から3章のカテゴリーに入らないモティーフが描かれた作品が展示。
北斎は、読本挿絵の芸術性を飛躍的に高めましたが、弟子たちも多くの読本挿絵を手がけています。この章では、読本に登場する北斎の独創的な表現と、それを受け継ぐ弟子の工夫を見比べることができます。
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どちらも炎を描いた作品。モノ クロの挿絵ながら迫力のある表現で描かれています。
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右:葛飾北斎 「新編水滸画伝」十一編 五十五 時遷火を放て翠雲楼を焼
左:二代葛飾戴斗「絵本通俗三国志」五編 七 傅士仁糜芳吶て失火す

風の表現を見比べてみてください。
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右:葛飾北斎 「墨田川梅柳新書」四 天狗源吾們を劫して松稚をすくふ
左:蹄斎北馬 「柳の糸」三 平太郎九原に怪獣を斬る

閃光を描いたもの。放射状の線で光を表現しています。
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左:葛飾北斎 「椿説弓張月」続編 巻三 石櫃を破て曚雲出現す
右:二代葛飾戴斗「画本西遊全伝」四編 五 青竜山の妖怪三蔵を摂去

本展の内容をコンパクトにまとめたオリジナルリーフレット 『北斎師弟対決!』(税込 300 円) がミュージアムショップにて発売中!出展作品のほか、師弟の影響関係などについて、学芸員によるわかりやすい解説も掲載されています。

さまざまなイベントも予定されています。詳細は公式サイトでご確認ください。

これまであまり知られていなかった北斎と弟子との関係がわかる好企画。偉大な師匠のもとで奮闘する弟子たちの様子、ぜひ会場でごらんください。

「北斎師弟対決!」公式サイト
会期:[前期]2020年2月4日~3月8日、[後期]2020年3月10日~4月5日
※前期と後期で一部展示替えを実施。
会場:すみだ北斎美術館
住所:東京都墨田区亀沢2-7-2
電話番号:03-6658-8936 
開館時間:9:30~17:30 ※入館は閉館の30分前まで 
休館日:月(2月24日は開館)、2月25日 
料金:一般 1000円 / 65歳以上・大学・高校生 700円 / 中学生 300円 / 小学生以下無料 メルマガ割引など各種割引あり。詳細はこちら