静嘉堂文庫美術館では「名物裂と古渡り更紗」展が開催中です。本展は、静嘉堂では初めての、“染織”をテーマとした展覧会。
静嘉堂所蔵の茶道具と煎茶道具に含まれる優れた染織品が公開されています。

多様で美しい意匠が見て取れる貴重な渡来織物である「金襴(きんらん)」「緞子(どんす)」「間道(かんどう)」などのことを、「名物裂(めいぶつぎれ)」といいます。
そして、添状や箱書など、茶道具本体に、付属するもの全般のことを「次第」といいますが、更紗などの珍しい染織品でつくられた仕覆などの次第は、本体の茶道具と同様に茶人たちの鑑賞の対象になってきました。

また江戸時代以降、草花・鳥獣・幾何学文様などを色鮮やかに染めた木綿布「更紗(さらさ)」が、ポルトガルやオランダの南蛮船や紅毛(こうもう)船、中国船などによってもたらされました。インド製更紗の一群は、後世「古渡り更紗」と呼ばれ、茶道具では箱の包み裂に、煎茶道具では、茶銚・茶心壺の「仕覆」や「敷物」として重用されました。
インド製の古渡り更紗の風呂敷は何百年も前の染織品がいまだ現役で用いられているものもあるそうです。
大切に扱われてきた茶道具は、それにふさわしい最高級の裂でつくった仕覆に包まれて、いまに伝わります。千利休、小堀遠州などのゆかりの唐物(中国伝来の品)の名物茶道具とともに、その付属品「次第」にも最高級のものを使った茶人たちの美意識をも併せて堪能できる贅沢な展覧会です。

プロローグの展示はまず国宝「曜変天目」から!
国宝 曜変天目(「稲葉天目」) 南宋時代(12~13世紀)
仕覆「紺地二重蔓牡丹唐草文金地金襴仕覆」明時代(14~15世紀)と「白地雲文金襴仕覆」明時代(15~16世紀)
今回は「曜変天目」の仕覆も見ることができる貴重な機会です。今日、5重もの箱によって収納されている「曜変天目」は、最終の内箱の中、貴重な名物裂の仕覆に包まれています。
曜変天目には2つの仕覆が添っており、いずれも中国・明時代前期、今から5~600年ほど前に製作された貴重な絹織物。曜変天目の格に相応しい名物裂の逸品です。
静嘉堂所蔵のもう一つの著名な天目茶碗、重要文化財「油滴天目」は、ラウンジに展示され写真撮影もOK。一番奥のケースが「油滴天目 」 南宋時代(12~13世紀)
その仕覆も見ることができます。「黄地段替り幾何学文金銀入錦仕覆 」 清時代(17~18世紀)
幾何学模様のおしゃれなデザインの仕覆です。
1 名物裂、古渡り更紗を愛でる~「唐物茶入」の次第から
静嘉堂所蔵の著名な唐物(中国製) 茄子茶入ともに、「利休物相(りきゅうもっそう)」 (別称「木葉猿茄子」)の次第(付属品)が展示され、茶道具が染織の名品にどのように包まれていたを見ることができます。
利休物相は、千利休所持によってこの名があり、のち徳川第三代将軍、家光から伊達政宗に下されて以降、仙台藩主・伊達家に長く伝来した“大名物(おおめいぶつ)”の茶入です。重要美術品 唐物茄子茶入「利休物相」【千利休所持・伊達家伝来】の次第
茶入挽家、堆黒菱盆、蒔絵の内箱、仕覆5つ、象牙の替蓋などが展示。アジア圏の多様な染織品で構成され、その次第(付属品)は実に国際色豊かです。
この茶入に付属する5つの仕覆のうち「唐花兎文段毛織」を除く1つは、江戸後期の大茶人としても知られる出雲松江藩主・ 松平不味が「古今名物類聚」(寛政元年-9年発行)「名物裂之部」中に掲載した由緒ある裂です。今回「古今名物類聚」も特別出品されています。

2 ~茶入・棗を包む〜 織りの美、「名物裂」の世界
続いて、静嘉堂所蔵の「茶入」と「棗」の付属品のうちから、評価が高く著名な裂、珍しい裂、また保存の良い美しい裂が精選されて展示されています。
主に中国から独載された貴重な染織品は、書画の表具や袱紗、楽器や能面、茶道具といった道具の袋製作のために用いられてきました。とりわけ戦国時代、一国一城に匹敵するとも言われた「茶入」は、高価な名物裂によって 仕覆が作られ、名物といわれる茶入の多くは、それらに相応しい最高級の染織品に包まれ保管されていました。
重要美術品 大名物 「唐物肩衝茶入樋口肩衝(山井肩衝) 」 南宋~元時代(13~14世紀) と仕覆

肩の張った姿のこの茶入は、唐物肩衝茶入「樋口肩衝(ひのくちかたつき)」で、樋口石見守知秀が所持、のち徳川家康-伊達政宗-徳川家光-伊達忠宗・・・と伊達家に長く伝来した大名物茶入です。仕覆は2つ付属しています。
「白極緞子(はくぎょくどんす)」は、足利義政に仕えた鼓打ちの名手「白極」が義政から拝領した鼓の袋裂であったことに由来するといい、襷(たすき)の地に丸い鳥文が配されています。
もう一つの「望月間道(もちづきかんどう)」は、茶人・望月宗竹所用の裂からの名とも言われています。一見地味ですが拡大して見ると、赤茶・白・縹(はなだ)色(青)の色糸が変化をつけて織られていることがわかります。
「菊蒔絵大棗 不味好 原羊遊斎作(「羊」銘)不昧在判 」 江戸時代・文化14年(1817)
黒塗大棗「利休在判」桃山時代(16世紀)と仕覆

安土・桃山時代、“茶の湯”が大成されてゆく過程で、棗(なつめ)もまた、武野紹鷗や千利休ら茶匠の好み物が制作されました。黒塗りの棗は、茶入同様に大切に扱われたため、これにも優れた仕覆が複数添うことがあります。
千利休ゆかりのこの棗には、金襴の見事な名物裂仕覆2つと、蓮池水禽文を繊細に織り出した裂の仕覆が添っています。
中興名物 「高取大海茶入」と仕覆 江戸時代(17世紀)

遠州の見出した茶入、中興名物の高取大海茶入に添う仕覆は、中国・明時代の金襴や名物裂の清水裂製。内箱の仕覆は異国情緒漂うビロードです。
3 ~茶跳・茶心壺を包む〜染めの美、「古渡り更紗」の世界
更紗とは、草花・鳥獣・人物・幾何学文様などを型や手描きによって色鮮やかに本編布に染めたもの。ことに17~18世紀初頭に日本にもたらされたインド製の更紗は「古渡り更紗」と呼ばれ、珍重されました。大きな反物で運ばれた木綿布、更紗は、名物茶道具の付属品の風呂敷、水指、花入、香合等の包みになどに用いられました。

江戸時代後半から明治時代を通じて盛んとなった煎茶文化では、更紗は主要な道具の仕覆に用いられました。
ここでは茶心壺(茶葉を入れる錫製容器)、茶銚(横手の急須)などに付属している、異国情緒溢れるさまざまなデザインの更紗が楽しめます。
「斑竹仙媒」 清時代(18~19世紀) と更紗袋
「仙媒」とは、「茶合」ともいい、茶葉を掬い茶銚(急須)に入れるもの。あるいは文房具の書き物をするときの腕当てのこと。仕覆はインド(17~18世紀)製。更紗のデザインブック「更紗図譜」も展示。
エピローグ 染織 〜憧れの意匠の広がり~
最後のコーナーでは、名物裂や古渡り更紗を模倣した、ヨーロッパ更紗や和更紗、さらには漆芸品・陶磁器など 他の工芸品にデザインが波及してゆく作例が紹介されています。
岩崎家が御道具用(美術品用)に誂えた、粋な風呂敷(3種)も初公開されています。
桐鳳凰蒔絵章笥(内、壽字尽・名物裂尽) 梶川作 江戸時代(18~19世紀)
桐鳳凰文の時給された正面の扉を開くと、内側に奇抜な染織デザイン をふんだんにあしらった引出が現れ ます。右側の引出では、名物裂の 「童夢桜子」、「蜀江錦」、「大掛金網」、 「花児金閣」の意匠が見て取れます。
「朱泥倶輪珠茶銚 」清時代(18~19世紀) と仕覆
「錫梅花式茶心壺 「劉孟玉」銘」 清時代(18~19世紀) と 仕覆
仕覆はいずれも 19世紀ヨ一口ツパ製のもの
青花祥瑞写捻文深鉢(水屋甕)「安永八年好之」清時代(1779年頃)

日本からの注文品とみられる、安永8年(1779)の紀年銘も入る貴重な 「祥瑞染付」スタイルの水屋甕。細部に古渡り更紗によく見られる数々の洒落た“丸文”が描かれ ています。
静嘉堂の茶道具コレクションとともに、様々な「名物裂」、「古渡り更紗」が楽しめる展覧会。茶道にあまり詳しくなくても、詳細な解説もありますし、美しいデザインを見ているだけでも充分楽しめます。
永い歴史をへて、今日まで伝わる繊細な手の技を伝える染織の優品を、この機会にぜひ会場でご覧ください。
永い歴史をへて、今日まで伝わる繊細な手の技を伝える染織の優品を、この機会にぜひ会場でご覧ください。
会期:2019年11月2日(土)~12月15日(日)
休館日:毎週月曜日(ただし、11月4日は開館)、11月5日(火)
場所:静嘉堂文庫美術館
住所:東京都世田谷区岡本2-23-1
TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
時間:10:00~16:30(入館は16:00まで)
入館料:一般 1,000円、大高生 700円、障害者手帳持参者および同伴者1名 700円 ※20名以上の団体、200円割引※中学生以下無料
会場内の写真は美術館の許可を得て撮影しています。









