「北斎の橋 すみだの橋」が、北斎ゆかりの地・東京都墨田区にある「すみだ北斎美術館」で開催されています。
世界的に人気のある江戸時代の浮世絵師・葛飾北斎(1760−1849)。本展は、そんな彼の描く浮世絵のなかでも“橋”に着目する展覧会です。北斎の描いた様々な橋をきっかけとして、橋の様々な魅力に迫ってゆきます。
会場では、名所の橋だけではなく、江戸時代の様々な橋の構造に注目した北斎の代表作『諸国名橋奇覧』の風景画シリーズ全11点を前後期に分けて展示。さらに北斎が夢の中で見た橋を1図にした『百橋一覧』や、『冨嶽三十六景』の中の橋を描いた作品、北斎と門人たちが描いた橋が一堂に展示されています。さらに北斎が一生をすごしたすみだという地域にも着目して、墨田区が橋の多い区であることにちなみ、橋の文化的側面もわかりやすく紹介されています。
展覧会は第1章と第2章に分けて構成。
◆1章 北斎の橋
北斎の作品には、橋を描いたものが多くあります。中でも富嶽三十六景の後に書いた諸国名橋奇覧は北斎風景画の傑作です。この章では諸国名橋奇覧を始め北斎門人が描いた様々な橋や、版本に登場する少し変わった橋の作品が紹介されています。
名所の橋だけでなく、諸国のさまざまな橋の構造に注目し、北斎ならではの視点で捉えた代表作「諸国名橋奇覧」の風景画シリーズ全11点を前後期で分けて展示。名所の橋だけではなく構造の面白い橋も取り上げています。 一直線のつり橋、大きく弧を描く太鼓橋など、北斎なりの視点で捉えた風景画が楽しめます。
葛飾北斎 「諸国名橋奇覧 足利行道山くものかけはし」天保5年( 1834)頃 大判錦絵 すみだ北斎美術館
葛飾北斎 「諸国名橋奇覧 かうつけ佐野ふなはしの古づ」 天保5年( 1834)頃 大判錦絵 すみだ北斎美術館
葛飾北斎 「諸国名橋奇覧 東海道岡崎矢はきのはし」 天保5年( 1834)頃 大判錦絵 すみだ北斎美術館
葛飾北斎 「諸国名橋奇覧 三河の八つ橋の古図」天保5年( 1834)頃 大判錦絵 すみだ北斎美術館
葛飾北斎 「諸国名橋奇覧 すほうの国きんたいはし」天保5年(1834)頃 大判錦絵 すみだ北斎美術館
北斎が夢の中で見た橋を描いた「百橋一覧」の後摺作品。各橋の横に全国の有名な橋の名が加えられています。葛飾北斎 「諸国名橋一覧 」年代未詳 大々判錦絵 すみだ北斎美術館
名作「冨嶽三十六景」シリーズからも「江戸日本橋」が展示されています。 葛飾北斎 「冨嶽三十六景 江戸日本橋」 天保2年( 1831)頃 大判錦絵 すみだ北斎美術館
琉球(現在の沖縄県)の名所八景を描いた8枚からなる揃い物のうちのひとつです。 那覇湾を守る三重城と陸地を結ぶ海中道路、その途中にあった臨海寺を描いています。
葛飾北斎 「琉球八景 臨海湖声」天保3年( 1832)頃 大判錦絵 すみだ北斎美術館 ピーター・モースコレクション
乳母が子供に古今の名歌を集めた小倉百人一首の歌を優しく絵解きするという趣旨で企画された、北斎最後の大判錦絵の揃い物のうちのひとつです。
葛飾北斎 「百人一首乳母か絵説 在原業平 」 天保6年( 1835)頃 大判錦絵 すみだ北斎美術館
北斎の門人が描いた橋も展示されています 。
昇亭北寿 「東叡山麓不忍池弁才天図」天保( 1830-44) 初期以降 大判錦絵 すみだ北斎美術館
昇亭北寿 「東都日本橋風景」文化元~6年 (1804-09)頃 大判錦絵 すみだ北斎美術館
北斎や門人は物語や絵手本といった版本の中で様々な橋を描いています。版本には物語の中で橋が重要な意味を持つ一場面として描かれることもあるし、実際に実在しない想像上の橋も登場します。
◆2章 すみだの橋
この章では、すみだの橋を取り上げ、北斎が生きた時代の橋以降の変遷を、錦絵に描かれた橋だけでなく、様々な関連資料から多角的に追っていきます。インフラという本来の目的のほか、すみだ地域の橋の建築や歴史も辿ることができます。
墨田区の橋の歴史を紐解いてくことで、北斎や門人たちの描く橋をまた違った視点から楽しめます。
橋は古くから、川や谷といった難所をのりこえるため、なくてはならないものでした。その構造や種類は、時代の政治的な理由、技術的な制約の中で、様々に変化し発展してきました。
すみだ地域は江戸時代 隅田川の流れに加えて、整備された運河や農業用水、下水など大小様々な川があったことから、多くの橋が架かっていました。すみだの橋を描いた北斎作品も多く残っています。
明治時代になると 西洋の技術の習得などもあり新たな構造の鉄橋が架けられるようになります。 その後も関東大震災などを契機に架け替えられ現在に至ります。
墨田区には、現在も両国橋、吾妻橋、蔵前橋、駒形橋など、魅力的な橋がたくさんあります。これらの橋がどのように発展し、現在まで続いてきたのか、錦絵などに描かれた橋や絵葉書、図面、関連資料を通じて紹介されています。
歌川広重「名所江戸百景 小梅堤」安政4年(1857) 大判錦絵 江戸東京博物館
小梅堤とは曳舟川の土手のこと。向島の神社に参詣する人々でにぎわいました。
昇斎一景「東京名所四十八景 本所三ッ目橋より一ッ目遠景」明治4年(1871) 大判錦絵 江戸東京博物館
光と影の移ろいを巧みに表現した「光線画」と呼ばれる風景画で一世を風靡した小林清親や、その門人の井上安治の叙情豊かな作品も展示されています。
小林清親「柳島日没」明治(1868-1912)前期大判錦絵 江戸博東京博物館
井上安治 「東京真画名所図解 枕橋」明治14~22年(1881-89)四つ切判錦絵江戸東京博物館
明治以降にできた区内の橋の資料も展示され、すみだ地域の歴史や橋の多彩さを改めて実感することができます。
駒形橋の絵葉書
両国橋は、明暦の大火(1657)以降の本所地域の開発に伴い、そこへの交通インフラとして建設されました。
江戸の賑わいの象徴でもあった両国橋は、花火は夕涼みなど季節の行事と共に多くの絵に描かれてきました。
葛飾北斎『絵本隅田川 両岸一覧』中 両国納涼 一の橋弁天無縁の日中年代未詳 大本 2冊 すみだ北斎美術館
昇亭北寿「東都両国之風景」天保(1830-44)初期以降大判錦絵 すみだ北斎美術館
二代歌川広重「東都両国橋渡初寿之図」安政2年(1855) 大判錦絵江戸東京博物館
江戸時代最後の架け替えが行われた時の渡初めの様子が描かれています。画面右上の文章には84歳の老人とその息子、孫と長寿の家の三代を選んで渡り初めの任に命じたことが記されています。
また吉良邸が近いこともあり赤穂浪士と共に描かれた錦絵もあります 。
歌川貞秀「義士両国橋退去図」文久3年(1863) 大判錦絵江戸東京博物館
明治8年には西洋式の木橋として架け替えられましたが、これはその前の様子。橋の構造が詳細に描かれています。
三代歌川広重「東京三十六景 両国橋夕すゞみ」明治3年(1870) 大判錦絵 紅林章央氏
今後すみだの橋を渡るときの見方が違ってきそうです。
会場には撮影スポットもあります。
ふだん何気なく渡っている橋について、再認識できる展覧会。
この機会に北斎の絵を通して、橋の魅力を、見つめ直してみませんか?
『北斎の橋 すみだの橋』
2018年9月11日(火)~ 11月4日(日)
前期:9月11日(火)~10月8日(月・祝)
後期:10月10日(水)~11月4日(日)
会場:東京都 両国 すみだ北斎美術館
時間:9:30~17:30(入館は閉館の30分前まで)
休館日:月曜(9月17日、24日、10月8日は開館、翌平日休館)
料金:一般1,200円、 高校生・大学生900円、中学生400円、 65歳以上900円 小学生以下は無料
※会場内の写真は美術館の許可を得て撮影したものです。