近代京都画壇の雄・木島櫻谷(このしま おうこく)(1877-1938)の生誕140年を記念した展覧会『生誕140年記念特別展 木島櫻谷 近代動物画の冒険』が、東京六本木の泉屋博古館分館で開かれています。今回内覧会に参加しましたので、その様子をご報告します。
櫻谷の生誕140年を記念した本展では、彼の画業で最も高く評価された動物画を中心とした約40件を展覧。代表作はもちろん、初公開の作品も多数展示されています。
櫻谷は明治10年(1877)に京都・三条室町の商家に生まれ、円山・四条派の流れを汲む日本画家・今尾景年に師事しました。
20代から頭角を現し、明治後半から大正期にかけて「文展」(文部省美術展覧会、日本初の公設展)の花形として活躍。京都画壇の巨人・竹内栖鳳と並び立つ人気を博しました。
しかし、昭和初期から徐々に画壇と距離を取るようになり、衣笠の自邸で書画や詩作に没頭する隠遁的生活を送るようになりました。61歳で没後、作品が散逸したこともあって「知られざる画家」とされてきました。
櫻谷の再評価のきっかけとなったのが、2013年に泉屋博古館で開催された回顧展でした。その平明で清澄な画風に大きな反響が寄せられ、その後未知の作品が続々と見い出されて、近年再評価の機運が高まっています。
櫻谷の画業のなかで最も高く評価されるのが動物画。本展は、櫻谷が描いた“動物”に着目し、その代表作はもちろん未公開作品を一堂に公開!多彩な表現と制作背景も紹介されています。
併せて櫻谷文庫に遺された多くの資料調査から、制作風景や画材なども紹介。
いくつか作品をご紹介します。
※会場内の写真は主催者の特別の許可を得て撮影したものです。
右から
1《野猪図》明治33(1900)年 個人蔵
櫻谷24歳。今に残る最も若い時代の作品です。 目の前を走り抜けていくイノシシ。その勢いに驚いて草むらから飛び立つ鳥。毛並みの一本一本を墨の濃淡で丁寧に描いています。
2《猛鷲図》明治36年(1903) 株式会社千總
京都の老舗染織会社が明治36年に制作した染織壁掛(天鵞絨友禅)の原画という点でも大変貴重です。風に向い翼を羽ばたく大鷲の様子を水墨と淡彩で力強く表現、そして光を感じさせる陰影表現には西洋画の影響も感じられます。
5《初夏・晩秋》明治36年(1903) 京都府(京都文化博物館管理)
右隻が初夏、左隻が晩秋で、それぞれに6頭の鹿の群れが描かれています。 初夏では鹿の子模様の短い角の姿をした鹿が、傍らには小菊が描かれています。晩秋では冬毛に変わった鹿が長い角を付け、傍らにに桔梗が咲いています。
6 《寒月》大正元(1912)年 京都市美術館
櫻谷が冬の鞍馬貴船に滞在中に体験した光景を表わした作品。
月に照らされた雪の上を歩く一匹の狐。近くで見ると、鋭い目つきと周囲を警戒している様子。一見モノトーンですが、雪はただ白いだけでなく、粗い岩絵具を使うことで、雪が反射するようなキラキラした様子を再現。狐の茶の毛に白い冬毛を描き入れ、スーッと直線に描いた竹も墨の濃淡と群青を使用し、陰影や節を丁寧に描き込んでいます。夏目漱石が「写真屋の背景」と酷評したことでも有名な作品ですが、ただの写実にとどまらない構成美、再現が難しいとされる空の色など、とても素晴らしい作品だと思います。 皆さんはいかがでしょうか?
7《獅子虎図屏風》明治37年(1904)個人蔵
洛中の旧家の伝来品。今回いくつかの初公開品の共通するのは、長らく京都内外の個人宅で大切に伝えられてきたこと、夏に描かれていること、櫻谷20歳代の作であること、そして動物を描くことです。京都の祇園祭では主に宵山の時期に「屏風祭」といって、山鉾町にある旧家・老舗がそれぞれの所蔵する美術品・調度品などを飾り、公開しますが、泉屋博古館学芸課の実方さんから、屏風祭りの飾りとして描いた作品では、という説明がありました。
手前 8《熊鷲図屏風》 明治時代 個人蔵
巧みな水墨技法に西洋画の写実表現が融合しています。これも今回初公開。
右側には、四条円山派の画家らしい、応挙風の極彩色の孔雀図も展示。
スケッチ帳や動物の写真のスクラップ帳などもあり櫻谷が動物研究に熱心だったことがよく分かります。
晩年は「狸の櫻谷」ともいわれ、衣笠村にひょっこり出てくるタヌキを愛情深く描いています。
14《田舎の秋》明治40年(1907) 華鴒大塚美術館
明治後半に流行した農村の風俗画です。無邪気な子供、農家で働く人々の様子とともに、共に暮らす牛、鶏など動物たちがとても愛らしく描かれています。
20《かりくら》明治43(1910)年 櫻谷文庫
近年、櫻谷文庫から表装のない劣化した状態で発見され、今年修復を終えたばかりという「かりくら」。明治43年、当時日本の最高峰と言われた文部省美術展「文展」で見事入賞した作品です。
明治44年にローマ万国美術博覧会に出品された後、長い間行方不明だった幻の作品です。高さ2メートル50センチの対幅の大作で、ススキ野原を駆ける馬たちは躍動感にあふれています。ダイナミックな構図と、比較的明るい色を使った豊かな色彩、ススキやその間に花を咲かせる秋草の描写も注目。
右から
23《獅子》昭和時代 櫻谷文庫
地面に臥したライオンを精緻にとらえています。その表情は内省的で思索するかのようです。櫻谷は生涯写生を重視しましたが、それをそのまま作品にすることはなく、自身の中で熟成させた新たなイメージを絵画に表現したといいます。この《獅子図》はそのなかでも櫻谷自身とも重なり合うような深い表情が印象的です。
24《角とぐ鹿》昭和7年(1932)櫻谷文庫
第13回帝展出品。鹿が可愛い目でこちらを見つめながら木で角を研いでいます。左隣には下図も展示。
徹底した写生をもとに卓越した技術と独自の感性で描かれた動物たちは、深い精神性をたたえており、まるで人間的な感情を持っているかのよう。100年ぶりに発見された作品など、見どころの多い展覧会です。再評価の気運が高まりつつある今、京都画壇の巨匠櫻谷の、青年期から晩年にいたるまでの、さまざまな動物画をぜひ会場で見比べてみてください。
生誕140年記念特別展『木島櫻谷』 ※会期中3月20日から一部展示替えあり。
会期:PartⅠ 近代動物画の冒険 2018年2月24日(土)~4月8日(日)
PartⅡ 木島櫻谷の「四季連作屏風」+近代花鳥図屏風尽し 2018年4月14日(土)
~5月6日(日)
会場:泉屋博古館 分館(港区・六本木)
休館日 :月曜日(4/30は開館、5/1休館)
開館時間:午前10時00分~午後5時(入館は4時30分まで)
入館料 :一般800円/高大生600円(中学生以下無料)
*団体(20名以上)2割引、障がい者手帳ご呈示の方は無料
ホームページ:公式サイト